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第325話 更に深き領域へ

「ちょっと見てくる。ここで待っていてくれ」


 突然の来訪者に対応するため、俺はガーネットを連れて資料室の入口へ向かった。


 この建設現場はギルド経由で雇った数名の冒険者に警備されている。


 元より人通りの多い場所というのもあり、不審者が強引に押しかけてくる可能性は低いと言えるだろう。


 しかし念には念を入れ、ガーネットの警護をつけた上で外の様子を伺ってみる。


 扉の前に立っていたのは、長く伸びた髪を無造作に垂らした幽鬼のような男――Aランク冒険者のダスティンであった。


「何だ、ダスティンじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」

「貴様に伝達事項がある。地下探索中の冒険者からの報告と要請だ。まったく、あんな無駄足を踏まされるとはな」

「無駄足? ……さてはお前、最初に店の方に行ったな?」


 ダスティンの装備の端々(はしばし)に砂埃や返り血の痕跡が見て取れる。

 これはほぼ間違いなくダンジョン探索の帰りだ。


 途中のホロウボトム支部で汚れを落とさなかったのは、恐らく地上で長めの休息を取る予定で、後片付けを宿泊先の宿でまとめて済ませるつもりだからだろう。


 そのついでに俺への用事を済ませようと考えてホワイトウルフ商店に立ち寄ったが、運悪く入れ違いになってしまい、しぶしぶ引き返して資料室(こちら)に来たというところだろう。


 ダスティンは俺の推測を否定も肯定もせず、不機嫌そうな面持ちを崩すことなく、紐で雑に括られた紙束を押し付けてきた。


「急ぎの案件だ。すぐに目を通せ。これは冒険者としての貴様ではなく、騎士団長としての貴様に対する要請だ」

「……分かってるよ。Aランク(おまえ)が使い走りになるような案件なんだからな」


 踵を返してこの場から立ち去るダスティン。


 俺はその後姿を見送ることもせず、その場で紐を解いて書類に目を通した。


「これは……本当なのか?」











 ――ダスティンから報告書を受け取ってすぐに、俺は手記についての中間報告を切り上げて、この場にいた全員を連れてホワイトウルフ商店に引き返した。


 そして速やかに小一時間ほどの臨時閉店を指示し、関係者総出の会合の準備を整えていく。


 この場に集まったのは、俺とガーネットを除いて九人。


 ホワイトウルフ商店で勤務している、黒魔法使いのノワールと薬師のエリカ、機巧技師のアレクシアと竜王騎士団の縁者であるレイラ。


 騎士団側からは、虹霓鱗(こうげいりん)騎士団のヒルドと紫蛟(しこう)騎士団のマーク。


 加えて、どちらにも属さない冒険者達、サクラとナギとメリッサ。


 全員をリビングに入れると椅子が足りないので、店頭のカウンター周りでの立ち話という形式を取ることにする。


「いきなり集まってもらってすまない。急いで話し合っておきたいことができたんだ」


 一体何事だと困惑する面々に、俺は報告書の内容を手短に伝えた。


「とある冒険者が魔王城地下の迷宮の突破に成功した。ダスティンが第一報を持ち帰ってきたところだから、現場の冒険者と支部を除けば最速で俺に伝わったことになる」


 この報告にとりわけ驚いていたのは、本職の冒険者である三人だった。


「ルーク殿、一体誰が迷宮を踏破したのですか」

「ロイだ。Aランク冒険者、百獣平原のロイ。あいつのスキルは手数が物を言う探索だと滅法強いからな」


 踏破者の名前を聞いて、サクラは納得の声を漏らした。


 百獣平原のロイ。

 子供の頃に行き倒れていたところを俺が短い間だけ面倒を見、冒険者として食っていけるように多少の世話をしたところ、凄まじいペースで昇格してAランクに到達した期待の若手。


 最近まで、王都を騒がせていた夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)事件の捜査に協力していたため、グリーンホロウにやって来たのはごく最近のことだったが、早くも大きな成果を挙げたようだ。


 奴の主力スキルである【精霊獣召喚】は、魔力で編み上げた半透明の動物を使役する能力で、ロイの技量ならば戦闘能力を持たない小動物規模であれば最大三百体を探索に回すことができる。


 数に物を言わせた総当りによる迷宮踏破。

 生物ではない精霊獣ならば致命的なトラップを気にする必要もない。


 壮絶な力技だが、俺の知る限りでは勇者ファルコンの【地図作成】に次ぐ強力な探索能力である。


「ともかく『魔王城領域』の次の階層に到達したので、最新の状況を共有するため、白狼騎士団にも視察に来てもらいたいそうだ」

「なぁるほど。ようやく騎士団らしいお仕事ができるってわけですね」


 アレクシアが茶化し半分感心半分な口調でそう言った。


「でもそういう話なら、店を閉めてエリカやレイラまで集める必要はなかったですよね。他にも何かあるんじゃないですか?」

「ああ。その新しい階層も一筋縄じゃいかない場所らしくてな。詳しい理由はまた後で説明するつもりだが、薬毒に関する知識がある奴と、出力の高い炎を扱える奴を同行させたいんだ」


 そう説明するなり、全員の視線がノワールの方へと集まった。


 当のノワールは驚き慌て、おたおたと視線を泳がせている。

 俺は別にノワールを困惑させたかったわけではないので、皆が考えていることをすぐに否定することにした。


「確かにノワールは両方の役割を一人でこなせるけど、ここ最近は武器屋の仕事が詰まってるからな。今回は地上にいてもらいたいと思ってる」

「でしたら誰が代わりに?」


 レイラからもより具体的な説明を求められたので、無意味に焦らすようなことはせず、現場視察に同行してもらいたい人物を名指しで明示する。


「まずは炎の使い手としてサクラとメリッサに同行してほしい。もちろんギルド経由で依頼をするから報酬も出す」

「ルーク殿からの依頼でしたら直接でも一向に構いませんよ」

「ノワールさんが忙しい理由の一端は私達だしね。もちろん受けますよ。ナギも来てくれるよね?」

「……断れる立場でもないからな」


 サクラとメリッサは要請を快諾してくれた。


 断れる立場でないという言い回しが少し気になったが、詳しい事情は後で聞けばいいだろう。


「後は薬毒の知識がある人物だが……エリカ、お前に頼みたい」


 俺がそう発言してからしばらくの間、エリカはまるで他人の名前が呼ばれたかのように反応せず、やがて周囲の視線が自分に集まっていることに気が付いて、大きな驚きの声を上げた。


「……えっ、えええええっ!?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ウダウダ続き過ぎだって。もう立派なナロー作家様 なんで、みんな最初はテンポ良く展開するのに、自己満で変な所の穴をいつまでも掘り続けるのかな?
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