表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
525/759

第525話 イーヴァルディの神技に迫れ

 ――やがて、実験室での模擬戦は成功裏に終わりを迎えた。


 多くの手間と時間を費やしただけの価値はあり、今後の活動の参考にできる貴重なデータを大量に得ることができた。


 特に重要だったのは、陛下から授かった物も含めたメダリオンの限定覚醒と、アダマント製の剣を併用した実戦運用試験だろう。


 剣はまだミスリル加工と魔法紋の刻印が未達成であるが、それを除いても使い慣れていない武器であることに変わりはない。


 新たな力と新たな武器。

 実戦に挑む前に適切な運用のためのデータを集め、更に使い慣れておくのは必要不可欠と言ってもいい。


 もちろん収穫はそれだけではなく、アンブローズ曰く魔法的な側面からも新たな知見が得られ、特定の分野では大きな発達が見込めるのだそうだ。


 そして後片付けをチャンドラーやエディ達に任せ、俺達は勇者エゼルの剣を解析するために、一回り小さな作業室へと移動したわけだが――


「さっきのガーネット、本当に良かったなぁ。可愛かったし格好良かったし……」

「どうでもいいだろ、そんなこと。アガート・ラムと戦うための強化に見た目の良さなんざ関係ねぇよ」


 観戦の余韻に浸る勇者エゼルに、ガーネットは心底どうでもよさそうな呆れ顔を浮かべている。


「いやいや、見た目は重要だってば。いくら性能が良くても、その格好で死んじゃうかもしれないっていうのに、格好悪い装備なんか着ていられないでしょ。騎士の鎧もそうじゃないの?」

「む……まぁ、そういう意図があるデザインなのは否めねぇけど。もっと魔獣らしい外見だったとしても構わなかったって話だよ」


 俺は口を挟まずに準備を進めていたが、エゼルの主張には二重の意味で賛同できた。


 装備品の見た目の良さを判断基準にするのは、冒険者でも割とありがちだ。


 命が懸かっているのだから見た目に拘るな、と考える奴は少なくないが、そういった連中も『自分が許容できる最低限度の外観』というものは持っていることが多い。


 その手の連中は、あくまで過度な華美さを求めることを戒めているのであって、美的感覚を害する格好を拒むことまでは否定していないものだ。


 ミランダ裁縫店の店主が気にしていた事柄とも共通するのだが、冒険者の装備品はそのまま()()()となりかねない。


 落命が避けられないのであれば、せめて死に様だけでも醜くないようにしたいというのは、人間として当然の欲求といえるだろう。


 ……ちなみに、もう一つの『賛同』というのは、限定覚醒したガーネットの姿形が格好いいだの可愛いだのといった話題の方である。


「あー、耳とか尻尾とか触らせてもらったら良かったかなぁ」

「雑談はそこまで。作業を始めるぞ」


 俺がそう伝えると、エゼルはすぐに雑談を切り上げて、ガーネットと一緒に俺の左右へと移動してきた。


 作業台には二振りの剣が横たえられている。


 ミスリル合金化を施されたイーヴァルディの剣。

 純アダマント製の魔王ガンダルフの剣。


 両方とも絶世の名剣と呼ぶに相応しい代物ではあるが、前者にはスキルの効果を増大させる魔法的な機構が施され、後者はただ純粋に剣として優れた性能が与えられている。


「これで何かしらの手掛かりが見つかればいいんだけどな……」


 いつものように右目に手をかざして『叡智の右眼』を発動させ、更に左右の手をそれぞれの剣にあてがう。


「スキル発動……【解析】開始……!」


 今の俺に実行可能な分析手段の同時発動。


 イーヴァルディが生み出した二振りの剣の構造を、並行して『右眼』と【解析】によって読み取っていく。


 どちらも無造作に使っただけで全てを読み解く能力ではなく――単純に比例するわけでもないが――力を注げば注ぐほどに効力を増すことが期待できる。


 これほどまでに状況を整えて何も分からなかったなら、このアプローチそのものが間違っていると考えるべきだろう。


「…………」


 曲がりなりにも武器屋を始め、それなりに多くの剣にスキルを使ってきた。


 その経験が告げている。

 これらの剣は本当に優れた技術で生み出された代物だと。


 仮に普通の鍛冶屋と同じ道具や同じ材料を使い、同じ形状の剣を打たせたとしても、イーヴァルディの剣は格段に優れた性能を実現したに違いない。


「(二つの剣に共通の内部構造……これはきっとイーヴァルディの手癖みたいなものだ。同一人物の手で作られたものだから、作業手順も酷似していて、金属内部に同じような構造が残る……)」


 集中力が増していくに従い、両手と『右眼』以外から伝わる感覚が意識から薄れていく。


 隣で分析作業を見守るガーネットとエゼルの存在もいつの間にか認識から外れ、左目の普通の視界すらも気にならなくなる。


「(……それはつまり、二振りの剣に()()()()()()()構造を見つければ、それはガンダルフの剣だけが持つ性質のはず……)」


 次第に『右眼』の視界が研ぎ澄まされていき、より小さな、より細かな構造までもが見えてくる気がしてくる。


 いつしか俺は高揚感のようなものすら感じ始め、夢中になって【解析】に意識を注いでいった。


「(そうか……ひょっとしたら、これは……剣を構成するアダマントは一種類じゃないのか? 部位によって微妙に質の異なるアダマントを使っていて、それらの絶妙なバランスで切れ味を実現している……のかもしれない……)」


 アダマントではない鋼も千差万別。


 確かアレクシアも、単純な鉄鋼一つとっても複数の種類があり、部品によって使い分けていると言っていた。


 サクラの刀も複数の鉄鋼を重ね合わせた構造をしていたが、この剣はもっと複雑で繊細かつ、一目では分かりにくい作りをしている。


「(だとしたら……俺は単純にミスリルを全体に【合成】させただけで、このバランスを崩してしまったんだな。だけど……それで普通の剣で斬れるくらいに劣化するだなんて、アダマントって奴はどれだけ加工しにくい代物なんだ……)」


 更に目を凝らせば、もっと詳しいことが分かるかもしれない。


 そう思って『右眼』に魔力を込めた瞬間。


 ――パキリ、と。


 何かが割れるような音がした。


 剣に破損が生じたわけではない、むしろもっと『右眼』に近い場所から聞こえたような――


「――ルーク!」


 ガーネットの叫びと共に頬が強く引っ叩かれ、俺の意識が急速に集中の底から引き戻される。


 はっと顔を上げてみれば、不安に息を荒らげたガーネットが、両手で俺の顔を掴んで間近から見上げてきていた。


「気が付いたか!? その右目、大丈夫なのかよ!」

「右目? ……痛っ!」


 何故か右の目尻付近に痛みが走る。


 そっと触れてみると、皮膚にひび割れたような裂け目が生じていて、流血こそないものの疼くような痛みを生じさせていた。


 俺はすぐに【修復】を発動させて、傷口を塞ぐと同時に『叡智の右眼』を解除した。


「……大丈夫だ。ちょっと魔力を込めすぎたのかもな。とりあえず、今日のところはこれくらいにしておこうか」


 心の底から心配そうにしているガーネットとエゼルを落ち着かせながら、俺はひとまず二振りの剣を片付けた。


 うっかり魔力を集めすぎたせいで、右目の周辺が負荷に耐えきれなくなったのかもしれない――それが楽観的な仮説であることは承知の上で、ひとまずこの場はそういう理屈で収めることにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載!】
空往く船と転生者 ~ゲームの世界に転生したので、推しキャラの命を救うため、原作知識チートで鬱展開をぶち壊す~
ゲームの世界に転生した主人公が、原作では死んでしまう推しキャラの命を救うために、原作知識をフル活用してあらゆる困難を退けるストーリーの長編です。

【商業出版紹介】
書籍版、コミカライズ版大好評発売中! 
コミック版第4巻作品ページ
書籍版第5巻作品ページ
コミカライズ版は白泉社漫画アプリ『マンガPark』で連載中!
https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] >「――ルーク!」 お、「白狼の」じゃないんですか(・∀・)ニヤニヤ
[一言] 最近右目に頼りすぎていたのが裏目に出たのだろうか
[一言] 使用制限?なんだろう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ