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第278話 四人の騎士団長

 王宮からの書簡で指定されたまさにその日、俺はガーネットを連れてトライブルック・シティへ赴いた。


 この町を訪れたのは、高品質な武具を調達するために鍛冶師のアランと交渉をしたとき以来だ。


 グリーンホロウが短期間で様変わりしたのとは好対照に、こちらはあのときと全くと言っていいほど変わっていない。


「白狼の、御用邸はこっちだぜ」


 ガーネットの案内で市内を歩き、目的地であるトライブルック・シティ御用邸へと移動する。


 そこは高級住宅地の端に位置する、最も警備が厳重な区画。


 高い柵に囲まれた屋敷を、竜王騎士団と思しき騎士達が囲んでおり、ただの一人の侵入者も許さないという気概が見て取れた。


(シティ)に分類されるようなデカい町には、王族や公爵クラスの貴族が使う宿泊場所が用意されてるもんだが……さすがに国王本人が宿泊するとなると警備のレベルが違うな」


 ガーネットは竜王騎士団の警備体制を見渡して、感心した様子で呟いた。


 屋敷の正面に回り、素性を明かして書状を見せて立ち入り許可を得、騎士の同伴(エスコート)を受けながら応接間の前まで歩いていく。


「室内でしばらく待機を。陛下のご準備がお済みになるまでお待ち下さい」


 促されるままに入室した俺達を待ち受けていたのは、明らかに只者ではない先客達であった。


 金髪碧眼で軽薄な雰囲気の男、銀翼騎士団団長カーマイン。


 感情を読み取れない殺風景な顔の男、黄金牙騎士団団長ギルバート。


 この二人には俺も前々から見覚えがある。

 そして残る二人――うち一人は複数の従者を従えている――は全く覚えのない人物だ。


 まず一人は顔立ちの整った妙齢の女性。

 四人の中で彼女だけが椅子に座り、眠っているわけでもないのに何故か瞳を完全に閉じている。


 彼女の周囲には何人かの少女が付き従っているが、少女といってもガーネットやシルヴィアのような『まだ年若いものの社会に出て働いている女性』ではなく、正真正銘の()()()()で、せいぜい十歳やそこらのようにしか見えなかった。


 そして残る一人は、国王陛下よりも更に年上と思しき、白髪(しらが)を後ろに撫で付けた強面(こわもて)の騎士だった。


 世代としてはガーネットの父親のレンブラント卿よりも更に上。

 老騎士と呼んでも差し支えないだろう。


 頭髪も白魔法使いのブランのような瑞々しい白髪(はくはつ)とは違い、元々の色素を喪失して弱りつつある白髪(しらが)である。


 だが加齢による肉体の衰えについては、鍛錬によって最小限に食い留められているようで、下手な若手騎士よりも屈強な印象を受ける体格を誇っていた。


「……おいおい、冗談きついぜ。上級騎士団の騎士団長が揃い踏みかよ」


 ガーネットが口元に苦々しい笑みを浮かべてそう呟いた。


 俺が驚きを露わにするよりも早く、カーマインが俺達の来訪に気がついて満面の笑みで腕を広げた。


「待っていたよ! やっと主役の到着だな!」

「騒ぐな、カーマイン。頭に響く」


 喜色満面のカーマインと相変わらずの無表情のギルバート。

 反応の温度差が激しすぎて目眩(めまい)がしそうだ。


「ということはもしかして、貴方がアルマさんの?」


 瞳を閉じた女性が回転椅子ごとこちらへ向き直る。


 しかし微妙に角度がずれて近くの壁の方を向いてしまい、付き人の少女達が改めて回転椅子を動かして正しい位置に調節した。


「(もしかしてこの人、目が見えないのか)」


 そう察するには十分すぎる振る舞いだった。


 ガーネットを含む他の面々は驚きもせず当然のように受け止めているので、彼女の視力が機能していないことは公然の事実らしい。


 ひとり驚く俺に、白髪の老騎士が威厳ある低音の声で呼びかけてきた。


「白狼の森のルーク。それとガーネット卿。もうじき陛下が到着なされる。そんなところに立っていないでこちらに来い。陛下のご入室の妨げになるぞ」

「あっ……は、はい」


 この応接間に出入り口は一つしかないので、アルフレッド陛下も俺達と同じ扉から入ってくることになる。


 出入り口の前で突っ立ってぼうっとしていたら、どう考えても陛下の邪魔をすることになってしまう。


 老騎士に注意されたとおり扉の前を離れ、カーマインに誘導されるがままに四人の中心へと移動する。


 ちょうど左右をカーマインと椅子の女性騎士団長に挟まれ、更にその隣にギルバートと老騎士が控える位置関係となっている。


「ええと、白狼の森のルークさんでしたね。アージェンティア家のアルマさんの婚約者。噂はカーマイン卿からかねがね」

「まだ正式な婚約者ではありません。レンブラント卿から認めていただくために今回のお話を受けたようなものですから。ええと……」

「アンジェリカです。若輩者ですが虹霓鱗(こうげいりん)騎士団の騎士団長を務めさせていただいております」


 虹霓鱗(こうげいりん)――通称を神殿騎士団や神託騎士団という、各地の神殿に関連する公務を請け負う上級騎士団だ。


 先程ガーネットが漏らした『上級騎士団の騎士団長が揃い踏み』という発言が正しいなら、あの老騎士が残る一つの上級騎士団である竜王騎士団の騎士団長ということになる。


 竜王、黄金牙、銀翼、虹霓鱗(こうげいりん)

 十二の騎士団の頂点に立つ四つの上級騎士団の団長達が揃ったこの場で、本当に俺の騎士叙勲と新騎士団の話をするというのだろうか。


 だとしたら本当にとんでもない状況である。


「あの……カーマイン団長。今回の用件は本当に例の件なんでしょうか」

「ねたばらしは好きじゃないんだけど、君が想像している内容でおおよそ間違いはないと思うよ。準備と調整を重ねてきた案件がようやくまとまったというわけだ」

「長引いた原因の半分は銀翼(おまえたち)の裏工作の帳尻合わせだがな」


 カーマインの気楽そうな発言に対して、横合いからギルバートが毒を吐く。


 その視線はカーマインだけではなくガーネットにも向けられているようだった。


「秘密裏に護衛を付けたのはまだいい。銀翼の職務の一環として納得できなくもない。だが騎士団長の妹を嫁に寄越すというのはまずかったな。三つの団はそれを理由に難色を示したぞ」

「彼らも『各団から初期構成員を最大一人ずつ派遣する』という案で納得したじゃないか。終わりよければ全てよしさ。それにだよ、ギルバート」


 カーマインが語ろうとしている説明の内容はおおよそ察しがついた。


 だから俺は、カーマインの発言を横取りする形で、自分の口でそれをギルバートに告げることにした。


「順序が逆なんです。騎士団長に推薦されたからアルマを寄越されたんじゃありません。アルマに相応しい男として認められるためにこのお話を受けたんですから」

「……ふん、同じことだろうに。まぁいい。俺はその点を問題視してはいない。他の団の中にはそうではない連中もいたということを再確認しただけだ」


 横でそれを聞いて微笑ましげに笑うアンジェリカ団長。

 ガーネットは感情を顔に出さないよう最大限の気力を使っている様子で、口元をきつく引き結んでいる。


 弛緩しかけた空気を一気に引き締めたのは、これまで巌のように佇んでいた老騎士の一言であった。


「無駄話は終わりにしろ。もうじき陛下がお越しになるぞ」

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