第652話
(8/7追記)
第651話として登校した本話ですが、直前に1話分のエピソード追加をしておきたいなと後になって思ったので、本話を第652話にシフトした上で次の投稿を前部分に挿入しました。
その後、俺とガーネットは服と体のコンディションをきちんと整えてから、まずはアレクシアと合流し、それから島の中央の連中のところに引き返すことにした。
偶然とはいえ、俺一人だけでガーネットを見つけることができたのは運が良かった。
メダリオンを取り出して体を元に戻してから、繕い直した服を渡して着替えさせる――これを人前で上手くごまかすのは難しかっただろうし、軽い違和感でも積もり積もれば決定的な疑念に繋がりかねないものだ。
まぁ、まかり間違って万が一のことがあったとしても、アレクシアならまだマシだろうし口止めも利くだろうが。
それはそれとして、最初にアレクシアと合流するまでの間、ガーネットから『人魚の姿になったのはお前の趣味じゃないのか』と繰り返し尋ねられてしまったが、まさかそんなはずは、と返答することしかできなかった。
確かに、スコルやハティのメダリオンで獣らしい姿にならなかったときは、俺の美意識が反映されたのではないかという仮説も浮かんだが、何でもかんでもそのせいではない……と思いたかった。
「ところで、最初に思いついた作戦ってのは何だったんだ?」
アレクシアとの合流を済ませ、水路沿いを島の中央に向かって歩いていると、ガーネットが何気ない態度でそんな質問を投げかけてきた。
「最初? ……ああ、アレクシアが来る前にやろうとしてた奴か」
「そう、それそれ。オレにリスクがあるとか何とかで躊躇ってた奴だよ」
「私も興味ありますね。差し支えなかったら教えて頂いても?」
ガーネットの問いかけにアレクシアも乗ってきた。
どう答えたものかと悩んで腕を組む。
今すぐここで答えられない理由があるわけではないのだけれど、先程の戦闘の結果を思い返すと、少々答えにくい気分になってしまう。
「……実を言うと、さっき試してみたんだが、予想に反して上手くいかなかったんだ」
「試した? いつの間にやったんだよ」
「ダゴンのメダリオンを矢弾に込めて撃ち出しただろ? あのとき本当は、スコルとダゴンの二つのメダリオンを同時に融合させようとしてたんだ」
ガーネットが驚きに目を丸くして、それからすぐに得心が行った様子で何度か頷いた。
「なるほどな。言われてみりゃ確かに可能性はある。ダゴンとマザーヒュドラが一体化してたんだから、オレ達も同じことができたっておかしくねぇ」
「だろ? まぁ結局は、スコルのメダリオンが押し出される結果になったわけだけどさ」
今回の戦いは初めての試みの連続だった。
そのうちのいくらかは、ぶっつけ本番であったにもかかわらず期待通りの成果を上げることができたが、しかし全てが成功を収めたとは言い難い。
スコルとダゴンのメダリオンの同時融合は、まさしくその典型例だ。
マザーヒュドラの討伐自体には成功したものの、当初の作戦の根底となる試みが失敗に終わったことを考えると、アレクシアが来てくれたのは本当に幸運だったと言わざるを得ないだろう。
「それってただ単に、スコルとダゴンの相性が悪かっただけなんじゃないですか?」
アレクシアが隣を歩きながら俺の顔を覗き込んでくる。
「魔道具を組み込んだ武器とか作ってると、毎度のように直面する問題なんですけどね。組み合わせる部品の相性が良くないと、思ったように機能してくれなかったりするんですよ」
「言われてみりゃ、オレもそんな感じがしたな。二つ目のメダリオンの力が流れ込んできたときに、何か言葉にしづらい違和感があったっつーか、外れんのが当然だなって受け入れられたっつーか」
確かにそういう可能性は十二分に考えられる。
一体化していたダゴンとマザーヒュドラは、どちらも明らかに水棲の魔獣であり、水の属性に親和性があって高い再生力を有するという共通点があった。
けれど炎の狼であるスコルと、水棲の半魚人であるダゴンとでは、生き物であるという以外の共通点を見いだせそうになかった。
蓋を開けてみれば、実はダゴンの再生力はマザーヒュドラ由来のものだったりするかもしれないが、その辺りを断言するには情報が足りていない。
「そうかもしれないけど、最初に試そうとしてたのはスコルとハティだったからな……炎と氷じゃ明らかに食い合わせが悪そうだ」
「でも両方とも狼だろ? 取り込んでるときの感覚も割と近いし、いけそうな気はすんだけどな」
「後で実験とかしてみたらどうです? 物は試しって言うじゃないですか」
「……どんなリスクがあるか分かったもんじゃないだろ。あんまり気は進まないんだが……」
あまり進んでやりたいと思っていない俺の傍らで、ガーネットとアレクシアの女子二人は――表向きには少年一人と女性一人なのだが――メダリオンの同時融合にやたらと興味を示していた。
機巧技師のアレクシアは技術者としての好奇心が理由で、ガーネットはより強力な戦闘能力への興味関心といったところだろうか。
いつものこととはいえ、第三者であるアレクシアはまだしも当事者のガーネットまでもが全力で乗り気なのは、もはやさすがとしか言いようがない。
肉体的な負荷やら何やらを気にしている自分の方が、ひょっとしたらかなりの異端だったりするのでは、なんて考えすら浮かんできそうになってしまうのだった――




