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第372話 太陽を喰らうもの 前編

 ――そうして一方的な掃討戦を終え、俺達は遂に目的地である塔の袂へと辿り着く。


 中空の塔の内側に反響する咆哮と轟音は、魔将ノルズリが交戦中だという事実を何よりも如実に表していた。


「少々お待ちを。まずは私が様子を見てきます。万が一の場合は【縮地】で離脱できますから適任でしょう」


 そう言って塔に踏み込んだサクラだったが、一秒もしないうちに驚きの声を上げることになった。


「なっ……! これは……!」

「どうした、サクラ!」

「危険はありません、ですが何と言えばいいのか……」


 サクラが言い淀んでしまうほどの何かがあるということか。


 少なくとも塔の下層部は安全であるとのことなので、俺達もサクラに続いて中空の塔の中へと駆け込んだ。


 そこには、二重の意味で言葉を失わざるを得ない光景が広がっていた。


 塔の最下層の床に積み上がった、何体ものフェンリルウルフの亡骸。


 吹き抜けの最上部を仰げば、壁面に沿った螺旋階段の頂点に光が満ちていて、まるでそこだけ太陽が存在するかのように見える。


 現状把握が終わるよりも先に、塔の頂点付近の輝きに黒い染みのようなものが生じたかと思うと、それがあっという間に大きくなって、フェンリルウルフの亡骸の山に墜落した。


 落ちてきたのは新たな巨狼の死体。


 主だった急所を長い氷の棘が貫通しており、これもまたノルズリによって仕留められたことは誰の目にも明らかだった。


「ドラゴン並みの魔獣が次から次に……感覚がおかしくなりそうですよ……」


 エディが思わず溢した言葉に、俺も内心で同意する。


 一口にAランク冒険者と言っても昇格理由は様々だが、ダスティンやトラヴィス、そしてドラゴン相手にしか興味を示さないもののセオドアあたりの顔ぶれは、戦闘能力の高さを大いに評価されている実例だ。


 そして魔王軍四魔将は、どれだけ低く見積もったとしても、戦闘向きのAランクと同等かそれ以上という評価を下回ることはない。


 こんな連中が二人もいるのだから、たとえドラゴンの群れがいたとしてもさしたる障害にならなくて当然だ。


 しかし、まるでドラゴンやフェンリルウルフが弱いかのように錯覚しそうになってしまうのは否めない。


 彼らを一方的に打倒しうるものがいるとすれば、それこそ魔王クラスでもなければありえないだろう。


「俺達も急ごう」


 先行したノルズリに追いつくべく、中空の塔の内壁に沿って伸びる螺旋階段を駆け上がる。


 一周、二周と上がっていくに従って、階段の先に満ちた光も眩さを強めていき、そして大気が帯びる熱量も如実に増していく。


 体力面に不安のあるノワールも、きちんと最後までついて来られそうだろうか。


 そんなことを思って振り返ろうとした瞬間、降り注ぐ光が落ちてくる何かに遮られ、少しだけ俺達の周囲が薄暗くなる。


 またフェンリルウルフの亡骸が――


「……っ!」


 ――違う! あれは炎に巻かれた()()()()だ!


「ノルズリッ!」


 思わず腕を伸ばすも届くはずがなく、意識を喪失したダークエルフの女の肉体が中空の塔を落ちていく。


 次の瞬間、ダスティンが雷光(ライトニング)を真下へ投擲。

 魔槍は落下中のノルズリに追いつくなり空中で直角に軌道を変え、致命的ではない部位を刺し貫いて、ノルズリをちょうど二周下の階段付近の壁面に縫い留めた。


 ノワールやヒルドは、ダスティンの行動の意味を理解できずに驚き戸惑っていたが、俺はすぐに奴の意図を理解してガーネットの肩を抱き寄せた。


「んなっ!? お、おいこら、何を!」

「跳べ! ガーネット!」

「は……? ……そういうことか!」


 ガーネットは俺の体を掴んで跳躍し、フェンリルウルフの巨体が通り抜けるほどに広い吹き抜けを軽々と飛び越えて、ノルズリが縫い留められた壁のすぐ側に着地した。


 更にサクラが【縮地】で合流したのとほぼ同時に、俺はノルズリの肉体の【修復】に取り掛かった。


 内心は焦りと恐怖でいっぱいだ。

 光に熱されて滲んだ汗だけでなく、背筋の凍るような嫌な汗も滲み出てくる。


 ノルズリの実力は二度に渡って戦った俺達が一番良く知っている。


 こいつがこんな有様を晒したという現実が何を意味するのか、理解できないはずなどなかった。


「な、何をしてるんですか、ルーク卿!」


 エディが上ずった声で叫ぶ。


 それと前後して、早くも意識を取り戻したノルズリが、苦々しく俺を睨みつけてきた。


「何のつもりだ……恩を売ろうとでもいう腹か……?」


 俺はどちらの返答を先にするかで少し悩み、結局は両方同時に、吹き抜けの反対側にいるエディにも聞こえる大声で答えることにした。


「考えてもみろ! 魔将が不覚を取るほどの奴がこの先にいるってことだろう! 何があったか聞き出せずに死んでもらったら困るんだ!」

「……っ! い、言われてみれば、確かに……」


 エディが俺達の意図を察して押し黙ったのを確かめてから、改めてノルズリに視線を戻す。


「というわけだ。頂上で起きたこと、全部話してもらうぞ」

「ふん、ここで足を止めて語り合うなど愚の骨頂……時間の無駄だ」


 ノルズリは顔色一つ変えることなく、自分の肉体に深々と突き刺さった魔槍を引き抜くと、さも当然のようにダスティンへ投げ返した。


「アレは止めねばならんものだ。貴様らも撤退は許さん。地上の町を食い尽くされたくなければついて来い。必要なことは道すがら教えてやる」

「おいこら! 礼くらい言ったらどうだ!」


 吼えるガーネットを一瞥もせず、ノルズリは再び螺旋階段を駆け上がり始めた。


 俺達もそれに合わせて歩調を早め、塔の頂上を目指していく。


 誰もがノルズリに言いたいことを抱えているはずだが、今はそれよりも優先すべきことがあるとも理解していた。


「かつて、幾つもの災厄が地上に顕現し、世界を滅亡の淵に追いやった。そのうちの一つに、天をも喰らうと称された巨狼がいたという」


 ノルズリは先頭を走りながら、振り向くこともせず一方的に語り続ける。


「規格外の超大型魔獣、その名は()()()()()。かの大魔獣は、自身ほどではないものの巨体を誇る三体の眷属を従え、地上の文明に壊滅的な被害を与えたと聞いている」

「えっ……まさかそれは、古代魔法文明のことですか!?」


 最後尾を走っていたヒルドが大急ぎで俺達を追い抜いて、先頭のノルズリに食い下がる。


 ノルズリは想定外の勢いに困惑したように顔を歪め、俺を睨みつけてきた。


「何なんだこの女は……! 本当に躾が下手だな、お前という人間は!」

「……すまん、そういうことを研究してる奴なんだ」

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