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第632話 

 旧魔王城の敷地でひとまず馬車を降り、黄金牙の騎士の誘導で建造物の内部に移動していく。


 そこで真っ先に俺達を迎えてくれたのは、一足先に第二階層から戻ってきていたトラヴィスだった。


「遅かったな、ルーク。珍しく寝坊でもしたか?」

「わざと出発を遅らせたんだよ。どうせ魔王城(ここ)で一泊することになるんだから、朝早くに出たって意味ないだろ」

「む、何だ寄り道もしなかったのか。せっかくなんだから、魔王城領域の変わりぶりを見て回ればいいだろうに」


 トラヴィスは俺がどんな返答をするのか理解したうえで、わざとらしく冗談めかして笑っている。


 現状、地上から中立都市(アスロポリス)までの移動は、地上から魔王城までに一日、魔王城から中立都市(アスロポリス)までに一日の配分が一般的だ。


 仮に朝早く地上を出て、魔王城を素通りして中立都市(アスロポリス)を目指したとしても、日没までにたどり着くことはまず不可能である。


 冒険者なら第二階層のどこかで野営をするのも選択肢に入るが、今日はレイラも連れてきているので、道中に魔王城と中立都市(アスロポリス)以外で夜を明かすのは避けたいところだった。


「さて、こんなところで立ち話も何だ。とりあえず適当な部屋に場所を移そうか」


 トラヴィスに連れられて、エントランスから城の奥に向かって移動していくことにする。


 その間、俺とトラヴィスは大した目的もなく、とりとめもない雑談を交わし続けた。


「懐かしいな。さっきのエントランスホール、魔将スズリやノルズリとやり合った場所だ」

「あそこから床を破って地下に落ちて、魔王ガンダルフと対峙したのだったな」

「普段は正面の門から出入りしてたんで、こっちを通ったのはあれ以来だ。意外と細かいとこまで覚えてるもんだな」

「記憶力は昔からお前の取り柄だっただろう。あのときは俺達も後を追って増援に駆けつけたが、偽物の肉体とは思えんほどの実力だった……思い出しただけでも胸が滾るな」


 俺もトラヴィスも思いついたことを適当に喋っているだけなので、今ひとつ会話の繋がりが曖昧だ。


 しかし第三者から見るとそうは思えなかったらしく、トラヴィスが連れていた若手冒険者やレイラは、やたらと神妙な態度で聞き耳を立てているようだった。


 ちなみに俺とトラヴィスの関係性に慣れきっているガーネットあたりは、会話内容を聞き取ろうとすらしていない様子で、白狼騎士団側の面子と何事か話し込んでいる。


「ところで、お前の店のレイラは初めて魔王城に来たらしいじゃないか。あまりに普通の城で拍子抜けしたんじゃないか?」


 俺の左側を歩くトラヴィスがそんな風に話題を切り替えてきたので、左を向いて視線を上げて一通り話を聞いてから、今度は右側を歩くレイラの方に顔を向けて視線を落とす。


「そ、そうですね……魔族の城と聞いていたので、もっと陰鬱でおどろおどろしい場所かと思っていました。黄金牙騎士団が占領中に改装でもしたのでしょうか」


 レイラは目線を上げて俺と顔を合わせながら、トラヴィスからの質問に答えた。


 俺はこの辺りで既に、何やら釈然としないものを感じていたわけだが、とりあえず左側斜め上に視線を動かしてトラヴィスの方に目をやる。


「お前なら説明するまでもなく知っているだろうが、内装自体はほぼ当時のままだ。魔王ガンダルフは真っ当に威厳を取り繕うことも重視していたようでな。最初から人間の美的感覚でも美しいと感じるような造りになっていたのだ」


 再びレイラのいる右側に視線を落とす。


「なるほど、そうだったんですか。ルークさん達が魔王城に宿泊していると聞いて、もっといい場所で寝泊まりできないのかなと思っていました」


 レイラの視線に見送られながら、またもやトラヴィスに顔を向ける。


「第一階層なら……いや、更に下の階層を含めたとしても、この城が最も快適な環境だぞ。ホロウボトム要塞は軍事基地の趣が強すぎて、あそこの部屋を借りるくらいならギルド支部まで足を運びたいところだな」


 さっきからずっとそうだったが、トラヴィスは明らかに俺の方だけに目を合わせようとしている。


 いい加減に呆れがピークに達してしまったので、不意打ちで足を止めてトラヴィスとレイラから一歩引いた位置を取る。


「ええい、鬱陶しい。わざわざ俺を間に置いて話すんじゃない。二人でやれ、二人で!」

「なっ……! しかしだな……」

「て、店長を差し置いて、一店員がでしゃばるわけにはいかないかと……」


 言い訳がましい二人に据わった眼差しを送りながら、ガーネットの肩を軽く叩いてこっちに意識を向けさせる。


「レイラの案内はトラヴィスに任せて、俺達は黄金牙の隊長に挨拶してこようか。部屋割なんか案内されても今更だしな」

「あん? ……何だよあっちは案の定か。ったく、しゃーねーな……アレクシアもチャンドラーもさっさと行こうぜ」


 ガーネットもやれやれと言わんばかりの表情を浮かべながら、他の連中に声を掛けて廊下の曲がり角を曲がっていく。


 アンブローズやユリシーズもトラヴィス達の間柄を察したのか、それとも最初から関心を抱いていなかったのか――特にアンブローズはそんな気がする――あっさりとガーネットの後ろをついて行った。


「じゃ、後は任せた」

「お、おい待てルーク!」


 柄にもない声を上げるトラヴィスを置き去りに、俺もガーネットの後を追って小走りに立ち去ることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダブルデートもあり得たのに、逆にガーネットが気を利かせてしまったか
[一言]  爆ぜろォッ!?
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