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第378話 神代の魔獣を討て 後編

インターネット環境の不調で投稿が少々遅れました。

 ライオネルが作ってくれた一瞬の隙を突いて駆け出した俺達を、魔獣スコルは目ざとく認識して上体を反転させようとする。


 飛びかからんと前脚に力が込められた瞬間、ノワールとノルズリの魔法がスコルの巨体を拘束した。


 絶妙なタイミングの援護に内心で感謝しつつ、脇目も振らずに走り続ける。


 魔獣スコルの傍らを抜けて更に奥へ。


 回り込んで背後から攻めるのではなく、目指すは大広間の反対側。

 恐るべき魔獣に背を向けたまま、太陽の如き光を放つ壁へ向かって疾走する。


「白狼の! さすがに気付かれたみてぇだぜ!」

「分かってる! 頼んだ!」


 スコルと壁面を繋ぐ分厚い管の束が脈動し、その表面に無数の眼球と牙が浮かび上がったかと思うと、フェンリルウルフの出来損ないじみた肉塊が堰を切ったように飛び出してきた。


 ガーネットの振るう剣とエディが広げたスペルスクロールが、力任せの妨害を真っ向から迎え撃つ。


 不完全な眷属を生成してでも大慌てで妨害を試みた理由――それはほぼ間違いなく、眩い光と熱を放つあの壁の向こうにある。


「(――ぐうっ!)」


 まだ壁までかなりの距離が空いているにもかかわらず、肌に痛みが走るほどの熱が襲ってくる。


 肉体を【修復】しながらでないとこれ以上は進めないかと思った矢先、壁面の光量が突如として半減し、肌を焼く痛みが急激に薄れていった。


「(ヒルドか! うまくいったんだな!)」


 更にエディが後方でスペルスクロールを広げ、行く手を遮る高熱の空気を突風で吹き飛ばす。


 これで道は開けた。しかしまだできることは残っている。


 俺もリピーティング・クロスボウに氷魔法の呪装弾を装填し、未だ高熱を帯びた壁面に最速連射で全弾叩き込む。


 ノルズリの魔法には及ばずとも、これだけ撃ち込めばかなりの冷却が見込めるはずだ。


 そして最後の数秒分の距離を踏破し、熱量の低下した壁面に手を押し当てる。


「ぐ……っ!」


 流れ込む魔力を削減され、熱気を突風で吹き飛ばされ、氷の呪装弾による冷却を受けてもなお、魔獣スコルと連結した壁面は人体を焼き焦がすほどの高熱を帯びていた。


 何重もの対策によって熱を奪っていなければ、手が届く距離に近付いただけで全身が焼け爛れていたかもしれない。


 苦痛を堪え、歯を食いしばって自身に【修復】を掛けながら、渾身の力で壁面に魔力を流し込む。


「スキル発動……【分解】……ッ!」


 壁面に亀裂が走る。


 ひび割れの隙間から灼熱の魔力が噴出し、その圧力によって殺傷力を帯びた無数の瓦礫が飛散する。


 降り注ぐ残骸の雨を、ガーネットが魔力防壁と魔力の斬撃で防ぎ止める。


 瞬く間に失われていく光輝。

 覆い隠されていた壁の奥が露わになっていく。


 そこにあったのはもう一つの壁――魔獣スコルと連結した管の束と同じものが複雑に絡み合い、山なりに高くそびえ立っていた。


 俺は『叡智の右眼』の視線を走らせて、全ての中枢ともいえる一点を探しだした。


 頂点付近に埋め込まれた手の平大のアーティファクト。


 狼の瞳のような飾り石が中央に据えられた、大型のメダルのような人工物。


 全てがあの遺物に繋がっている。

 魔獣スコルも、眷属であるフェンリルウルフを生み出す触腕も、そして壁の裏の魔力伝達回路を蝕む無数の管も。


「一番上だ! 見えるか!」

「……あれだな! 後は任せろ!」


 ガーネットは身体強化スキルの渾身の出力を両足に集約させ、標的のアーティファクトめがけて一直線に跳躍した。


 同時に異形の壁から歪な牙を生やした触腕が繰り出され、一斉にガーネットへ襲いかかる。


 しかしガーネットはその猛攻を空中でことごとく切り払い、勢いのままに腕を伸ばした。


「もらったぁ!」


 力尽くで引き抜かれるメダル型アーティファクト。


 肉のような周辺物がぶちぶちと生々しい音を立てて引きちぎれ、異形の壁が絶叫するように脈動する。


 ガーネットが軽やかに着地したのと前後して、魔獣スコルの前半身だけの巨体が轟音を立てて倒れ伏す。


 ――『叡智の右眼』を通して得られる情報の数々が、スコルの肉体から魔力と活力が急速に失われていく様を如実に伝えてくる。


 決着だ。魔獣スコルは倒れ、独立して戦っていた眷属達も次々に撃破されていく。


 胸の底から湧き上がってくる興奮をひとまず抑えていると、メダル型のアーティファクトを手にしたガーネットが急ぎ足で駆け寄ってきた。


「白狼の! どうだ、これで終わったか!」

「ああ、そのアーティファクトが魔獣スコルの(コア)だったんだろう。一体どういう原理なのか見当もつかないけど……」


 俺はガーネットが握っているアーティファクトを『叡智の右眼』で凝視し、それと同時に指先で触れて通常の【解析】も発動させてみた。


 しかし表面よりも内側の様子はまるで掴めない。


 魔獣スコルの膨大な魔力が『叡智の右眼』の知覚を遮る壁になっていたように、未知の何かが分析を妨げているのだろう。


 それでも、このアーティファクトが活動停止状態にあり、外部に影響を及ぼせなくなっていることだけは把握できた。


「……少なくとも、今すぐ再起動する気配はないな。完全に停止してるみたいだ」

「ぶった斬らずに回収しちまったけど、これでよかったか?」

「ああ。どうしてこんな事態になったのかも分からないんだ。手がかりは多い方がいい」


 ガーネットから受け取ったアーティファクトをしまい込んだところで、大広間全体の光量のバランスが全体的に均質となり、先程までの明るさの偏りが解消されていった。


 そしてヒルドが大広間の反対側から、大声で任務の完遂を報告する。


「団長ーっ! 魔力経路の適正化、何とか成功しました! やっぱりあの魔物が修正を妨害していたみたいです!」


 俺はガーネットと顔を合わせて安堵の笑みを浮かべあった。


 本来、俺達に与えられた役割は魔獣スコルを討伐することではない。


 この階層の天井(そら)の発光現象が失われた原因を調査し、可能であれば【修復】することが、管理者フラクシヌスから割り当てられた役割だった。


 いくらスコルを撃破できたとしても、地下空間に朝を取り戻せない限りは役目を果たせたとは言えず、ヒルドの報告はまさしく俺達が待ち望んだものであった。


 ――そのとき視界の隅に、一人で大広間から立ち去ろうとするノルズリの姿が映った。


「ノルズリ!」


 思わず呼び止めると、ノルズリは心の底から嫌そうな顔で振り返った。


「どうした。作戦は終わったのだろう。ならば馴れ合うのは終わりだ。フラクシヌスへの報告は貴様らが――」

「ありがとな。今回ばかりは助かった」

「――――」


 ノルズリは言葉を発しようとした口を開けたまま、一瞬だけ目を大きく見開いて、そしてすぐにどちらも嫌悪に満ちた形に歪めてしまった。


莫迦(ばか)か貴様は。我々は泥舟に乗り合わせたから一時休戦した程度の関係だ。それとも私からも感謝の弁が欲しいのか?」

「まさか。こいつは()()()だよ。色々と助けられる結果になったのは事実なんだから、後に引っ張らず今のうちに精算しとかないとな」

「ふん……理解に苦しむ風習だ」


 忌々しく鼻を鳴らし、ノルズリは踵を返して螺旋階段へと姿を消していく。


「――だが、今回はそちらの流儀に乗ってやろう。貴様らは十二分に役立った。その貢献は称賛に値する」


 遠ざかっていく硬い足音。


 やれやれと短く息を吐く俺の横で、ガーネットが何とも言えない表情で肩を竦めていたことが妙に印象的だった。

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コミック版第4巻作品ページ
書籍版第5巻作品ページ
コミカライズ版は白泉社漫画アプリ『マンガPark』で連載中!
https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] >貴様らは十二分に役立った。その貢献は称賛に値する おまいら、思った(十分)より強いじゃん? 一緒に戦ってくれてあんがとな!!! こうですか?
[気になる点] 床を崩して逃げるのは無理だって言っていたけど、スコルの方の床を崩して叩き落としてやれば良かったんじゃない?
[良い点] スコルメダル、ゲットだぜ! コレはもう召喚に期待します。 しかしそうなると、誰がコレを中枢部にはめたのやら... それが地下の秘密でしょうか
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