第503話 セオドアの探索結果報告
ユリシーズの伝言を受け、俺はひとまず騎士団本部を出て、冒険者ギルド支部へと足を運ぶことにした。
昨日は王都からグリーンホロウに戻った時点で既に夜も遅く、今日は朝から書類作りに精を出していたので、帰還してからギルドに足を運ぶのはこれが初めてになる。
騎士団と冒険者ギルドの連携についても話さなければいけないと思っていたので、この呼び出しはいい機会だ。
山中の開放型ダンジョン『日時計の森』の林道を下り、底に位置するホロウボトム支部へと足を踏み入れて、支部長のフローレンスの執務室へ向かう。
この支部とは設立当初から何かと協力しあってきた関係で、フローレンスはルーキー時代からの付き合いなので、急な訪問でも顔パス同然に訪問することができた。
まぁ、曲がりなりにも騎士団長扱いで、地元の名目上の領主であるという肩書の方が大きいのかもしれないが。
「フローレンス。用事って一体――」
護衛役であるガーネットを連れて執務室に入ると、そこにはフローレンス以外にもう一人、予想外の顔見知りの姿があった。
余裕綽々な態度で寛ぐ、貴族然とした青年。
この町を拠点とする四人のAランク冒険者のうちの一人。
「セオドア卿! どうして貴方もいるんですか」
「やぁ! 久しいね、ルーク」
Aランク冒険者、セオドア・ビューフォート。
大貴族の跡取り息子でありながら、ドラゴン狩りを楽しみたいがために冒険者ギルドに所属した変わり者。
このグリーンホロウでも、他の冒険者達が熱心に取り掛かっている『元素の方舟』第二階層の探索ではなく、ドラゴンが棲息する第一階層に執着し、現地のドラゴンがどこから現れるのかを調べ続けている男だ。
「どうしてもこうしてもないさ。支部長に君を呼び出すようお願いしたのは、この僕だよ。君の力を借りなければならないときが来たようなんだ」
俺は来客用に設けられたソファーに腰を下ろし、反対側に座るセオドアと向かい合った。
フローレンスは側面の一人掛けの椅子に座っていて、ガーネットは定位置である俺の隣を当然のように確保している。
「ああ……なるほど。用件は何となく分かりました。でも一応、変な思い込みになっているといけないので、念のため説明して頂けますか」
「それは私から説明させてもらいますね」
支部長のフローレンスが口を開く。
普段、セオドアは何かあれば俺達のところに案件を直接持ち込んでいる奴だ。
物資の発注も手伝いの依頼も、使者を送ってくるだけではなく、本人が自分の足でホワイトウルフ商店を訪れて済ませることも珍しくない。
そんな奴が、あえて冒険者ギルド支部を通して接触してきたということは、ギルドを無視することができない重要な案件ということだ。
「御存知だとは思いますが、セオドア卿は第一階層に棲息するドラゴンの発生源を探り、地下空間内の岩山地帯の奥にある大穴の調査を行っていました」
この場にセオドアが居合わせているからか、フローレンスはプライベートで会話するときの砕けた話し方ではなく、支部長らしい振る舞いで説明を始めた。
ここまでは以前から把握している情報の再確認。
本題に入る前振りのための下りだ。
「先日、遂にセオドア卿の探索が大きな成果を挙げました。大穴の踏破に成功し、その先の新階層に到達したそうです」
「本当ですか? 新階層というと、まさか第三階層に?」
「いいえ……どうやらそこは、第三階層ではなく第四階層であるようなのです」
想定外の一言に驚愕し、隣のガーネットと顔を見合わせる。
「それはつまり、第一階層から……最深部の第四階層まで貫く大穴だったということですか?」
「恐らくは。セオドア卿の報告を聞く限り、他の可能性は限りなく低いといえるでしょう」
現時点までに判明している限りの情報では、『元素の方舟』は四大元素になぞらえた四つの階層で構成されたダンジョンだと考えられている。
かつて『魔王城領域』と呼ばれた第一階層は、荒涼とした岩山と荒れ地が広がる『土』に相当する階層。
第二階層は『水』であり、豊富な水源と無数の木々に覆われた、多くの魔族が暮らす自然豊かな階層だ。
そして、第二階層よりも更に深い第三階層こそ、俺達が――冒険者も騎士も含めて――目指している当面の目的地である。
象徴する属性は恐らく『風』であり、第二階層の魔族達を統治する支配者階層が暮らしている……はずだったが、今は状況が変わってしまっているらしい。
支配者階層から第二階層に対する干渉は、ある日を境にぱったりと途切れてしまい、その一人だった魔王ガンダルフも軍勢ごと敗走して第一階層に逃れてしまった。
現状、第三階層はアガート・ラムの本拠地になっていると考えられており、このダンジョンに絡むあらゆる問題の根源であると目されている。
「大穴の底は新たな地下空間の天井に繋がっていました。そこは溶岩と炎に照らされた灼熱の空間であり、大規模な集落が存在した痕跡は全く見られなかったそうです」
「今のところはドラゴンを始めとした魔物しか見つからないね。知恵を持つ魔族にはまだお目にかかっていないよ」
セオドアも横から補足を加える。
話を聞いただけでも、管理者フラクシヌスが言っていた第三階層とは、似ても似つかない環境だとしか思えない。
「ギルド支部としましては、第四階層の探索にも大きな価値があるものと考えています。第二階層から第三階層へ通じる道は隠蔽もしくは破壊され、未だに利用可能なものが見つかっていませんが……」
「……第四階層から上っていくルートなら、アガート・ラムも注意を払っていない可能性がある。そういうことですね」
そのとおりだとばかりに頷くフローレンス。
正面からでは難攻不落の陣地を裏手から攻めるようなものだ。
「現時点はまだ第四階層に到達したばかりでね。拠点もまだろくに作れていない……というか、あまりに環境が過酷すぎて長く探索することもできないんだ」
そしてセオドアは、座り方を変えるように身じろぎをしてから、ソファーに座ったまま身を乗り出して俺の目を覗き込んだ。
「だからこそ君達の力を借りたい。白狼騎士団ではなく、君の大切なホワイトウルフ商店の力だ。話を聞いてもらえるかな?」




