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第387話 冒険者達との合流

 増援の冒険者達がアスロポリスに到着したのは、その日の夜が訪れた直後――天井(そら)の発光が終わったちょうどその頃だった。


 普通なら充分に大規模と呼べる人数のパーティであるが、それでもアスロポリス全体からすれば誤差のような人数だ。


「もう到着したのか? 思ったより早いな」


 冒険者パーティ到着の報告を受けてすぐに、白狼騎士団の代表者として、橋の前で待機している冒険者達を迎えに行くことにする。


 短時間とはいえ町の外に出ることになるので、用心してガーネットとライオネルも同行している。


 太く長い木の根が絡み合ったような橋を渡った先には、俺がよく見知っている冒険者の姿があった。


「ルークさん、ご無沙汰してます!」

「ロイじゃないか! お前が来てくれるなら心強いな」


 顔に獣の爪痕を残した精悍な青年が、笑顔で俺の手を握り返す。


 Aランク冒険者、百獣平原のロイ。

 冒険者ギルドの最高ランクを背負う者達の中でも屈指の若手。


 少年の面影を残した青年とも、青年に片足を突っ込んだ少年とも言えるその風貌は、パーティのどの冒険者よりも頼もしい雰囲気を湛えていた。


「もっと時間が掛かると思ってたんだけど、まさか連絡したその日のうちに到着するとはなぁ」

「実を言うと、キャンプを町の近隣に移して待機していたんです。ルークさんならすぐにでも成果を上げてくれるだろうと思いまして。というかむしろ、早すぎて驚いたのはこちらの方ですよ」

「……お前、その過剰な信頼は一体どこから来るんだよ」


 アルジャーノンとかいう胡散臭さの化身と対面したばかりというのもあって、ひたすらに真っ直ぐなロイの態度がとても涼やかに感じられる。


 しかし、こんなところでいつまでも立ち話をしているわけにもいかない。


 天井(そら)が暗くなれば町の外はかなり寒くなるし、何より冒険者達の『凄い人達のやり取りを見ているのだ』という視線を浴び続けるのは、なかなか気持ちが落ち着かなくてしょうがなかった。


「とりあえず町の中に入ろうか。まずは管理者に挨拶しとかないとな」


 冒険者達を先導し、アスロポリスの内部へと招き入れる。


 夜のアスロポリスは、以前の不安と不信に満ちた雰囲気から一変し、一日の終わりを惜しむかのような活気に満たされていた。


 住人達にとって、これまでの夜はゆるやかな破滅に向かう一本道だったが、これからの夜は天井(そら)に異常が発生する前と同じ、次の朝へ繋がる一時(ひととき)の休息なのだ。


「これはまた……ずっと外から観察していましたけど、実際に入ってみると圧倒されてしまいますね」


 ロイが感嘆の声を漏らしながら周囲を見渡す。


 他の冒険者も、住居と一体化した樹木が並ぶアスロポリスの風景に驚き、冒険者らしい好奇心を強く刺激されているようであった。


 そして好奇心を抱いたのは冒険者達だけではない。


 アスロポリスの魔族達もまた、人間の集団という珍しいものを一目見ようと、街頭や住居の窓から好奇の視線を投げかけてきていた。


 視線の無遠慮さでいえばどっちもどっちだ。


 冒険者達はたまたま通りかかった魔族を遠慮なく見やっているし、その魔族も冒険者達を珍獣かなにかのように見返している。


「気持ちは分かるけど、寄り道はしないからな?」


 探究心に心を揺らす冒険者達に注意をしつつ、大議事堂が収まった大樹の玄関口まで直行する。


 しかし中へ入ろうとしたところで、二人の年若い樹人(ドライアド)に呼び止められてしまう。


「申し訳ありません、ホワイトウルフ様」

「現在フラクシヌス様は来訪者への応対をなさることができません」

「ご用件がありましたら、翌日以降にお願いいたします」

「もしくは私共に言伝をお預けくださいませ」


 見分けのつかない外見をした二人が互い違いに喋るので、そのたびに視線を左右させながら耳を傾ける。


「昼過ぎに報告を持ってきたときには大丈夫だったよな。何かあったのか?」


 報告というのはもちろん、アルジャーノン評議員について俺達が把握している内容のことだ。


 次の用件が詰まっているようだったので、貴重な情報として考慮するという以上の返答は受けられず、順番待ちをしていた魔族とすぐに交代することになってしまったが、応対自体は普通にしてもらうことができた。


 何かあったとしたらその後なのだろうが……。


「いいえ、フラクシヌス様は定期的な休眠をなさっております」

「標準的な周期に沿った予定通りのご休息です」

「前回のご休息は天井(そら)の異常の調査と分析のため、少々早くお切り上げになられてしまいましたので」

「今回のご休息はしっかりと取っていただきたいと考えています」


 まさか緊急事態でも起きたのではという不安は、二人の樹人(ドライアド)の淡々とした語り口であっさりと否定された。


 その理由なら致し方ないのだろうが、少々タイミングが良くなかったのも事実である。


 だが、こちらがどうこう文句を言える案件ではない。


 事前に連絡もできず、更には俺自身の想定よりも早く到着してしまったのだから。


 問題があったとすれば、それはこちら側の連絡不備だろう。


「けど参ったな。この人数をどこに泊めたらいいんだか」

「ご挨拶は日を改めるとして、今夜のところは外にキャンプを張るとしますよ」

「いやいや、完全に屋根のある建物で休む気満々だったっていう顔の奴もいるぞ。せめて宿くらいは見つけておかないと……」


 人間、欲しい物がまだ手に入れられないというのなら我慢ができても、手に入る寸前で取り上げられるのは耐え切れなかったりするものだ。


 特にゆっくり休めるという期待が空振りに終わったときのダメージは、なかなか筆舌に尽くしがたいものがある。


 ロイと一緒に宿泊場所のことで頭を悩ませていると、大樹(たてもの)の中から黒いローブを纏った魔族がのっそりと姿を現した。


「おっと、遅れてしまって申し訳ない。地上の人間の方々ですな」


 半魚人……いや、水棲人とでも呼ぶべきだろうか。


 全体的な形質は人間に近く、(えら)(ひれ)といった部位があり、肌は湿ってのっぺりとしている。


 纏っている黒いローブは蜥蜴人(リザードマン)のエヴェルソルやアルジャーノンと同じ、評議員の地位を示す特別なデザインのものだった。


「フラクシヌス様より、皆様を駐屯地候補の場所へご案内するよう仰せつかっております。私の同胞が準備を進めているところですが、寝泊まりする程度ならもう問題ありますまい」

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