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第273話 想像もし得ぬ客人

 それからしばらくの日数が経過した頃、俺は改めて呼び出しを受けてセオドアの別荘へと向かった。


 目的はもちろん、俺に会いたいという誰かと面会することだ。


 ガーネットも今回は別荘の中まで同行している。


 正体がバレる懸念も既に解決済みだ。

 銀翼騎士団が護衛として秘密裏に騎士ガーネットを派遣していた、という説明を事前に済ませてある。


 幼少期に顔を合わせた記憶も残っていないようだったので、堂々と騎士として乗り込めば事足りる。


「それにしても、わざわざ俺に会いたがる奴なんて、一体どこの誰なのやら」


 応接間の準備が終わるのを隣室で待たされながら、今更な疑問を改めて口にする。


 この案件を持ち込んできた使用人の男によれば『さるやんごとなき立場の方々』とのことなので、かなり高い地位にあることだけは間違いない。


「辺境伯家に仲介を頼めるあたり、同格の貴族かもう一段上の公爵家……あるいは王族? いや、それなら陛下や王宮を介した方が手っ取り早いよな……個人的な知り合いなら、やんごとなき立場とか言って正体を隠す必要はないんだし……」


 考えれば考えるほど、何やらとんでもない状況になりつつあるのではと思わずにいられない。


「……ガーネット、お前はどう思……おい、大丈夫か?」


 隣にいるガーネットへ何気なく目をやった途端、思わず言葉に詰まってしまう。


 ガーネットは眉根を深く寄せ、何やら考え込みながら顔を歪めていた。


 誰が見ても『一体何があったんだ』と心配せざるを得ない様相だ。


「ひょっとしたら、これってアレじゃねぇのか……今のうちに白狼のに唾つけとこうとかそういう……」

「考えすぎじゃないか? 地位が高い人間なら、例の夜会のことくらい把握してるだろ」

「把握したうえで横紙破りしようとするんじゃねぇかってことだよ。やりかねない奴らの心当たりもあるしな」


 明らかにガーネットは、ここにはいない――それどころか本当に来ているのかも分からない人物に対して威嚇をするような目をしている。


 何を馬鹿なと切って捨てるのは容易だが、本気でそれを警戒しているガーネットの気持ちを軽んじるのも良いことではない。


「安心しろよ。俺が心変わりするような奴に思えるか?」


 更にもう少し説得を重ねようとしたところで、部屋の扉がノックされて俺達を呼ぶマリアの声がした。


「ルーク様、ガーネット様。お待たせいたしました。セオドア様とお客様の準備がお済みになられました。応接間にお越しくださいませ」

「……分かりました。今行きます」


 しょうがない、ガーネットを宥めるのはひとまず後回しにするしかなさそうだ。


 実際に会ってみて全く別の用件だと分かれば、すぐにこいつも機嫌を直すに違いない。


 もしも本当に()()()()用件だったとしたら……それはそのときになってから考えよう。


「セオドア様、エイル様。失礼いたします。お客様をお連れしました」


 マリアが恭しい態度で応接間の扉を開き、俺達をその中へと招き入れる。


 正面の上品な椅子に腰掛けた人物を目にした瞬間、俺は驚きに目を見開き、ガーネットもさっきまでの警戒心が消し飛んで硬直してしまった。


 俺の想像もガーネットの懸念も全て完全に外れていた。


 そこにいたのは()()()()()()()()()()()()


「よく来てくれたね。紹介しよう、北方樹海連合のエイル議員だ」

「はじめまして。お目にかかれて光栄ですわ」


 人間とは根本的に異なる色合いの白い肌。

 太陽光を編み上げたような輝きの髪。

 そして顔の側面から長く伸びた尖り耳――


「……まさか、エルフからのお呼び出しとは。そんなこと夢にも思いませんでしたよ」


 辛うじて言葉を絞り出しながら、マリアに促されて彼らの向かいの席に腰を下ろす。


 エルフ――ダンジョン内部に生息する知的種族たる魔族の中でも、とりわけ高度な文明を築いている種族。


 そもそも魔王ガンダルフと魔王軍の種族であるダークエルフというのは、彼女のようなエルフを基準として『闇のエルフ』『悪しきエルフ』として名付けられたものなのだ。


 単なるエルフがいないのなら、ダークエルフという名称は存在し得ないだろう。


(わたくし)も地上に赴く機会があるとは思いもしませんでした。元老院の命令ということで致し方なくと思っていたのですが……この町はいいところですね。緑も多く水も綺麗です」


 エイル議員と紹介されたエルフはそう言って微笑みを浮かべてみせた。


 あまりにも均整の取れすぎた顔立ちは逆に非人間的で、理想的な美人を描いた絵画と話している気分になる。


 正直、異性として見惚れるとか欲情するとかいった感情は、びっくりするほど刺激されなかった。


 あえて近い感情を述べるなら、本来なら冒険の果てに目にすることになるはずの美しい自然が、いきなり何の前触れもなく目の前に広がったような――そんな驚きだけが胸を満たしている。


 ガーネットも同じ気分だったらしく、驚きに頭を埋め尽くされてすっかり毒気が抜けてしまっていた。


 俺は深呼吸をして心を落ち着けようと努めてから、改めて話を先に進めようとした。


「北方樹海連合……とおっしゃいましたね。不勉強で申し訳ありません。自分の知識が正しいかどうか確かめてもよろしいでしょうか」


 構わないと頷くエイル。


 俺は魔力の波動を肌にぴりぴりと感じていた。

 敵意があって威嚇しているのではなく、ただそこにいて息をしているだけでも周囲に影響を与えるほどに、膨大な魔力が内包されているのだろう。


 今になって思えば、魔王ガンダルフや四魔将と対峙したときにも同じ感覚を覚えていた。


 あのときは武者震いや精神的な理由の鳥肌もあったので、はっきりとは意識していなかったのだが。


「ウェストランド大陸において、今もなおウェストランド王国の版図に組み込まれていない一割程度の領域……その一つが北方樹海でしたね。そして、現地に存在する大小様々な共同体が築き上げた協力体制……それが北方樹海連合」

「ああ、その認識で間違っていないとも」


 返答をしたのは同席しているセオドアの方だった。


「我らビューフォート家が辺境伯たる由縁(ゆえん)。ビューフォートの領地が隣接する異国。どうして僕が仲介役に選ばれたか、これで見当がついたんじゃないかな?」

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