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第349話 ここが新たなスタートライン

 ニューラーズの一件からしばらく経ったある日の営業終了後、店じまいを済ませた俺達のところに、二通の全く異なる書簡がほぼ同時に到着した。


 一通はウェストランド王国で最高峰の位格を持つ封書。


 もう一通は低ランクの冒険者でも使う簡素な封書。


 宛名を確認せずとも、誰から送られたのか何となく分かるものばかりだ。


 リビングのテーブルに二通の封書を並べ、しばし考え込んでいると、後片付けを終えたガーネットが怪訝そうに覗き込んできた。


「おい、何悩んでやがんだ?」

「んー……下らないことなんだけど、まずはどちらから開けるべきだろうかなと思ってさ」

「ほんと下らねぇな。適当にこっちからでいいんじゃねぇか?」


 ガーネットは簡素な封書をつまみ上げて俺に押し付けた。


 正直な話、どちらを先に開けるべきかを本気で悩んでいたわけではない。


 ただ単に『格式高い』封書の中身を確認する踏ん切りがつかないだけである。


「こっちの手紙はニューラーズからの連絡だな」


 簡素な封書を開封して、収められていた手紙――というよりも書類に目を通す。


 内容は予想通り、最初の納品分が仕上がったので近日中に届けるというものだった。


 それに加えて、勇者エゼルがドワーフ製の剣をミスリル加工して佩剣にしたいと言っていたことについて、恐縮だの光栄だのといった言葉を並べて同意する文章も記されていた。


「にしても、あっさり了承したもんだな。もうちょい難色示すもんだと思ったんだが」

「ドワーフは本気でアルファズルを信仰してるみたいだからな。そいつが作った迷宮と一体になれるっていう認識らしいぞ」


 あのダンジョンのドワーフにとって、アルファズルはダンジョンを創造した神格であり、そして『奈落の千年回廊』はアルファズルが生み出した世界(ダンジョン)の護りの要。


 故にニューラーズ曰く、自分が作る剣が『千年回廊』のミスリルによって()()()の存在にされることは、断ることなど考えられない最高の提案なのだそうだ。


「そう考えたら、テメェが普段からミスリルを削り取っては加工してるってのも、一歩間違えりゃブチギレ案件だったのかもしれねぇな」

「ははは……全くだ。アルファズルの生まれ変わりだの何だのと誤解されたのが、まさかこんな形でいい方に転がる原因になってたなんてな」


 ドワーフはアルファズルを信仰し、迷宮を含むダンジョン全体をアルファズルの創造物と認識している。


 となると、迷宮の内壁を【分解】しては地上に持ち出している俺の行いは、ドワーフ達を激怒させてもおかしくはない行動だったわけだ。


 しかし、どういうわけか俺はドワーフ達から『アルファズルの生まれ変わり、あるいは化身』などという認識を受けている。


 俺自身が一連の関連性を知ったのは戦争後のことなのだが、ミスリルの採集も使用も一切問題視されていなかった原因は、実はこの認識にあったのだそうだ。


 つまりは知らないうちに危ない橋を渡りきっていたわけで、一歩間違った場合のことを考えると冷や汗が浮かんでしまう。


「とにかく、ニューラーズからの武器の仕入れと、勇者エゼルの新しい武器については問題なし。問題はこっちだな……」


 軽く憂鬱になりながら、残るもう一通の封書を開封する。


「王宮からの連絡……間違いなく領地についての問い合わせの返答だろうな。グリーンホロウ・タウンを領地に含む理由と、変更の可能性の有無の問い合わせの……」

「変更は認められないって書いてあったらどうすんだ?」

「その場合は諦めて受け入れるさ。挨拶回りのことを考えたら今から憂鬱だけどな」


 封書を開封して、高級な紙に記述された内容を読んでいく。


 ――割り当てられた領地の選定理由。

 新規に分配される領地は、該当騎士の任務地もしくはその近隣とする慣習に基くべきとする議決に、王宮議会の過半数が賛同したためである――


 要するにソフィアが言った通りの内容だ。


 番犬や猟犬に首輪をつけて使役と管理をするように、騎士にも『領地を守らなければならない』という動機を与えて、公務に手を抜かせないようにするという、王宮の大臣達からの要請である。


 ――領地変更の要請は、これを不可とする。


 グリーンホロウ・タウンを領地から除外し、周辺地域のみを領地とする代替案も却下とする。


 却下理由は、地理的にルーク・ホワイトウルフの領地内に『飛び地』として直轄領が残ることになり、あまつさえ騎士団本部がその直轄領内にあることで、様々な面で不都合が生じる恐れがあるからである――


「悪ぃ方の想像が当たっちまったな」

「……仕方ないさ。覚悟はできてたし、理由も納得するしかない奴だ」


 元より騎士団のほぼ全ては、他国の騎士団体を原型とする。


 白狼騎士団はその初めての例外だが、大臣を務める貴族達にしてみれば、俺はどこの馬の骨とも知れない男に過ぎず全面的な信頼を置くわけにはいかないのだ。


 騎士団という形で、権限や資金、そして軍事力を与える以上は、せめてこれくらいの縛りは与えないと安心できないのだろう。


「グリーンホロウだけを外せない理由も、こう言われたら反論のしようがないからな」

「ダンジョンの隣のグリーンホロウだけが直轄領のままで、騎士団の本部がそこにあって、んでもって騎士団の領地が周囲を囲んでる……確かに、経緯を知らなきゃ何だこりゃって思う状況だわな」


 駄目で元々と思ってソフィア経由で伝えた代替案で、案の定あっさりと却下されてしまったわけだが、拒まれても反発心などは浮かんでこなかった。


 それくらいに『多分無理だろうな』と思っていた別案だったからだ。


「グリーンホロウとその周辺地域の領主様か……領地持ちになるっていうだけでも想定外なのに、まさかこんなことになるなんてな」

「んで、どんな風にやってくつもりなのかは、もう考えてあるのか?」

「どうもこうもないさ」


 ガーネットの問いかけに肩を竦めて返答する。


「素人の俺が口や首を突っ込んだところで、ろくなことにならないのは目に見えてるんだ。町長達にはこれまで通りにやってもらおうと思ってるよ」

「ふぅん、無難でいいんじゃねぇか? オレとしては、お前が領主としてバリバリ働いてるところも見てみたかったけど」

「やめてくれよ……さすがにそこまでいっちまったら、武器屋の店主と兼業するのは無理そうだ」


 テーブルに頬杖をついてにやにやと笑いかけてくるガーネット。


 その眼差しを横顔に浴びながら、俺は今後の立ち振舞いについて頭を悩ませていた。


 武器屋として、騎士団長として、領主として。


 全てを完璧にとは言えないかもしれないが、せめて及第点を出せるくらいには頑張らなければ――内心で何度も自分に言い聞かせながら。


 ……後でエリカに胃痛の薬でも貰っておいた方がいいかもしれない。

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