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第321話 白狼騎士団本部(建設中)

 紫蛟(しこう)騎士団のマーク――その名を聞いてすぐに、俺はリビングを後にして店の方へ向かった。


 当然のようにエリカも後に続き、ノワールも俺の反応の速さに驚きながらもついて来る。


 店番をしていたガーネットが親指で示した方向には、店の隅で他の客の邪魔にならないように佇む、旅装束の若い騎士の姿があった。


「久し振りだな、マーク。いやまぁ、王都の一件以来だからそんなに経ってはないんだけどさ」

「……紫蛟(しこう)騎士団のマーク・イーストン。白狼騎士団への出向団員として到着いたしました」


 相変わらずの他人行儀な口調に一抹の寂しさを覚えなくもなかったが、致し方のないことだと割り切って、仕事の話として会話を進めることにする。


 マークは目線だけ動かして店内の様子を一瞥してから、淡々とビジネスライクに発言を続けた。


「既に連絡が行っていると思いますが、自分は資料分析の補助のために派遣されました。その範疇を越えた仕事は割り振らないようにお願いします」

「分かってるよ。ジャスティン卿もそれを見込んで派遣したんだろうしな。とりあえず仕事場を紹介しようか」


 とりあえず重要な用件を真っ先に済ませてしまうことにしよう。


 そう思って店を出ようとすると、ガーネットが当然のようについて来ようとしたので、店番を続けるように手振りだけで伝えておいた。


 別にガーネットが一緒でもこちらは何の問題もないのだが、他の連中の休憩を回すことを考えると、さすがに店舗から一気に二人も抜けるのは止めた方がいい。


 目的地はすぐ近くの建設現場なのだし、何より現地には信頼できる実力者が何人もいるのだから、護衛の必要もほとんどないだろう。


 というわけで、少し不満げなガーネットにも店番を任せ、俺はマークを連れて騎士団本部の建設現場に向かうことにした。


「(……ガーネットには悪いけど、マーク(じぶん)を警戒して護衛を付けてるのかとは思われたくないしな……)」


 本当の関係を教えることができれば最善なのだが、それはまだまだ先のことだろう。


 丁寧に整備された山中の坂道をしばし歩き、切り拓かれた建設現場に到着する。


「団長殿。あれは何をしているのですか?」


 マークの視線の先にあったのは、職人の一人が台座に載せられた木材に手を添えて、端から端まで撫でるようにゆっくりと往復させている姿だった。


 事情を知らないと、確かに意味不明の光景に見えてしまうかもしれない。


「魔法で木材を乾燥させてるんだとさ。普通は長い時間を掛けて生木を乾燥させるんだが、どうしても急ぐ必要があるときは追加料金で請け負ってくれるんだ」


 グリーンホロウ・タウンの業者の倉庫にしまい込まれていた在庫は、ホロウボトム要塞の建築および最近の改装のときにごっそり使われて数を減らしてしまった。


 残っていた分も、多くは宿や商店の新築や改装のために予約が入っていて、俺達からの依頼に回す木材の調達に遅れが生じかねなくなったのだ。


「なるほど……原理的には熱を加えて蒸発させているのでしょうか」

「そういうのもあるけど、あの人は凍結系に近いんだったかな。水分を取り出して霜みたいに凝固させるとか何とか。魔力の消費が堪えるから基本的に取っておきだとも言ってたな」


 もちろんこれらの魔法は、林業や建築業で役立てるために特化したものである。


 他の対象、具体的には動物に使って加害するのは難しく、逆に攻撃用魔法をこの用途で使うのも至難の業らしい。


 それにしても、どうやらマークは俺に対しては興味なさげな態度を貫くつもりなのに、職人の生産的魔法には知的好奇心をくすぐられたようだ。


 少しだけそれが癪に障ったので、興味を引きそうな情報を教えてみることにする。


「あの職人が腰に下げてるポーチがあるだろ。あれは魔力結晶を入れておくと、手を触れなくても魔力を引き出せる代物でな。うちで作って販売してる商品なんだ」

「えっ、魔力結晶を握らずに? 本当ですかそれは」

魔力供給器(サプライヤー)っていう商品名で、黄金牙にもいくつか卸してるくらいだぞ」


 これもノワールの【魔道具作製】スキルがあってこそ。

 彼女一人に負担を掛けすぎないよう、早いうちに同じスキルを持つ人材を招きたいところだ。


「もっとも肝心の魔力結晶が高額だから、あんまり頻繁に売れるもんじゃないんだけどさ。あの人が使ってるのも、うちが魔力結晶ごと提供した奴だしな」


 マークの率直に驚いた顔を見て多少溜飲が下がったので、適当なところで話題を切り上げて目当ての建物へ向かうことにする。


 目的地は建設予定地の一画、他の施設よりも一足先に仕上げられた倉庫のような建物だ。


「こいつが研究棟だ。資料の分析研究もここでやれるようになってる。全体が完成したら屋根と壁付きの廊下で繋げる予定だけど、まだそこまで進んでない段階だな」


 厚い扉を開けて薄暗い研究棟に入る。


 内部は図書館と倉庫を足して割ったような構造で、各種資料を収めるための空の書架が立ち並んでいる。


 今は資料が届いていないので閑散としているが、もうじきここも資料室らしくなるはずだ。


 もう一枚扉を潜ると、今度は逆に自然光が取り込まれた明るい場所に出た。


 資料室と比べて一回りも二回りも小さいものの、大きなテーブル以外に目立つ内装がなく、隅々まで見渡すことができる会議室だ。


 そして会議室のテーブルには三人の少年少女が座り、一冊の手記を挟んで意見を交わしていた。


「三人ともお疲れ。進捗はどんな具合だ?」

「おや、ルーク殿。読み進める分には問題ないのですけど、解読には手間取りそうです」


 マークが息を呑む気配がする。


 会議室にいたのは、サクラとナギ、そしてメリッサ。

 手記の翻訳作業を依頼した冒険者二人と、自主的に立ち会っている冒険者が一人という取り合わせだ。


「何せただの日記ですからね。本人が理解している物事に関しては、いちいち説明が記されていないのが困り物でして」

「しかもこれはどうやら二冊目……っと、そこの騎士はもしや」


 ナギもすぐにマークの存在と正体に気が付く。


 事前に一連の事情は説明してあるので、見覚えのない騎士という時点ですぐに察しが付いたのだろう。


「前にも話したとおり、翻訳はこの三人で取り組んでくれ。マークも構わないよな?」

「も、もちろんです!」


 マークの返答は絵に描いたような喜色満面ぶりだった。


 自己紹介などのやり取りは本人達に任せ、俺は一足先に店舗の方へ戻るために会議室を後にした。


 すると、俺から少し遅れてメリッサも会議室から姿を現した。


「珍しいな。ナギとは別行動か」

「いい加減お前も仕事してこいって怒られちゃいまして」


 頭の後ろに手をやって、誤魔化すように笑うメリッサ。


 確かにナギの言う通りではあるものの、俺にとってはむしろ好都合だ。


「……そうだ、一つ聞きたいことがあるんだが。お前達の知り合いに【魔道具作製】スキルが使える奴はいたりしないか?」

https://kadokawabooks.jp/product/syuuhukusukirugabannnou/321901000611.html

本日9月10日は本作の書籍版第2巻の発売日です。

地方によっては多少の遅れがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。


それともう一つ、本日時点での総合評価が11万ポイントに到達していました。

今後も応援していただけたら幸いです。

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