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第295話 決着とひとまずの幕切れ 前編

()った!」


 床を踏みしめて急停止するガーネット。


 俺もすぐさま【修復】を発動させて負傷を塞ぎつつ、破断した左腕の傷口を【修復】の魔力で塞いで出血を食い止める。


 エイルの体がその場で崩れ落ち、切断された頭が床を転がる。


 さっきはスキルなしで重い剣を振るったせいで速度も精度も十分ではなく、致命的な箇所を狙い澄まして斬り裂くには至らなかったが、強化さえできていればこの通りだ。


「白狼の! 生きてるか! 生きてるよな!?」

「ああ、うまくいったな……正直かなり際どいところだったけど」


 大量の魔力を空気中にばら撒くことさえできれば、ヒルドが魔力をかき集めてスキルを発動可能にしてくれる――そう聞いた瞬間に思い浮かんだのがあの列車だった。


 あの列車の動力源が魔力であることは、既に『右眼』のお陰で分かっていた。


 ならば溜め込まれている魔力をぶち撒ければ条件を満たせるはずだが、容易に魔力を放出させられる構造とは限らないし、今の俺達には力尽くで壊すことはできない。


 だから、エイルの魔法の破壊力を逆に利用させてもらうことにしたのだ。


 無謀な挑発も全てはそれのための布石。

 弱い攻撃で延々と嬲られ続けたら作戦どころではなくなってしまう。


 もちろん裏目はいくつもあった。

 やる気を出させても破壊力が期待を下回って車両を壊せないかもしれず、実際そうなりかけたように攻撃のダメージで普通に死んでしまう恐れもあった。


 だが結果はこの通り。

 俺達は賭けに勝ち、無事に命と記憶を持ち帰る権利を手に入れたのである。


「団長殿! ガーネット卿! ご無事で……」


 決着を察して物陰から飛び出してきたヒルドだったが、左腕を吹き飛ばされた俺と首を斬り落とされたエイル――こちらは複製に過ぎないが――を見て、卒倒しそうなくらいにぐらりと体勢を崩した。


「お、おい。大丈夫か?」

「すみません……血はかなり苦手でして……この前の夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)事件のときなど、保管されたご遺体を目の当たりにした瞬間に意識が途切れたほどで……」


 ヒルドは顔を真っ青にしながら空元気を見せている。

 膝が生まれたての子鹿のように震えているあたり、酸鼻を極める光景は本当に駄目なようだ。


 ただ、夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)事件の遺体は本当に凄惨な有様だったので、あれを見て気絶するのは特別ではないと思う。


 俺とガーネットはどちらも揃って平気な部類だったけれど。


「そうか……だったら左腕のパーツの回収は頼まない方が良さそうだな」

「……えっと、パーツって、どういう意味です?」

「二の腕の辺りが弾け飛んだから、腕を【修復】する前にできるだけ肉と骨を集めておきたいなと……」

「おーい、白狼の。腕拾ってきたぜ。肘から先しかねぇんだけど、これ繋がるよな?」


 俺とガーネットの二段構えの攻撃を受け、ヒルドは力なく膝から崩れ落ちたのだった。


最近ちょっと心理的な感覚が麻痺してきた感があったが、後で【修復】できるのを前提として無茶をするのは、傍から見たらなかなかに問題のあることなのかもしれない。


 とにかくガーネットと協力して左腕を【修復】し、ようやく一息つくことができるようになった。


「……ふぅ、これで後は【修復】で体に戻るだけだが……さて、どうしたものかな」

「まだやり残したことでもあんのか?」

「夢か幻か知らないけど、ここにはエイルがあんなにも隠したがった手がかりが、そこら中に転がってるはずなんだ。できるだけ調べ上げておくのもいいかと思ってさ」


 俺達にそれをさせないために、エイルはこうも手の混んだ妨害工作に打って出たのだ。


 裏を返せば、この空間には古代魔法文明の真相を暴けるだけの手がかりがあるということ。


 帰還を多少先延ばしにするだけの価値はあるはずだ。


 そんな会話をガーネットと交わしていると、急にヒルドが上ずった悲鳴を上げた。


「だ、団長殿! エイルの死体が……!」


 何事かと振り返り、まさかの光景に俺達も揃って息を呑む。


 ――首なしの死体が鮮血滴る頭を両腕に抱え、小刻みに震えながら立ち上がっていた。


 腕の中の頭がぎょろりと目を剥き、逆流した血液をこぽりと口から吐き出す。


 戦慄が背筋を駆け抜ける。


 しかし考えてみれば、あれは生身の肉体ではなく精神体、それも複製に過ぎないのだ。


 生身の肉体や今の俺達と違う条件下で動いていたとしても、何の不思議もありはしなかった。


「まだやる気なのか……!」

「……させは、しない……お前達の、好きには、させない……」


 発動させっぱなしだった『右眼』が異変の兆候を捉える。


 エイルの肉体が、精神体の複製が、内側から砕けるように崩壊していく。


 そして崩れ落ちた箇所から魔力の光が溢れ出し、瞬く間にその輝きを増していった。


「こいつ、自爆する気か!」

「違います! これはまさか!」


 ガーネットとヒルドの叫びが耳に届くのとほぼ同時に、凄まじい閃光が視界を埋め尽くした。


 熱くはない。痛みもない。

 ただひたすらに眩しく、視覚と同時に全身の感覚までもが薄らいでいく――











 ――そして次に飛び込んできた光景は、紛れもなくホワイトウルフ商店のリビングのそれであった。


 俺はあの空間に引きずり込まれる直前と同じく椅子に腰掛けており、ヒルドは目の前で崩れ落ちて床に横たわっていて、ガーネットは前のめりに倒れ込んだ結果、俺の膝の上に寄り掛かる形になっていた。


「元に……戻った、のか……?」

「ん……ここは……うおわっ!」


 意識を取り戻したガーネットは、しばらくぼうっとしたままきょろきょろと辺りを見渡していたが、俺の太腿を枕にしていたことに気が付いて派手に飛び退いた。


 やや遅れて、床に横たわったヒルドも気が付いて、頭痛を堪えるように頭を押さえたまま立ち上がった。


「どうやら、強制的に弾き出されてしまったようですね……無念です」

「命があっただけ儲けものさ。向こうで何があったのかは全部覚えてるみたいだし、得る物は多かったと思うぞ」


 ただの夢なら覚醒と前後して忘れてしまうものだけれど、今回の記憶は実体験と同じく鮮明に残っている。


 エイルの複製体は文字通り最後の力を振り絞って俺達を追い出したものの、記憶に手を出すほどの余裕はなかったのだ。


 追加調査はできなかったが、結果としては満点に近い成果だろう。


 あれ以上の調査は、あくまで百点を越える追加点を積み重ねる機会でしかなかったのだから。

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