第499話 重なり合わさる二つの道
陛下はにやりと笑みを浮かべて椅子に腰を下ろすと、俺達に楽な姿勢を取るように促してから、正体不明のメダリオンについて語り始めた。
「俺が国王になった経緯は前にも話したな」
「はい、存じております」
今から二十年以上前、まだ大陸がいくつもの国に分かれて争っていた時代、アルフレッド陛下は名の知れた冒険者として活動していた。
そんな折、後にウェストランド王国へと名を変えることになる国家の王が、とある条件を満たした者に王位と王女を与えようと考えた。
当の王女はそれに反発し、条件が公表される前に正体を隠して冒険者になり、陛下のパーティーに加わっていくつもの冒険を共にしたという。
やがて二人は正体を明かさぬままに惹かれ合うも、王位継承の条件が明かされると同時に王女も連れ戻されてしまう。
これを受け、陛下は王女のために自分自身が王となることを決意。
先王の要求を見事に達成して国王の座を継いだのだが――
「そのための条件として先王が提示した条件は、とあるダンジョンの最深部に隠されたアーティファクトを手に入れることだった……これも既に教えたはずだ」
「まさか、それがこのメダリオンだったということですか?」
「然り。まぁ、当時は魔獣を生む代物とは夢にも思わず、単なる戦利品……討伐の証を求められたのだろうと解釈していたが……」
「討伐……?」
ふと聞こえた単語をオウム返しに聞き返す。
陛下はそこまで話すつもりはなかったらしく、しまったとばかりに苦笑を浮かべた。
「口走ってしまったものは仕方がない。アンジェリカと共謀して大きな秘密を隠している負い目もあるしな。それくらいは教えておくか。とはいえ想像は付くだろうから、答え合わせにしかならんかもしれんが」
メダリオンに討伐とくれば、嫌でも背景が想像できてしまうものだが、答え合わせをしてもらわなければ気になってしょうがない。
「先王が求めたこのアーティファクトは、ダンジョンの奥底に潜んでいた、氷と冷気の力を持つ巨大な狼型の魔物を討伐して得たものだ。厳密には、これを破壊したことで討伐できたと言うべきかもしれん」
「魔獣スコルもメダリオンをもぎ取ることで機能を停止しました。やはり陛下が戦った巨狼も同じものだったのでしょうか」
「フェンリルウルフの群れを従えていた点も酷似しているな。しかし詳細を調べ直す手段はなさそうだ」
陛下は再び椅子に体重を預け、過去を思い返すかのように視線を上げた。
「アレを討伐した後はフェンリルウルフも姿を消し、あのダンジョンもただの地下建造物となってしまった。冒険者ギルドもダンジョンランクを大幅に下げ……いや、もう何もないということで取り消されたのだったか?」
その魔獣もフェンリルウルフを眷属として生み出していて、本体が撃破されたことで眷属も消え失せたというのなら、それもまたスコルとの共通点だ。
やはりスコルと類似した魔獣のメダリオンと見るべきだろう。
「先王は詳細を語ることなく崩御したゆえ、どうやって巨狼とメダリオンの存在を知ったのか、どこまで真相を突き止めていたのか……何故それを条件として指名したのかも分からぬままだ」
世の中には、どうあがいても分からずじまいになる謎もある。
どうやら先代国王の意図も、残念ながらそうなってしまったらしい。
もしかしたら――これは完全に俺個人の想像なのだが、先王は魔獣の力を軍事力に転用し、乱世を自分達の国の統治下で終結させたかったのかもしれない。
仮にその通りでも、陛下は自らの手腕で大陸統一を果たしてのけたわけで、用途を知られることもなく無用の長物に終わってしまったことになるのだが。
「結局、このアーティファクトは王位継承の記念品以上にはならなかった……はずなのだがな。お前達のお陰で、二十数年越しに意味を与えることができそうだ」
「それはつまり……」
「お前のスキルでガーネット卿に魔獣の力を与えられるようになったことは聞いている。使い分けるなり予備とするなり、思うままに扱うがいい」
「……ありがとうございます、陛下」
手の平に乗せられたメダリオンに手をかざし、二つに砕かれた痕跡を【修復】スキルで元に戻す。
アルフレッド陛下はそれを確かめて満足気に笑みを浮かべた。
「さて、ルークよ。俺がこのメダリオンをどこのダンジョンで手に入れたのか、察しはつくか?」
「恐らくは、白狼の森。自分の故郷がある土地ですね」
隣のガーネットが驚いた顔でこちらに目を向ける。
「昔、白狼の森には大きな白い狼がいると言われていました。それらの正体が陛下と戦った魔獣の眷属で、先王陛下か更に先代がダンジョンを発見したことで活動を控えるようになり、地上に姿を表さなくなった……こう考えれば長年の疑問に一つ説明がつきます」
これまでに見聞きした情報を統合すれば、二十数年前の出来事の舞台が、俺の故郷のすぐ近くに広がる白狼の森であることは、容易に想像することができた。
「そして何よりも、陛下が王位継承の懸った探索に臨む直前に、私の故郷に立ち寄った理由……それを思えば自明のことです」
俺が冒険者を志した理由は、子供の頃に出会ったアルフレッド陛下から聞いた、輝かしい冒険譚の数々に憧れを抱いたからだった。
この過去が巡り巡って、こんな形で手元に戻ってくるなんて。
夢にも思わなかったとはまさにこのことだ。
「軽々しく吹聴するでないぞ。お前だから話したのだ」
「ええ、もちろんです。生まれ故郷の村を、無為な大騒ぎに巻き込みたくはありませんから」
メダリオンを握り締めた手を胸元に持っていき、陛下の顔をしっかりと見据える。
「生まれ故郷に眠っていたこのメダリオン。第二の故郷と言うべきグリーンホロウに隠されていた魔獣スコルのメダリオン。二つの力を得られるというのは、とても感慨深いものです」
「ははは、感慨深いのは俺も同じだ」
アルフレッド陛下は破顔して、それから俺と、更にガーネットへ暖かな眼差しを向けた。
「迷惑かもしれんが、お前達を昔の自分達と重ね合わせているのは否めんのだ。理由はまぁ……説明するまでもなかろう。しかも同じような魔獣を討ったとなれば尚更だ。ちなみにだが、王妃もお前達の行く末を気にかけていたぞ」
「行く末……」
「レンブラントがどんなつもりでいるのかは知らんが、俺達としては是非とも成就してもらいたいと思っている、ということだ」
――この流れでそう来るか。
強烈な不意打ちを受け、どんな表情を返したものかと悩みながら隣に目を移す。
ガーネットはアダマントの剣を胸に抱え込み、赤面した顔を伏せて押し黙っていた。
その横顔を見た瞬間、俺の頭から今後の不安も何もかもが吹き飛んで、陛下の言葉を現実のものにしなければという思いだけが、強烈に思考を塗り固めていった。
次回、別視点からの第十三章への前振り回を一話置いて、第十二章は完結予定となります。




