第552話 王国使節団の到着
魔王軍との対面に望む使節団の派遣――その第一報が入ってからしばらくの日数が過ぎた。
もうじき到着するであろう使節団の扱いを巡って、グリーンホロウ・タウンに駐留する騎士団はどれも大忙しの日々を送っている。
地上における警備と要人護衛を担当する、銀翼騎士団。
魔王軍に睨みを利かせ、戦争再開となれば最前線での戦闘を担当する、黄金牙騎士団。
そして冒険者達のダンジョン探索を統括し、王宮や他騎士団との仲立ちを担当する、白狼騎士団。
特に白狼騎士団は『元素の方舟』の謎の究明も役割の一つであるため、使節団の派遣を他人事として受け流すことはできなかった。
三つの騎士団それぞれの責任者は日夜話し合いを重ね、使節団を地上のどこで受け入れ、どのような護衛チームの構成で第四階層に送り届け、どういった形で会談前後の安全を確保するかといった、様々な案を練り続けた。
やがて努力の甲斐あって案も纏まり、後は使節団の到着を待つばかりとなったのだが――
――とある昼下がり、久々にホワイトウルフ商店の方で勤務していた俺のところに、銀翼騎士団のフェリックス副長が訪れた。
「先程、早馬による連絡が入りました。使節団が山の麓まで到着し、今日中にはグリーンホロウへ辿り着けるとのことです」
「ようやくですか。分かりました、受け入れ準備をした方がいいですよね」
「お願いします。使節団はまず町役場を訪問するそうです」
フェリックスに返事をしてカウンター裏の椅子から立ち上がり、会計作業をしているエリカに向き直る。
「聞こえたな。悪いけど、ガーネットを連れてちょっと行ってくる。店の方は閉店まで任せていいか?」
「もちろんです! お任せください!」
自信満々に頷くエリカ。
うちで働くようになってすぐの頃は、自分の価値にいつも自信なさげにしていて、支店の店長もまだ早いから無理だと言っていたというのに、今はすっかり頼れる存在になっている。
エリカの成長ぶりを内心で嬉しく思いながら、裏で作業をしていたガーネットを呼び出して、グリーンホロウの市街へと駆けていく。
まずは春の若葉亭を訪ねて使節団の到着予定を報告。
女将の代わりに俺達を出迎えたシルヴィアは、事前に打ち合わせを済ませていたのもあり、胸を張って受け入れを請け負ってくれた。
「同業者組合でちゃんと話を通してあります。貴族の方とかは高級路線の宿に泊まっていただくとして、騎士や兵士の方々は、うちを含めた複数の宿で分担して受け入れるように根回し済みです」
「助かるよ。やっぱり持つべきものは頼れる友人だな」
「こちらこそ、ルークさんにはいっつもお世話になりっぱなしですから。こういうときに役立てないと、町一番の看板が泣いちゃいますよ」
使節団メンバーの地上での受け入れ先については、ほとんど春の若葉亭に丸投げ状態になっていた。
素人がああだこうだと口出しするべきじゃないと考えてのことだったが、シルヴィアや女将さんは思わず脱帽してしまうくらいの手際で準備を進めてくれたのだ。
続いて町役場に赴いて、到着後の事務作業に向けた下準備が、どれくらい進んでいるのかを確認する。
この分野ではソフィアがとても優れた能力を発揮してくれた。
騎士団を監視する騎士団である青孔雀騎士団出身のソフィアは、書類仕事という点においては、俺が知る誰よりも手際が良くて抜け目がない。
一足先に町役場へ来ていたソフィアのおかげで、俺達が到着した頃には、もうこれ以上は何もすることがないくらいに仕事が片付いていた。
「団長殿、こちらが報告書になります。後は使節団の到着を待つばかりですね」
「……本当、何から何まで頼りっぱなしだな」
「むしろ光栄です。疎まれがちな青孔雀をここまで頼りにしてくださったんですから。ご期待に答えられないようなら、青孔雀の名が廃るというものです」
シルヴィアもソフィアも自分の仕事に誇りを持ち、全力で役割を果たしてくれている。
次は俺がするべきことをする番だ。
全ての準備が滞りなく終わったのを確かめて、使節団の到着を町役場で待ち続ける。
そして太陽が森の奥へ沈み始めた頃、大規模な冒険者パーティを越える人数の一団が、グリーンホロウの町の門を潜って大通りを上ってきた。
先頭を行く騎馬部隊の隊長が町役場の前で馬を降り、軒先で使節団を待っていた俺達の前で兜を脱ぐ。
黒髪に赤い瞳をした壮年の男――どちらもうちのレイラと同じ身体的特徴だ。
「ルーク・ホワイトウルフ様ですね。王国使節団、只今到着いたしました。私は護衛隊隊長のクライドと申します」
「お待ちしておりました。それではまず、司令部の方々はこちらの町役場にお入りください。お供の方々はそれぞれの宿にご案内します」
「ご親切、痛み入ります」
すぐにでも責任者と打ち合わせをしたいところだったが、いくらなんでも中央広場にこれほどの人数を立たせておくわけにはいかない。
長旅で疲労が溜まっているだろうし、何よりも純粋に通行の邪魔になる。
というわけで、白狼騎士団の面々と銀翼騎士団からの応援の人員で手分けをして、騎士や兵士を確保しておいた宿に振り分けていく。
その間に、俺は並行して使節団の中枢メンバーに町役場の中へ入ってもらうことにした。
「騎士や貴族の方はよく分からないんだが、俺が見ても分かる大物もいるな……冒険者ギルドの幹部だ」
「マジか。ギルドの方も本腰入れてやがるんだな」
「多分、ダンジョンと魔族のエキスパートってことで呼ばれたんだろう。幹部連中は全員が名の知れた冒険者だったからな」
続々と入ってくる面々を見やりながら、俺とガーネットはこっそりと小声で囁きあった。
「……だけど、いくらなんでもあのクラスの幹部が腰を上げるか? 普通ならその弟子クラスが送られると思うんだが……」
使節団の構成員に何とも言い難い不自然さを感じながら、代表を名乗る人物のところへと移動する。
しかしその人物の顔を見た瞬間、ギルド幹部の出現に対する驚きは、一瞬で吹き飛んで消えてしまった。
「久しいな、ルーク卿。王都以外で顔を合わせることになるとは、お互い夢にも思わなかったのではないか?」
「……っ! 貴方は……キングスウェル公爵!」




