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第320話 魔道具製品の今後のために

 ――それからしばらくの時間が経った頃。


 普段通りに武器屋の営業を続け、店舗部分の奥のリビングで休憩を取っていると、ノワールが遠慮気味に仕事の相談を持ちかけてきた。


「ル、ルーク……実は、その……仕事絡み、で……頼みたい……ことが、あるん、だ……」


 正直、少し意外だった。


 会議の議題として各担当者からの要望を聞いたわけでも、他の従業員が要望を出したのに乗じたわけでもなく、ノワールが自分から率先して相談を持ちかけるのは珍しい。


 もちろんこれまでにも皆無というわけではなかったが、すぐに『珍しいな』という感想が浮かんでくる程度には希少だった。


「どうかしたのか?」

「……あ、ああ……実は……」


 ノワールからの要望の内容は人材の補充だった。


 武器屋の営業を回せるだけの従業員は既に揃っている。

 本店も支店も人手不足に喘ぐことはほとんどなくなり、いつも問題なく仕事をこなすことができていた。


 今回、ノワールが持ちかけてきた相談は、店舗で働く従業員の人数ではなく、商品を作る方の人手の補充を訴えるものだった。


 店に並べている商品のうち、武器や防具は俺が【修復】で廃品を直したものや他所から仕入れた品物だが、それ以外の商品はノワール達がスキルを使って作成しているものが主だ。


 ポーションや軟膏といった薬品の類は薬師のエリカが。


 構造が複雑な道具や武器は機巧技師のアレクシアが。


 そして、マジックスクロールやアミュレットを始めとする魔道具は、黒魔法使いであるノワールが。


「じゅ……需要が、増えて、きて……今は、まだ、いいん、だけど……そのうち……手が、回らなく、なる……かも……しれない、んだ……」

「なるほど……魔道具はお前しか作れないからな」


 魔道具は専用の【魔道具作成】スキルを持つ者にしか作成することができない。


 スキルの力が込められた魔力を材料に注ぎながら作業をする必要があるため、スキルを持たない人間が同じ形で組み上げても、何の効果も発揮しないのだ。


 現在、商品として陳列されている魔道具、および魔道具を応用した道具や武器は、全てノワールの作品といえる代物である。


 このまま需要が右肩上がりに上昇し続ければ、いずれ手が回らなくなるのは明白だ。


「分かった、考えておく。それにしても、早い段階で報告してくれて助かったよ。いざとなってから焦って対処するのは大変だからな」

「わ……私が、楽に……仕事、したかった、だけ……だから」

「それが大事なんだ。お互いに言わなきゃ分からないことはあるからな。それに裏を返せば、今より仕事効率を上げたいってことなんだからさ」


 仕事量が許容量を越え、にっちもさっちもいかなくなって破綻してしまってから、実は無理だったんだと報告されたらどうしようもない。


「まぁ、言われる前に気付かなかった俺も未熟だ。近頃の新製品はお前とアレクシアあってこそで、アレクシアは知り合いの技師を何人も呼んでるのに、お前はずっと一人で頑張ってきたんだからな。自分から教えてくれて本当に良かったよ」

「そ、そんな、ことは……」


 従業員に適切な量の仕事を割り振るのは、上司や雇用主がこなすべき当然の仕事である。


 しかし適切な配分は、働いている側からの適切なフィードバックあってこそ。


 常に様子を見て余裕があるかを常に観察するのも大事だが、それと同じくらいに、仕事を割り振られる側が自分の限界を伝えるのも大事なのだ。


 当然だが、これは商店のみならず冒険者パーティでも同じだった。


 リーダーはパーティメンバーに対して常に目を配り、もしも限界が近いと判断したら、たとえ本人が続行を希望しても途中離脱させなければならない。


 逆にパーティメンバーも、自分の限界が近いことをリーダーが気付いていないと分かったら、その事実を遠慮なく申告してフィードバックさせる必要がある。


 これらの二重の安全対策があってこそ、安全な探索を実現させることができるのだ。


「じゃ、じゃあ……【魔道具作成】が、使える、人材を……できれば……」

「善処はするけど、ギルドに声を掛けても見つかるかどうか……魔法使いのサブスキルくらいでしか身につかないし、魔法使いって基本的に自分の研究第一なんだろ?」

「そ、そう、だな……攻撃、魔法……も、使える、戦士……じゃ、なくて……【魔道具作成】も、使えると、なると……筋金入り、が、多い……な……」


 困り顔で俯きながら、ノワールは伏せた視線を泳がせた。


 ノワールのように多数の魔法を使いこなせる奴は、実のところ世間ではあまり見当たらない。


 黄金牙騎士団の騎士が魔力防壁を張るように、それぞれの職業に合った少数の魔法を扱えるという程度なら珍しくないのだが、魔法専門のエキスパートとなると意外に希少だ。


 というのも、スキルは職業ごとの神々を信仰することで身につくとされるからだ。


 魔法のエキスパートになれるほどのスキルが得られるのは、補助的に魔法を扱う者ではなく、魔法を本業とするほどの者――つまりは専業魔法使いばかりである。


 そして専業の魔法使い達は、学問として魔道を極めることを生業としており、俗世間とはあまり関わりを持とうとしないのだ。


「ノワール。お前の知り合いに、うちで働いてくれそうな心当たりはいないのか?」


 駄目元で尋ねてみたが、予想通りに首を横に振られてしまう。


「いる……なら、もう……頼んで、る……」

「やっぱりそうだよな。まずはギルドに相談して、王宮にも話を回してみて……いや、武器屋のことは自分でやれって言われそうだけど、やるだけやってみるか」


 問題解決のための手段を頭の中であれこれと考える。


 すぐに声を掛けられる知り合いの冒険者の中にも、ノワールがやっている仕事を分担させられるような【魔道具作成】の使い手はいなかった。


 となるとやはり、知人の知人レベルの伝手(つて)を辿るしかないだろう。


「他に魔法使いの冒険者といえばメリッサもそうだけど、確かあいつは【魔道具作成】を使えなかったよな」

「で、でも……ひょっと、したら……メリッサの……知り合いに、いる、かも……」

「確かに。相談くらいはしてみるか」


 そんなことを話し合っていると、店の方を任せていたエリカがひょこっと顔を出した。


「あっ、いたいた! 店長、お客さんが来てますよ」

「客? 俺にか」

「ですよ。紫蛟(しこう)騎士団のマークさんです」

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