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第417話 古き者達との対話 後編

 暗闇の中、目の前に浮かぶ大きな光の塊。


 それがフラクシヌスの意識、あるいは魂であることは説明されるまでもなく理解できた。


『貴方との約束を果たさなければならない時が来たようです』

「約束……? 一体、何を言って……」

『古代魔法文明について、私が把握している知識をお教えすると約束いたしました』


 確かに、魔獣スコルを倒して天井(そら)の光を取り戻したときに、記憶の整理が済み次第その情報を教えてくれるという約束を交わしていた。


 けれど何故()()()()


 どう考えてもそれどころではないだろう。

 アガート・ラムだと思われる自動人形達の脅威は、未だに退けられていないというのに。


『今の我々は意識だけの存在です。ここまでのやり取りも、現実ではほんの一秒程度の経過に過ぎません』


 困惑する俺にそう告げて、フラクシヌスは疑問を差し挟む暇もなく語り始めた。


『遠い昔……人間も魔族も共に地上で暮らしていた時代……私達()()は、現在の地上でいう冒険者のように、未知や不思議を探し出し究明することを生業としていました』


 ――ただし、俺達のように大勢が同じことをしていたわけではなく、当時においてはかなり特殊な立ち位置だったという。


 七人のリーダーは当代随一の魔法使いであり研究者、ネームレスともアルファズルとも称された人間の男。


 残る構成員も、その大部分は俺がよく知る名前だった。


 ダークエルフの王子ガンダルフ。聖なる森の落とし子エイル。

 千年樹の挿し木、樹人(ドライアド)のフラクシヌス。

 機巧の革命児、ドワーフのイーヴァルディ。


 この五人を初期メンバーとし、後に二人が加わった。


 東方の巫女、火之炫日女(ひのかがひめ)

 そして、種族不明の魔法研究者、ロキ――


『我々は新たな神秘を発見、研究して、魔法文明の発展に力を尽くしました。最も働きが顕著だったのはもちろんアルファズルですが、それに次ぐのはロキであったと記憶しています。ところが……』


 ――ロキは、仲間達にも詳細を伏せたまま、独自に『何か』の研究を続けていた。


 その正体が明らかになったのは、ロキがその産物……メダリオンと名付けられたアーティファクトを世界中にばら撒いた後だった――


『ロキが生み出したメダリオンなるアーティファクトは、周囲の魔力を吸収して、魔獣、もしくは神獣と呼ばれる肉体を形成するものでした』

「メダリオン……まさか……」

『正しく使えば世界に大きく貢献する発明だったのかもしれません。ところがロキは、事もあろうに、世界を数度滅ぼしうるほどの脅威を無造作に拡散させたのです』


 ――彼の動機は結局分からないままでした、と、フラクシヌスは物悲しげに付け加えた。


 ロキは当然のごとく極刑を科されたが、無秩序にばら撒かれたメダリオンの回収は至難を極めた。


 アルファズルも仲間の所業の責任を取ると言って尽力したものの、最終的には全メダリオンの封印よりも、世界を滅ぼす災厄が実体化する方が早いと結論づけ、次善の策を講じることにした――


『地下に自然環境を再現した巨大な空間を造り、神獣達が活動限界を迎えて自己崩壊し、地上の環境が復活するまでの長い時間を()()()()()……つまり、地上の方々がダンジョンと呼ぶものを開発したのです』


 かつて『魔王城領域』のドワーフが言っていた。

 アルファズルは彼らが住む世界の創造神であると。


 まさか、まさかだ。それが間違いなく文字通りの意味だったとは。


『無論、全てのダンジョンをアルファズルが創造したわけではありません。彼はその製法を全世界に公開し、あらゆる場所で無数のダンジョンを並行して創造するよう促しました』

「…………」

『全ての準備が終わった後、アルファズルは特に強大な複数の神獣を道連れに命を落としました。そして私とガンダルフ、イーヴァルディの三人が、アルファズル自らが創造したこのダンジョンを――』

「……待て! 待ってくれ!」


 信じがたい証言の数々に停止しかけた頭を再起動させ、慌ててフラクシヌスの語りに割って入る。


「確かに俺達はそれが聞きたかった! だけど! どうして今なんだ! あいつらとの戦いが終わった後でいいだろう!」


 回答を急ぐつもりなんか微塵もない。

 自動人形との戦いが終わるまで待てないはずがない。


 厄介事が一段落してからゆっくり聞ければそれで充分だ。


 けれどフラクシヌスは、約束を果たすことを不自然なまでに焦っている。


 熾烈な戦いの只中、どうにかフラクシヌスの【修復】も軌道に乗り、ガーネット達も合流して戦線が持ち直してきたところだというのに。


「まさか【修復】が間に合わなかったなんて言うんじゃないだろうな! そんなことはないだろ! この『右眼』にもしっかり見えてるんだ!」

『……ええ。貴方の治癒能力にはどれだけ感謝しても足りません。ですが彼らは巨人ムスペルのメダリオンを持ち出しました。恐らくは魔獣スコルの出現も彼らの仕業だったのでしょう』


 魔獣スコルを倒した際に発見したメダル型のアーティファクト……あれがメダリオンだったということか。


『このまま戦い続ければ、いずれ貴方の仲間にも犠牲が出てしまいます。管理者の責任として、せめてその前に私が決着をつけます』

「決着だって……?」

『簡単に命を落とすつもりはありませんが、炎の巨人が相手では刺し違えになる可能性が極めて高く、故に貴方との約束を先に……』

「ふざけるな!」


 俺は反射的に腹の底から叫んでいた。


 一言では言い表せない感情が渦巻いていたが、一番大きなものは怒りだった。


 それも自動人形達ではなく、フラクシヌスに対しての。


「俺の仲間を舐めるんじゃない! そんな風に護られないといけないほど弱く見えるのか! 俺達はいつだって命懸けで戦ってきたんだ! 魔獣スコルを倒したときだってな!」


 ガーネットも、サクラも、エゼルだって、巻き込まれたからしょうがなく戦っているわけじゃない。


 紛れもなく自分自身の意志で戦いに身を投じているのだ。


 亡き母親の仇にまずは一撃目の一矢を報いるために。

 父親を通じて因縁のある相手の凶行を止めるために。

 勇者として活躍できることを偉大な親に示すために。


 そんなあいつらの身を案じるという体裁で、危険だからと言って戦いから遠ざけるだなんて、それを侮辱と呼ばずに何と言うのだ。


「管理者の責任があるから戦わなきゃならないっていうなら、俺達の代わりに決着をつけるだなんて考えるんじゃない! ……こういうときは、()()()()()()()。違うか、管理者フラクシヌス」

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