第511話 若きドワーフと武器屋の店主
その翌日、通常の営業を開始したホワイトウルフ商店の本店に、珍しい知り合いが顔を見せに来た。
「いやぁ。お久し振りです、ルーク店長」
「ん、ニューラーズじゃないか。こっちに来るなんて珍しいな」
地上では滅多に姿を見ないドワーフの登場に、店の客達も珍しいものを目の当たりにしたような目を向ける。
ドワーフのニューラーズ――『魔王城領域』の旧魔王城の城下町に暮らすドワーフの一人。
魔王軍による破壊活動で荒廃した城下町の復興と、断絶しかけた鍛冶技術の復興と維持を目指し、その一環として自作の武器をホワイトウルフ商店に納入するようになった若者である。
「ルーク店長が地上の首都から戻られたと聞きまして。たまにはご挨拶くらいした方がいいかなと」
「なるほど。支店長からも聞いてると思うけど、君が作った武器はなかなか好評だよ」
忙しい時間帯というわけでもなかったので、会計カウンター越しに身を乗り出してニューラーズと話し込む。
ニューラーズは人間の子供が比較対象になるくらい背が低いため、こうしないとうまく視線が合わせられないのだ。
「地上だと、昔からドワーフ製の武器は質がいいっていう伝説があるからね。普通はダンジョンで見つけるしかない代物が、人間の店で安定して手に入るって評判なんだ」
「いやぁ……嬉しい反面、製品を送るたびに緊張しますよ。ずっと昔に交流が途絶えたっきりとはいえ、同族の評判を落とすわけにはいきませんからね」
「まぁ、需要の大半がそれなり以上のランクの冒険者なもので、主に支店の方で売れてる商品だから、こっちにはあまり置いていないんだけどさ」
ニューラーズの武器は『元素の方舟』の第一階層の鉄で打たれ、城下町で仕上げられてから、地上の――厳密には『元素の方舟』と地上を繋ぐ開放型ダンジョン『日時計の森』のギルド支部に運び込まれる。
そしてギルド支部の一画を借りて経営している、ホワイトウルフ商店の支店で冒険者達に販売されているという形を取っている。
こっちの本店に回ってくるのは、支店から更に融通してもらった商品くらいであり、全体の比率としてはさほど大きくはない。
「最初は剣の本体だけそっちに作ってもらって、拵えはこっちでやってたけど、やっぱり全部そっちで作った方が評判はいいみたいだな。次からはもっと割合を増やしてもらってもいいか?」
「もちろん構いませんよ。あれって町のおばさん達の手工芸なんですけど、自分もやりたいってヒトが増えて順番待ちになってたんです」
ニューラーズの明るい語り口調からは、魔王の支配によって住人の心が沈み込んでしまったドワーフ達の町が、次第に活力を取り戻しつつあるのが伝わってくる。
どうやらニューラーズの試みは成功に近付いているようだ。
「でも、どうして自分達が作った方が人気なんでしょう。性能的には変わりませんよね」
「性能より雰囲気の問題だろうな。地上の拵えとは雰囲気が違うから、ドワーフ製の武器を買うならそっちがいいって思わせるんだ。俺も冒険者視点で考えると、値段に大差がなければ全部ドワーフが作った方を選ぶだろうな」
興味深そうに頷き納得するニューラーズ。
俺達と『魔王城領域』のドワーフ達とでは、種族だけでなく生活環境からして大きな違いがある。
いわば人間同士のそれを越える異文化交流だ。
そんな会話を交わしながら、ふと気になったことを尋ねてみる。
「今はもう他のダンジョンのドワーフとは交流がないみたいだけど、ひょっとして大昔はそれなりに交流があったりしたのか?」
「あくまで言い伝えですけどね。遠い昔は魔法か何かで他のダンジョンのドワーフとも話ができていたけど、いつしかそれもできなくなったと聞いています」
「へぇ、具体的な手段は伝わってないのか」
「残念ながら。下の階層とも連絡が途絶えて久しかったのに、他のダンジョンなんてとてもとても」
中立都市の管理者はそんな手段があったと言っていなかったが、彼は――あるいは彼女は――機巧の類に興味を示さず知識も持たなかったらしいから、そのせいかもしれない。
恐らくフラクシヌスは『元素の方舟』ダンジョンの自然を保つことが役割だったのだろう。
機巧やゴーレムなどの工業的な分野はイーヴァルディが担っていたとして、ガンダルフは政治的な分野の担当だった……といったところか。
「……なぁ、ニューラーズ。これはホワイトウルフ商店の店長としての質問じゃないんだが……」
周囲から客の姿が消えたタイミングを見計らい、俺はすかさず本題を切り出すことにした。
いずれ地下に赴いて尋ねようと思っていた事柄だったが、本人の方から来てくれたのなら、この機会を見逃す理由などない。
「魔王ガンダルフが使っていたアダマントの剣――これについて、君の町には何か伝わっていなかったか?」
「アダマントの……?」
「さっきみたいに言い伝え程度でも構わない。ガンダルフの剣じゃなくて、金属資源としてのアダマントについての情報でもいい。何か知っていたら教えてくれないか」
「うーん……ガンダルフの剣……アダマント……」
ニューラーズは腕を組み、首を傾げて考え込み、やがて申し訳無さそうに返答した。
「ごめんなさい。アダマントも伝説でしか聞いたことがなくって……町に戻ったら長老達にも尋ねてみます」
「ありがとう、助かるよ。ナタリアにも話を通しておくから、何か分かったらあいつに伝えておいてくれ」
トントン拍子で都合よく話が進むとは、最初から思っていない。
できることを一つずつ積み上げていくだけであり、ニューラーズに問いかけたのもその一環だ。
ニューラーズは軽く別れの挨拶をしてカウンター前から立ち去ろうとし、その途中で何かを思い出した顔で振り返った。
「そうだ! 一個思い出しました! 本当に関係あるかは分からないんですけど……」
その内容は、俺にとって注目せざるを得ないものだった。
「勇者様に献上させていただいた古い剣なんですが、あれを打った工匠は、かつてアルファズル様が生み出した特別な金属を用い、一振りの聖剣を仕上げたと伝えられています」
「……アルファズルが生み出した……」
「伝説によると、その現物はとっくに失われてしまったそうです。自分達が知る中で最高の剣といえばこれなので、ひょっとしたらと思ったんですが……」
ニューラーズが勇者エゼルに献上した剣は、他でもないイーヴァルディの作であった。
つまりアルファズルが生み出した特別な金属で、イーヴァルディが勇者エゼルの剣とは別に一振りの剣を仕上げたということであり――偶然と切って捨てるには符合しすぎている。
「……なるほど。助かったよ、ニューラーズ。こいつは貴重な情報だ」




