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第342話 青孔雀騎士団のソフィア

 フェリックスから告げられた用件は、武器屋の店長としてではなく騎士団長としての俺にとって、最大級の関心事といえるものばかりだった。


 ――追加の派遣騎士。

 俺が預かることになった白狼騎士団は、発足直後の初期メンバーとして十二の騎士団から最大一人ずつ派遣される予定になっている。


 現時点で着任しているのは三人。

 銀翼騎士団のガーネット・アージェンティア。

 虹霓鱗(こうげいりん)騎士団のヒルド・アーミーフィールド。

 紫蛟(しこう)騎士団のマーク・イーストン。


 彼らに次ぐ四人目、あるいはそれ以降の騎士が到着したというのだ。


 関心を惹かれないはずなどあるわけがなかった。


 ――そしてもう一つ、領地の詳細の決定も大きなニュースだ。


 騎士団は王宮から公務と領地を与えられ、それらを更にそれぞれの所属騎士に割り振るという活動形態を取っている。


 領地から得られる税収は騎士の収入になるとともに、公務を遂行するにあたっての予算としても使われる。


 これまで白狼騎士団は、領地が決まるまでの繋ぎとして王宮から与えられた資金を使っていたが、ようやく騎士団らしい財政になるわけだ。


 もっとも派遣される騎士達は既に自分の領地を持っているので、今回与えられる領地は実質的に俺一人分となるらしいが。






 ともかく、日中は普段通りに武器屋の営業を続けることにして、営業終了後にフェリックスから指定された場所へ向かう。


 目的地は銀翼騎士団支部の会議室。

 同行者はガーネットを始めとする三人の正規団員。


 武器屋とは別の案件なので、今回はそちらのスタッフは連れてきていない。


 案内された部屋に足を踏みれると、先に室内で待ち受けていた女性と目が合った。


 女性――少女ではなく女性だ。


 黒い髪を几帳面に切り揃え、装飾感とは無縁なそっけない出で立ちで、こちらを値踏みするように見据えている。


「はじめまして。青孔雀騎士団のソフィア・ウェッジウッドと申します」

「青孔雀、騎士団……」

「ご存じないのも無理はありません。民間人には全く縁のない騎士団ですから」


 俺がオウム返しに騎士団名を口にしたのを聞いただけで、ソフィアという女騎士はその名に聞き覚えがないのだと見抜いたらしく、こちらが頼むまでもなく説明を付け加えた。


「我ら青孔雀騎士団は、騎士団や貴族の私兵の監視を任務とする騎士団なのです。孔雀の羽根を無数の目に見立て、監視役の象徴としたことが名前の由来となっています」


 このウェストランド王国において、公的に軍事力を保有できる組織は、大きく分けて二つの系統に分かれている。


 一つは王宮直轄の騎士団だ。


 近衛兵団の竜王騎士団を除いた十一の騎士団は、統一戦争の過程で王国の軍門に降った他国の騎士団体を原型とし、王国の公務の一部を分担して担っている。


 中でも軍事担当といえば黄金牙騎士団だが、それ以外の騎士団も相応の戦力を持っており、公務において必要なら武力行使も許されている。


 もう一つ、騎士団以外に私兵の保有が許された者達、それは上位の貴族である。


 昔から国王に従ってきた大貴族の公爵や、外国との境界付近に領地を持つ辺境伯は、その特殊性から普通の貴族には許されない私兵の保有が認められている。


 この場合の『私兵』とは軍組織レベルの団体を意味し、個人的に雇った番兵や護衛程度は含まれない。


 そして、これらを監視するのが青孔雀騎士団なのだという。


「もちろん一口に監視と言っても、具体的な内容は多種多様です。適切に公務をこなしているか、財政面に不正はないか、あるいは領分を越えた軍事行動の準備をしてはいないか――」


 ソフィアは騎士団の役割を指折り数えながら、俺の後ろにいる三人を順番に見やった。


「――俗に言う憎まれ役というものですね。ご存じないかもしれませんが、この町に派遣されていた黄金牙と銀翼にも、我々の一員が監視に付いていたのですよ」

「全く気付いていませんでした……民間人は知らなくて当然というだけはありますね」


 騎士団の一員として違和感なく混ざっていたせいか、それとも民間人になりすまして人知れず監視をしていたのか。


 こうしてソフィアが正体を明かしていることを考えると、前者の形式で堂々と監視任務をこなしていたが、民間人視点では区別がつかなかっただけなのだろう。


「そんな騎士団の方が派遣されたということは、俺達もようやく一端(いっぱし)の騎士団として活動できる時期が来たってことでしょうか」

「……ユニークな捉え方ですね。ですがその認識でおおよそ間違ってはいません」


 ソフィアは微笑むには至らないまでも、少しだけ表情を崩したように見えた。


「隠すことなく申し上げましょう。私は白狼騎士団の活動を監視するため派遣されました。もちろん、あなたが何かしらの疑いを掛けられているわけではありませんので、その点は誤解なきようお願いします」

「いわゆる監督員ですよね。分かっています」


 疑いがあるから見張るのではなく、常日頃から活動内容を確認し続けるのであれば、別段文句をつける必要はない。


「冒険者界隈でも似たような制度がありましたよ。さすがに常駐していたわけじゃないですけど、定期的にギルド支部から監督員が派遣されて、地方のギルドハウスの活動に問題がないかを確かめるんです」

「正しくご理解いただけたようで恐縮です。具体的な方式の違いこそありますが、その冒険者ギルドの制度と同じようなものだと考えてください」


 ここで一旦会話を切って、後ろに立つ三人の様子を確かめる。


 新人騎士のマークは緊張して押し黙っている。

 あいつは俺と比べて騎士団界隈の常識に詳しい方なので、他の騎士団にとって青孔雀騎士団がどう見られている存在なのか、俺以上によく理解しているのだろう。


 その隣のヒルドは、いつも被っているフードを更に深く引っ張って、なるべくソフィアと顔を合わせないようにしていた。


 正体がエルフであることを悟られないため……にしては少々大袈裟だ。


 もしや青孔雀騎士団を苦手とする理由でもあるのだろうか。


 最後にガーネットだが、何やら警戒するような目でソフィアを見据えている。


 青孔雀騎士団の活動内容が理由なのか、それとも個人的な感情が理由なのか……今は確かめていい状況ではなさそうだ。


「それともうひとつ、ルーク卿に割り当てられる領地についても、私が詳細を預かっております。財務状況の監視も任務のうちですので」


 ソフィアから大きめの寸法の封書を手渡される。


 家に持ち帰ってから目を通すべきかとも考えたが、隣に来たガーネットが中身を確認するように視線で促してきたので、この場で封書を開けてみることにする。


 詳しく読み込むのは後にするとしても、軽く目を通しただけで分かる疑問点くらいは、この場で解消しておくべきだろう。


 しかし真っ先に視界に飛び込んできた文言は、俺を驚愕させるには十分すぎる内容であった。


「……ルーク・ホワイトウルフに、グリーンホロウ・タウンおよびその周辺地域を与える、だって……!?」

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