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第327話 更に深く、更に奥へ

 同行するメンバーを決めてからほとんど間を置かずに、俺は魔王城地下迷宮の更に奥の領域へ踏み込むことにした。


 魔王城までの移動時間は以前よりも更に短縮されていた。


 戦争が終わり、この『魔王城領域』が魔王ガンダルフの勢力圏ではなくなって以降、人類側の元々の拠点であるホロウボトム要塞と、新たな拠点となった魔王城を繋ぐ交通インフラは、まさに日進月歩の勢いで飛躍的に整備され続けている。


 とりわけ両拠点を繋ぐ最短経路は最優先で整備され、朝に騎馬や馬車で出発し、何箇所かある中継地点で馬を交換すれば夜までに到着できるほどになっていた。


 また面白いことに、中継地点の駅舎を運営しているのは、このダンジョンに先住していたドワーフ達だった。


 魔王軍に町を焼かれた損失から立ち直るため、人間向けの商売をしてウェストランドの通貨を稼ぎ、町の復興資金に充てているのだという。


 王国やギルドもそれを承知の上で、ある種の支援として仕事を任せているのだろう。


 同じく人間向けの商売が増えた城下町を通り抜け、黄金牙騎士団の管理下にある魔王城で一泊し、いよいよ下層領域へと足を運ぶときがやってきた――











「あの……途中で迷ったりしませんよね」


 外と比べれば薄暗い迷宮の中を歩きながら、エリカが不安げな声を漏らす。


 今回の同行者は、冒険者からはサクラとナギとメリッサ、一般人からはエリカ、騎士団からはガーネットとマークの合計六人だ。


 騎士団員のヒルドが留守番なのは、単純に本部の建築作業絡みの仕事があるからである。


「大丈夫だって。次の階層への道順は完全に判明してるんだ。途中で(はぐ)れない限りは問題ないさ」


 特に脅すようなことを言ったつもりはなかったが、絶対に逸れるなという警告だとでも受け止められたのか、エリカは唇をきゅっと引き結んで俺との距離を詰めてきた。


 実際には、逸れたところですぐに危険なわけではない。


 正規ルート周辺には冒険者がうろうろしているので、魔物やら何やらと出くわすことはまずありえないし、その冒険者達も大部分は店の常連だったりトラヴィスの部下だったりする。


 なので、無闇矢鱈とさまよい歩いたりしなければ危険はない――迷宮を通り抜けるまでは。


「おい白狼の。今回は様子見なんだから、あんまり深入りするんじゃねぇぞ」


 ガーネットが横合いから俺の服を掴んで引っ張り寄せながら、俺達の役割の大前提を再確認する。


「分かってるさ。冒険者として行くわけじゃないんだ」


 ノワールが脱出するまで、踏破し帰還する者が誰もいなかった『奈落の千年回廊』。


 それを抜けた先に広がる『魔王城領域』。


 俺達が向かう場所はこれらよりも更に深い領域だ。

 冒険者として生きてきた頃の意欲と好奇心を刺激されないと言えば嘘になる。


 だが、今の自分の立場と役割はきちんと理解しているつもりだ。


 他の皆に迷惑をかけてまで、領分を踏み越えたことをするほど馬鹿じゃない。


 ――それはさておき、地下迷宮の移動は想像以上にスムーズだった。


 順路こそ複雑だが経路は完全に地図化されていて、あちらこちらに進行方向を示す目印も配置されている。


 本来なら見つけるだけでも一苦労な隠し通路も、全開放された状態で固定されているので、途中で迷う要素は全くないと言ってもいいくらいだった。


 やがて、大きな下りの螺旋階段に辿り着く。


 中空の塔の内壁に沿って螺旋を描く階段を下りていると、エリカが壁に開けられた扉のない窓の外を見て驚きの声を上げた。


「な、何なんですか、これ! 『魔王城領域』とは全然違う……!」

「……やっぱりダンジョン探索はこの瞬間が醍醐味だな」


 窓の外に広がっていた光景は、一面の岩山と荒野で構成された『魔王城領域』と正反対。


 暗い夜空の下には緩やかな緑の森と山々が広がり、地表の何割かを大小様々な地底湖が覆い、それらを無数の河川が繋いでいる。


 さしずめ、水資源と緑が豊富な寒冷地域といった趣だ。


「待てよ? 『魔王城領域』の地下がこれなら、ファルコンが落ちた地底湖もこの階層のどこかにあったのか……?」


 以前、魔王軍の手で竜人に改造されて操られた勇者ファルコンが、建設中のホロウボトム要塞に襲撃を仕掛けたことがあった。


 あのときは、奴が俺に対する逆恨みを優先させたことで要塞そっちのけの逃走劇となり、古代遺跡の地下深くにおける一対一の戦いに発展。


 最終的に遺跡の床を【分解】して下の階層に落とすことで決着を見たわけだが、やはりそのときに見えた地底湖はこの階層の湖だったのだろう。


「て、ていうかここどこ! あたし達、今どこにいるんですか!? すっごい高いところから見下ろしてますけど!」


 混乱するエリカを宥めるように、サクラが落ち着いた態度で声をかける。


「恐らく、この階層の天井から地表まで続く塔のようなものだろう。誰が作ったのか知らないが大したものだ」

「途中で崩れたりしませんよね? 大丈夫ですよね!? ね、ねぇ店長!」

「そうだなぁ……ざっと【解析】してみたけど物理的に脆いところはなさそうだ。ガーネット辺りが暴れたら分からないけど……痛てっ!」


 ガーネットに脇腹を小突かれたりもしながら、不安でいっぱいのエリカを落ち着かせながら、塔の一番下まで辿り着く。


 塔の外に一歩踏み出すだけで、上層の『魔王城領域』とは全く違う感覚の空気が吹き付けてくる。


 薄着だと肌寒さすら感じそうなくらいに涼やかで、土と緑の匂いと適度な湿り気を帯びた空気。


 ここが地下深くであることを失念しそうなくらいだ。


 故郷の村の近くに広がる大森林の湖畔も、夏が終わったくらいの季節にはこんな感じだった気がする。


「先行した冒険者パーティのキャンプはあちらのようですね。ひとまず合流しましょう」


 ナギがキャンプの灯りを目ざとく発見する。


 いくら静かに見えても、ここはダンジョンの真っ只中だ。

 どこに魔獣が潜んでいるか分かったものではないし、報告書にあった瘴気の存在も無視できない。


 とにかく合流を最優先にすべきだと考え、まっすぐにキャンプの方を目指すことにする。


 背の低い草に覆われた丘を上り、見晴らしのいい高台に幾つもの天幕(テント)が立ち並んだキャンプに足を踏み入れる。


 ――そこはまるで、野戦病院のような有様であった。

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