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第282話 今こそ君達に打ち明けよう 前編

 グリーンホロウ・タウンに戻って普段通りの日常を送りながら、俺は妙な罪悪感を抱いて皆の働きぶりを眺めていた。


 エリカ、ノワール、そしてアレクシアの三人は、店舗での作業をこなす傍ら、それぞれ得意の商品の製造と開発を頑張ってくれている。


 しかし彼女達は何も知らない。

 騎士叙勲の予定も新騎士団の設立も、ガーネットの二つの意味での()()も俺との関係も何もかも。


 隠さなければならない理由はよく分かっているし、それらの理由が段階的になくなっていくのも理解している。


 けれど『もうすぐ秘密を打ち明けられる』『嫌でも打ち明けなければならなくなる』と実感すればするほどに、これまで隠し続けてきたという事実がひどく不誠実に感じられるようになってしまった。


 傍から見れば筋の通らない自虐意識なのかもしれないが、俺にとっては割と切実な問題だ。


「(それに……隠し事をしてる相手は三人だけじゃないんだよな……)」


 むしろ罪悪感という面ではあちらの方が強いかもしれない。


 そんなことを考えた矢先、まさにその張本人達が店を訪れたのだった。


「皆さん、差し入れ持ってきましたよ」

「忙しそうなら手伝おうかと思いましたが、今日は問題なく回っているようですね」


 シルヴィアとサクラ。この町で一番、俺との付き合いが長い二人。


 彼女達はガーネットが銀翼騎士団の騎士であり、俺の護衛のためにグリーンホロウに残っているということを知っている。


 しかしそれ以外に関しては、三人と同じく何も知らないままだ――これまでに何度も世話になってきたというのに。


 唯一、この店で俺達の秘密をよく知っているのは、恐らくレイラだけだろう。


 レイラは竜王騎士団を構成する一族の一員で、俺が騎士団長に推薦されたことも把握したうえでここにやって来た。


 さすがに、ガーネットとアルマの本当の関係性までは知らないようだが……。


「おい白狼の。何ぼーっとしてやがるんだ」


 シルヴィアの差し入れに嬉々としている面々を眺めていると、後ろからガーネットがこっそり話しかけてきた。


「そろそろ皆にも、本当のことを話すべきだよなって考えてたんだよ」

「ああ、全部事後報告ってのもアレだしな。話せることは順番に伝えていった方がいいか」


 ガーネットは秘密を打ち明けることに同意を示し、俺の肩をばしっと叩いた。


「踏ん切りがつかねぇなら、全員まとめてとか考えずにちょっとずつやっていきゃいいだろ。回数重ねりゃそのうち慣れてくるって」


 まいった、どうやら言葉にしていない内心を見透かされていたらしい。


 ここにいる全員を貸し会議室かどこかに集め、騎士叙勲と新騎士団のことを一度に明かすことを思い浮かべて、そのプレッシャーの強さに尻込みしかけているところだった。


 けれどガーネットの言う通り、少しずつ順番にこなしていけば気が楽かもしれない。


「シルヴィア、サクラ。ちょっといいか?」


 ならば、最初に打ち明けるべきなのはあの二人だ。


 揃って振り返った二人に、決して後戻りが利かない誘いを持ちかける。


「時間があったらで構わないから、閉店後にもう一度来てくれないか。話しておきたいことがあるんだ」




 ――その日の夜、シルヴィアとサクラは約束通りに二人でホワイトウルフ商店を訪れてくれた。


 ごく自然な流れでお茶の準備をしようとするシルヴィアを引き止めて、招いた立場である俺達が四人分のハーブティーを用意する。


 そうして、俺とガーネット、シルヴィアとサクラの四人が、リビングのテーブルを挟んで向かい合う形になった。


「ええと、それで……お話っていうのは?」


 こちらが話題を切り出すよりも早く、シルヴィアが話を積極的に先へ進めようとする。


 改まった席を用意されたことの不安よりも、どんなことを話すつもりなのかを楽しみにする感情が強いように思える。


 ネガティブな報告があるという可能性は最初から考慮もしていないのだろう。


「まぁ……あれだ。二人も知っての通り、俺はグリーンホロウと『魔王城領域』に関する騒動に片っ端から巻き込まれて、それなりに貢献する()()()()()()わけだ」

「ご謙遜を。ルーク殿の活躍ぶりがそれなり止まりなら、他の誰もが活躍できていないことになりますよ。何よりまず私が困ります。成果を誇れなくなってしまいますから」


 サクラから当然のようにそう言われ、思わず反応に困って口ごもってしまう。


 自分を過小評価する悪癖は常々直そうとしているが、それでもまだ、想定以上の評価を受けるのには慣れ切っていない。


 だが今はそれより先の話をするために二人を呼んだのだ。


 咳払いをして気を取り直し、迷わず本題へと踏み込んでいく。


「とにかく、巻き込まれた結果とはいえ挙げた成果が、ありがたいことに騎士団からも高く評価されて、銀翼と黄金牙から『うちの騎士にならないか』と誘われて……それがレイラと竜王騎士団の件に繋がったわけなんだがな」


 誘いを受けたタイミングは、厳密には魔王戦争が激化する前だったが、細々とした時系列は省いて大枠の流れを改めて説明する。


「実は竜王騎士団の件が流れてからも水面下で話が進んでいてさ、正式に騎士叙勲を受けることが決まったんだ」


 シルヴィアとサクラは目を丸くし、お互いに顔を見合わせてから、揃って驚きの声を上げた。


「えっ……えええええっ!? ルークさん、本当に騎士になるんですか!?」

「てっきり話が流れて無かったことになったものだとばかり……いえ、重大なことですから、正式決定まで伏せておくのは当然ですが……!」

「つまりガーネットさんの同僚になるってことですよね!」

「いや待て、黄金牙を選んだなら商売敵では?」


 俺が口を挟む暇もなく驚愕に満ちた言葉が飛び交う。


 まず二人だけに打ち明けたのは正解だった。

 もしも関係者全員を集めていたら、この程度の混乱では済まずに収拾がつかなくなってしまったに違いない。


「悪い、かなりの大事(おおごと)だから口止めされてたんだ」


 これまで黙っていたことに詫びを入れると、シルヴィアとサクラは逆に焦った様子で首を横に振って否定した。


 ――まずはこれで一つ目の秘密を打ち明けられた。


 現段階で二人に話せるのは、後は新騎士団の件だろうか。


 こちらは組織編成が本格的に動き出せば、グリーンホロウの町役場やギルド支部とも歩調を合わせなければならなくなるので、遠からず二人の耳にも入ることになる情報である。


 そんなことを考えていると、喜色満面といった様子のサクラが、とてもじゃないが聴き逃がせないことをぽろりと口走った。


「まさか本当にルーク殿が領主になられるとは。実にめでたいことです! てっきり婚約成就のご報告だとばかり思っておりましたが、本当に驚きました」

「……ん? ちょい待った。サクラお前、今なんて言った?」


 リビングがしんと静まり返る。


 サクラは笑顔を半分張り付けたまま視線を逸らし、ガーネットはぴしりと硬直してハーブティーをテーブルに溢し、そしてシルヴィアは諦め顔で額に手を当てていた。


「ええとですね、ルークさん。実は私達も内緒にしていたことがありまして。いい機会ですから打ち明けさせてください」

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