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第322話 メリッサと赤羽騎士団

「……そうだ、一つ聞きたいことがあるんだが。お前達の知り合いに【魔道具作製】スキルが使える奴はいたりしないか?」


 俺からそう問いかけられたメリッサは、少しばかり悩むような素振りをしてから、何故か照れ笑いを浮かべながら質問に答えた。


「ごめんなさい、実は【魔道具作製】が使える人どころか、魔法使いって呼べる知り合いすらいなくって……」

「え……あんなにたくさんの属性魔法を習得できたってことは、魔法使い絡みの神様を信仰してたんだろ。だったらその分野の知り合いなら……」

「そういえば、私の素性って教えたことなかったですっけ? ナギのことは色々詳しいみたいですけど。最初から話すと長くなりますけど、お時間は大丈夫ですか?」


 俺は少々考えてから首を縦に振った。


 確かにナギのことはサクラ絡みで色々と耳にしている。


 東方大陸の同じ地方の出身で、サクラの一族とは何かと対立しがちな一族の出身であり、忍者と呼ばれる特殊工作員としてのスキルや技能を身につけている――これらの全てがサクラ経由の情報だ。


 しかしメリッサのこととなると、ナギに思いを寄せている嫉妬深い属性魔法使いという以上のことは何も知らなかった。


「私のフルネーム、実はメリッサ・アカバネっていうんです」

「家名があるのか? いいところの出身なんだな」

「いえいえ、昔の名残みたいなものですよ」


 俺とメリッサは資料室の外壁に寄りかかって話し込み始めた。


 周囲では建築作業が絶え間なく進められているが、その騒音は資料室の中はおろか、俺達のところにも届いてこない。


 ノワールが仕掛けてくれた防音結界のおかげで、外の音に煩わされることなく研究ができるようになっているのだ。


「ずっと昔……だいたい百年くらい前でしょうか。東方大陸の皇国の有力領主が、西方大陸のとある国に独断で使者を送ったんです。そのうちの一人が故郷に帰らず定住することを決意した……それが赤羽(アカバネ)家の始まりだったそうです」


 東方風の響きがする家名だと思ったが、まさか本当にそうだったとは。


 となると、メリッサにも東方人の血が流れているということだろうか。


 内心に思い浮かんだ疑問に対する答えは、わざわざ尋ねるまでもなくメリッサが説明してくれた。


「といっても、私の家系はかなり遠い分家筋なんですけどね。本家と違って血筋には全然拘ってなくって、私の世代だと九割以上西方人みたいです」

「なるほど……あえて拘らなかったらそうなるよな」

「まぁ本家の方も、一番濃くって四分の一(クウォーター)未満になっちゃってるみたいですけどね」


 たとえ先祖に東方人がいたとしても、親戚同士の婚姻を繰り返すなどの手段を講じない限り、血筋の中に占める東方人の要素の比率は下がる一方だ。


 メリッサの外見にそんな印象が全くないのも当然である。


 むしろ有史以前から計算したなら、あらゆる西方人に東方人の血筋が混ざり、逆にあらゆる東方人に西方人の血筋が混ざっていることになるに違いない。


「本家は家名を西方(こっち)の言葉に翻訳した赤羽(あかばね)騎士団なんて代物を立ち上げて、それなりに名家ぶってるんですけど、うちは大した事ない普通の家でしたよ」

「……凄く興味深い話ではあるんだが、それと魔法使いの知り合いがいない件にどんな関係があるんだ?」

「おっと、すいません。それじゃ本題に」


 メリッサは盛大に横道へ逸れつつあった話を本題に戻した。


「うちの一族は、昔ながらの風習と言いますか慈善事業と言いますか、ごく稀に海を渡ってくる東方人を助けることにしているんです。家族一つあたりとなると、数年に一回あるかどうかなんですけど……」


 いつしかメリッサの表情は、懐かしい思い出話を語るときのそれになっていた。


「両親が家に泊まらせた旅人が、オンミョウジっていう魔法使いだったんです。星読みができて、東方流の五大属性に光と闇を合わせた十属性! 凄く格好良くて憧れたんですけど……」

「西方ではどの神様に祈ればいいか分からなかったと」

「そうなんですよね。だけど諦めきれなくって、とにかく町中の神様にお祈りしまくってたら、どの神様のお陰か分からないけど【属性魔法】を授かってしまいまして」


 照れ臭そうに笑うメリッサ。


 こんな経緯で魔法が使えるようになったなんて聞いたことがなかったが、実際にそうなっている以上は、そういうこともあるのだろうと納得するしかない。


 それに、魔法使いの知り合いがいない理由としては、間違いなく納得するしかない経緯であった。


「ありがとな、よく分かった。それにしても、独学でよくあそこまで鍛えられたものだな。やっぱり……冒険者になったのもそれが理由か?」

「……! さすがはベテラン、そこまで分かっちゃいますか」


 メリッサは改めて感心した様子で、目を丸くして俺の顔を見上げた。


「属性魔法を一つだけ使える冒険者ならそこそこいましたからね。冒険者になってそういう人達のお世話になって、一つ一つ鍛えながら今に至る感じです。いやぁ、大変でしたよ」


 これで、メリッサが魔法使いらしく研究をせず、純粋に冒険者だけをしている点も納得がいった。


 スタートラインからして普通の魔法使いとは異なり、職業魔法使いを志しすらもしていなかったからなのだ。


 ――ふと、全く関係のない疑問が脳裏を過る。


 メリッサがナギと出会ったのはどのタイミングのことなのだろうか。


 東方人の旅人をサポートする家訓の遂行中に出会ったとも、お互いに冒険者になってからその活動の中で出会ったとも考えられる。


 しかしこんな質問はさすがに不躾としか言いようがなかったので、こちらは心の奥にしまっておいて、別の質問を投げかけることにする。


「……ところで、話は変わるんだが。赤羽騎士団の創設者が東方系なら、どうして東方大陸絡みの公務を紫蛟(しこう)騎士団が請け負っているんだ? 東方人を助ける家訓があるのに、東方絡みの仕事からは外されたのか?」


 何気なく発した俺の疑問に対し、メリッサは『何だそんなことか』と言わんばかりの気軽さで回答した。


「うちの本家は主要な創設メンバーっていうだけで、騎士団のほぼ全員は東方関係ないですから。それに()()()()のもまずいでしょ?」

「ああ……確かにそうかもな」


 アカバネ一族の本家は、騎士団の名前に赤羽(レッドフェザー)の名を残せる立場にはあったが、騎士団全体が彼らの個人的な意向に支配されているわけではない。


 そして、紫蛟(しこう)騎士団の任務の中には、東方大陸に対する軍事的警戒すらも含まれる。


 東方系の血筋を持ち、東方からの旅人を助ける伝統がある一族には任せられないと思われても、さすがに致し方ないと言わざるを――いや、逆にアカバネ家の方から断っても当然の役割だ。


「引き止めて悪かったな。色々教えてもらえて助かったよ。それじゃ、またな」


 とりあえず、メリッサから聞き出したいと思っていた以上の情報を得ることができた。


 ガーネットを待たせすぎたかと考えながら立ち去ろうとしたところで、メリッサがポンと手を打ち合わせ、何かを思い出したような顔で声を上げた。


「そうだ! 大事なこと忘れてました!」

「……どうかしたのか?」

「ナギからの伝言です。前に約束していた、サクラ……さんの神降ろし、でしたっけ? とにかくそれの暴走を押さえる手段、多分アイディアが固まりそうだから、ルークさんにもそう伝えてくれって言ってましたよ」

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