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第654話 

 その後、俺達はユリシーズの船に乗り込んで、出発地点の湖畔に引き返すことにした。


 魔獣ダゴンとの大立ち回りを演じてから、一度も引き返さずに本来の作戦を続行したので、待機組には大きな心配を掛けてしまったに違いない。


 合流したらまずは心配させてしまったことを謝って、作戦がうまく行ったという吉報を伝えるとしよう。


 そんなことを思いながら、岸辺に停泊させた船から降り立った直後、湖に隣接した林の奥からレイラが駆け出してきた。


 レイラは遠目でも分かるくらい、激しい焦りと不安に襲われているようだった。


 彼女があんなにも気に掛けているのは、俺でもなければ探索成果でもなく、ユリシーズの船に相乗りしているはずのトラヴィスの安否だろう。


 なので俺は船の近くから離れ、さっさと降りてくるようトラヴィスに促した。


「トラヴィス様!」


 俺に続いてトラヴィスが陸地に降りたのと同時に、レイラがぶつかりそうな勢いで駆け寄ってきて、トラヴィスの体の状態を大慌てで確かめた。


「あ、あのっ! お怪我は! お怪我はありませんか!? いきなり湖に巨人が現れて、船の姿が見えなくなって、それで、それで……!」

「ははは、心配掛けてすまなかったな。こちらの損失は俺が魔力を使い果たしたことくらいで、見ての通り怪我はないぞ。第一、ルークがいるのだから怪我などすぐに治せるだろう」

「まぁ、わざわざこいつを【修復】する必要すらなかったんだけどな。完全に無傷で切り抜けやがったよ。ほんっと化け物じみてるよな」


 レイラの不安をできるだけ早く払拭させようと、あえて冗談めかした表現を使って、先程の戦いの推移を簡潔に説明する。


 少し遅れて駆けつけてきたトラヴィスのパーティーメンバー達も、リーダーに対する暴言一歩手前の言い方を咎めもせずに、俺が話す内容を聞き逃すまいとしていた。


「俺達を襲った巨大な半魚人は、アガート・ラムが目的地の島を守るために残していった、ダゴンという魔獣だったんだ。陸地(こっち)からも見えた通りの怪物だったんだが……最終的にはこいつが一撃で仕留めちまったよ」


 冒険者達の間でわあっと歓声が上がる。


 それにしても、あえて砕けた表現を使おうとしていると、何故か自然とガーネットの口調に似てきてしまう。


 トラヴィスと話すときは前々から無遠慮な喋り方ではあったが、最近は輪をかけて粗雑さが強くなった気がしないでもない。


 やはり一年以上に渡って寝食を共にしているから、知らず知らずのうちに口調が移ってきてしまうのだろう。


「巨大な魔獣を一撃で……やっぱりあれは私の見間違いじゃなかったんですね! 幻でも見たのかと思ってしまいましたが……」


 レイラは改めてトラヴィスに心奪われた様子で、胸の前でぎゅっと手を握っている。


「何だ、そこまで見えてたのか」

「巨大な半魚人に大穴が空いて、塵になって消えていくところまでは、待機組の誰もが目にしました。一体どうやって倒したのかは意見が分かれていたのですけど……私はトラヴィス様が飛びかかっていくのが見えた気がして……」


 運が良かったのか意外と目が良かったのか、それとも並々ならぬ思い入れの為せる技か。


 俺は肩を竦め、隣に立つトラヴィスの顔を見上げて背中を叩き、馬鹿でかい体をレイラの方に軽く押しながらその場を立ち去ることにした。


 当のトラヴィスはレイラからの眼差しに困惑と戸惑いを覚えているようだったが、ここはちゃんと一対一で応対してやるべき局面だ。


「それじゃ、待機組にもっと詳しい報告をしておくとしようか」

「お、おいルーク……!」


 助言を求める視線をわざと無視して、俺はパーティーメンバーの冒険者達にも場所を変えるように促した。


 遅れて船から降りてきたガーネット達も、空気を読んでトラヴィスとレイラの横を通ろうとせず、わざとらしいくらいの遠回りで俺の行く先についてこようとしている。


 ガーネット含む女性陣と年配のユリシーズはきちんと分かった上で距離を保ち、チャンドラーは周囲が遠回りをしているので流れに乗っている、といった雰囲気だ。


 アンブローズも皆と同じようにしている理由は……正直良く分からないけれど。


「そうだ。レイラ、悪いけどトラヴィスのことは任せていいか? 元気そうに見えても、まだまだ魔力が戻りきってないからさ。無理をさせないように見張っといてくれ」

「は……はい! 任せてください!」


 俺はそこで視線を切って場所を変えたので、これ以上は二人の反応を視界に収めることができなかった。


 しかし二人がどんなリアクションをしているのかは、見るまでもなく目に浮かぶようだった。


 きっとレイラは人間離れした武勇伝に興奮し、頬を紅潮させながら意欲充分といった様子でトラヴィスの世話をしようとするのだろう。


 そしてトラヴィスは、どんな強敵と戦うときよりも苦々しそうな表情を作りながらも、レイラから遠ざかりはせず大型犬のように大人しくしているのだろう。


 ここから先の現地における事後処理は、俺一人でも済ませられるものばかりだ。


 大仕事を終えたトラヴィスと、気が気でない状態で待ちぼうけを食らっていたレイラには、二人でゆっくり休息を取ってもらうことにしよう。

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https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] ルークからのご褒美。 しかし、レイラはトラヴィス信仰で新しいスキル開眼しそうな勢いですね
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