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第68話 新製品大好評販売中

 最前線の陣地を巡る戦いから一夜明け、ホワイトウルフ商店は通常通りの開店時間を迎えた。


 死闘を繰り広げた翌日なので、今日一日くらいは休業して体を休めることも考えたが、開店を心待ちにしてくれている客も多いようだったので、予定を変えずに客を迎え入れることにした。


 トラブルの気配を微塵も感じない、平穏無事な一日の始まり。


 問題らしきものがあるとすれば、ガーネットとノワールに昨晩の酒が少し残っていることだろうか。


「すみません。アミュレットを触ってみてもいいですか?」

「どうぞ」


 ノワールが作ってきたマジックアイテムは、来客の関心をよく引いていた。


 想定していたターゲット層の冒険者だけでなく、グリーンホロウ・タウンの一般人もマジックアイテムに興味津々といった様子だった。


「え、タリスマン? 珍しい。行商人の屋台じゃないところで売ってるなんて。しかも安いかも……」

「そもそも、都会以外でマジックアイテムが販売されること自体がレアケースですからね」


 これらを作るには【魔道具作成】スキルで魔力を定着させる必要があり、スキルを持たない者には作成不可能なのだが、肝心の【魔道具作成】は魔法使いのサブスキルなのである。


 彼らは魔法使いとしての仕事や研究を最優先にしており、マジックアイテムを作るのは自分が必要になったときか、業者に売ってまとまった資金を稼ぎたくなったときくらいなのだ。


 結果、需要と供給のバランスが不安定となり、魔法使いが大勢いる都会でもない限り、マジックアイテムが店先に並ぶことは殆どないというのが常態化している。


 ……という主旨の説明を、昨日ノワールからしてもらった。


 冒険者の多くがマジックアイテムを活用していない理由がこれだ。


 大部分は偶然手に入ったものを一時的に使う程度で、定期的に仕入れて戦術に組み込む奴は少数派だった。


「(逆に言えば、安定供給されるなら冒険者も普通に使うようになるんだ。ノワールの奴、意外といい感じの需要を見つけたのかもな)」


 どこかでマジックアイテムを仕入れた行商人が、ごくまれにグリーンホロウへ売りに来ることはあるが、それ以上の供給はないのが現状である。


 スキマ需要は狙い目――以前にシルヴィアから聞かされた、彼女の祖母が言っていたという教えだ。


 マジックアイテムの販売もまさしくその典型例だろう。


「すまん、白狼さん。狩りのときに役立つお守りってのはないのかい?」


 カウンターにやってきた猟師の男が、マジックアイテムの陳列棚に目をやりながらそんなことを尋ねてきた。


「狩りのお守りですか?」

「ああ。獲物がよく捕れるようになる奴があれば一番いいんだが」

「俺はあまり詳しくないので、製作者に尋ねておきますね。作れそうなら商品に加えてみます」

「頼んだよ。もしも売りに出されたら、狩猟組合の全組合員分を発注するからな」


 笑って立ち去っていく猟師の男を見送ってから、手元のメモに先ほどのリクエストを記入しておく。


「(町民からのリクエストもこれで五つ目。やっぱり関心は抱かれてるみたいだ)」


 アミュレットやタリスマンの効能は戦闘に関わるものだけではないという。


 いわゆる『お守り(チャーム)』と呼ばれるものも、厳密に分類すれば受動的護符(アミュレット)能動的護符(タリスマン)のどちらかに該当する。


 健康を祈願するお守りや金運のお守りなんかもそうだ。


 問題はノワールの【魔道具作成】スキルでそういったものを作れるか、という点である。


 そんなことを考えていると、休憩に入っていた当の本人が売り場に戻ってきた。


「……休憩、終わった……」

「また住民からお守りの商品リクエストがあったぞ。今度は狩猟組合からで、成果を増やせる奴が欲しいそうだ。前々から気になってたんだが、こういうのって【魔道具作成】で作れるのか?」

「…………作れなくは、ない」


 ノワールは少し考えてから返答した。


「アミュレットも、タリスマンも……具体的で、限定的なほど、効果が高くなるんだ……不幸の呪いを防ぐアミュレット、とか……集中力を高めるタリスマン……とか」


 基本的に、アミュレットは持ち主への有害な干渉を退け、タリスマンは持ち主へ有益な干渉をするという違いがあるそうだが、今は関係のない話のようだ。


「逆に……曖昧だったり……範囲が広すぎたりすると……思うような効果は出ない……」

「例えば猟師の例でいうと、狩猟に関わること全般に効果のあるタリスマンを作ったとしても、効果は広く浅くなってしまうってわけか」


 ノワールはこくりと小さく頷いた。


「……それでも、相応の効果は出せる……と思う。それに……動物の痕跡に気付きやすくなる、とか、気配に気付かれにくくなる、とか……限定的なのも作れる……はず」

「なるほど。商品のラインナップに加えてみる価値はありそうだ」

「でも、注意点……実はお守り(チャーム)って、適当にたくさん付けちゃ、駄目なんだ……意外に、知らない人が多いけど……魔力の相互干渉で、効果を邪魔し合うから……狙った一個に絞るか……専門家に調整してもらうのが、一番だな……」


 俺はノワールから受けた説明をしっかりとメモに残しておいた。


 冒険者として精力的に活動していた頃から、俺は専門職の人間から得ることができた情報を大事に覚えるようにしている。


 自分自身が使える技能は【修復】スキルただ一つ。


 それでもなお冒険者という肩書にしがみつこうと思ったら、知識と経験を積み上げるより他になかった。


 今の自分に満足してしまったら、それはただの慢心だ。


 専門職から知識を得られる貴重な機会は、どんなものだろうと無駄にすることはできなかった。


 そして十五年も同じことを続けていても、こんな風にまだまだ詳しくない分野があるのだから、世の中は広いものである。


 仮に、世界中の人々が一瞬で知識をやり取りできる時代になったなら、俺の十五年間の努力と工夫も数日で乗り越えられてしまうのかもしれない。


 けれど、そんなものは未だ夢のまた夢。

 実現したとしても五百年や六百年は先のことだろう。


「リクエストされたマジックアイテムを全部作るとしたら、どんな材料が必要だ? とりあえずリストアップしておいてくれ。後でギルドハウスに収集依頼を出しておくからさ」

「あ、ああ……分かった……」


 ノワールはペンを片手に、集めておきたい素材をせっせと書き連ねている。


 その様子を横目で眺めながら接客を続けていると、ガーネットがさり気なく近付いてきた。


「シルヴィアから紹介された店員候補、春の若葉亭に到着したらしいぜ。早いこと会いに行って、採用するかどうか決めてきたらどうだ?」

「そうだな、今日の夜にでも行ってみるか」


 ガーネットとノワールに続く三人目の正規店員。

 無事に雇うことができれば、冒険者ギルドが紹介してくれる予定の四人目と合わせて、店の経営をより一層楽に進めることができる。


 その人物との面会を心待ちにしながら、今日一日の業務を着実に終わらせていくことにした。

今年一年お疲れ様でした。

来年も応援よろしくおねがいします。

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