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第269話 君の隣にいるために

1日2回更新? いいえ、前回は19日24時30分更新なので実質毎日1回更新です。

「遅かったじゃねぇか。待ちくたびれちまったぜ」


 ギルバートとのやり取りを終えて部屋を出ると、すぐにガーネットが駆け寄ってきた。


 まるで怒っているかのような口振りだが、表情や声色からは全く怒りが感じられず、むしろ上機嫌なように感じられた。


 理由はおおよそ想像がつく。

 言い方は悪いかもしれないが、先程ギルバートに伝えた判断基準は、いわばガーネットに対するご機嫌取りのようなものだ。


 機嫌を良くしてもらえなかったら逆にこちらの方が困ってしまう。


「何を話してやがったんだ? まさかオレには教えられねぇことじゃねぇだろうな」

「むしろお前にも伝えておけって念押しされたくらいだよ。騎士同士の情報共有だとかなんとか。だけど続きは家に帰ってからだな」


 ガーネットが部屋を出てから交わした話題は二種類あるが、どちらも黄金牙騎士団の活動に関連する内容だ。


 黄金牙への新兵器の試験納入も、魔王城地下の謎のゴーレムに対する黄金牙の見解も、部外者が大勢いる場所では話しにくい。


 ということでひとまず支店での用事を済ませてから、地上のホワイトウルフ商店へ引き返すことにした。


「んじゃ、さっそくだけど。ギルバートと二人きりで何を話してたのか聞かせてくれよ」


 作り置きのハーブティを注いだコップをテーブルに並べてから、ガーネットはテーブルを挟んで反対側の椅子に座り、まるで土産話でもねだるかのような口調で切り出した。


「分かってるって。それじゃあまずは……」


 ギルバートとの会話の内容を最初から順番に語っていく。


 投擲呪装弾の試験納入の要請があったこと。

 ノワールとアレクシアが請け負える仕事量か分からないので、本人達に確認を取るため返事を一旦保留にしたこと。


 魔王城地下迷宮の人形型ゴーレムについての見解を求められ、私的な意見を思いつくままに伝えたこと。

 この質問の目的が、俺の戦略的な判断力の程度を確かめるためだったこと。


 そして――新設される騎士団に与えられる任務が、恐らくは魔王軍や『真なる敵』に関係するものになるであろうということ。


 ひとつひとつを順番に語って聞かせる間に、ガーネットの表情は段々と真剣なものになっていった。


「……とまぁ、こんなところだ。他に何か聞きたいことはあるか?」

「いや、十分だ」


 ガーネットは背もたれに体重を預けて長く息を吐きながら、金色の髪を片手でがしがしと掻き乱した。


「ひょっとしたらとは思ってたけどよ、ギルバートくらいの立場の奴から言われると、本気でそうなるのかもなって思っちまうな」

「新しい騎士団の任務のことか?」

「ああ。お前がグリーンホロウで武器屋を続けるなら、騎士団として担う役目もこの町の周囲が中心にならざるを得ねぇだろ。じゃあ何を割り振られるかって考えたら、そりゃあ当然()()()()絡みになっちまう」


 どうやらガーネットは、ギルバートと全く同じ思考過程を経て同じ結論にたどり着いていたらしい。


 あえて違いを挙げるなら、こちらは騎士団の中枢を離れた前線の騎士の推測で、あちらは核心的な情報を得られる立場にある騎士団長の推測という点だ。


 そのどちらもが同じ結論に至ったのなら、説得力もかなり強くなってしまう。


「何も最前線に送り込まれると決まったわけじゃないだろ。それぞれの騎士団から一人ずつ借りられても、たったの十二人しかいないんだ。割り振られる仕事も人数相応になるんじゃないか?」

「そりゃそうなんだけどよ」


 安心させられるようなことを言ってみたものの、ガーネットは依然として浮かない表情のままであった。


「……魔王軍だけならまだしも、正体どころか目的すら掴めねぇような奴らまで潜んでやがるんだろ。何が起こるか分からねぇ……底が見えねぇのが現状なわけだ。そこにガッツリ首を突っ込むとなるとなぁ……」


 ガーネットの懸念はもっともである。


 これまでは『修復依頼も受け付ける武器屋』というスタンスを堅持し、なるべくそこから踏み外さないように立ち回ってきた。


 魔王戦争の終盤はかなり踏み込んだ協力をしたが、あれはグリーンホロウ全体が町を上げての協力体制を取っていたからであり、俺の活動もその一環という立ち位置だった。


 ……結果的には魔王軍の中枢と直接対峙する羽目になってしまったものの、それはあくまで結果論に過ぎない。


 しかし騎士団として、騎士団長として関わっていくとなると、そんな一歩引いた立場ではいられなくなるに違いなかった。


「もう少し楽観的に考えてもいいんじゃないか? 銀翼みたいに地上の任務が中心になるとか、もしくは『真なる敵』とやらは魔王軍の敵だけど人間の敵にはならないとかさ」

「よく言うぜ。自分が一番、その手の楽観論で考えられねぇ(タチ)してるくせに」

「む……反論しづらいところを突くんじゃない」


 心の中を見透かされたような気分だった。

 ガーネットの言う通り、敵の敵は味方という理屈が通用する相手かもしれない、なんていう楽観視は性に合わない。


 それどころか逆に、魔王軍と『真なる敵』が人類を共通の敵として和解してしまう可能性すら思い浮かんでいるほどだ。


 もう少しで一年程度の短い付き合いなのによく理解されているというべきか、それともここまで理解を深めることができるくらいに濃密な時間だったというべきか。


 ――きっと後者なのだと思う。


 薄い付き合いで過ごした十年より、全てをさらけ出しぶつけ合って過ごした一年の方が強いに決まっている。


 冒険者として生きた十五年間を思い返しても、ガーネット以上に深く関わった相手はいないはずだ。


「なぁ、白狼の。正直に言うとだ……お前には危険なことに首を突っ込んでほしくねぇんだ」


 ハーブティーで満たされたコップを握る手に力が籠もる。

 ガーネットは軽く俯きながら、俺の反応を窺うように視線だけを上げた。


「護衛任務だの何だのは関係ねぇ。手前勝手な言い分だってことは分かってる。【修復】スキルの力だって他の誰より信頼してるぜ。けどよ、それでも、やっぱり……」

「……ありがとな、そんなに心配してくれて。だけど、危険だと分かっていても退くつもりは全くないんだ。もしも黄金牙と一緒に地下の前線へ行けと言われても、俺は断らないと思う」


 驚きに顔を上げるガーネット。


 俺はガーネットが何か言おうとする前に、彼女を安心させられるように意識して笑いかけた。


「お前の親父さんとも約束したからな。陛下の期待に添えるくらいに活躍して、お前に相応しい男になって、正式な婚約者として認めてもらう。俺が騎士叙勲を了承したのはそのためなんだ。我が身可愛さで逃げていられるかよ」


 ガーネットの白い頬が淡く色付く。


 しかしガーネットは普段通りの不敵な態度を崩そうとせず、うっすら赤らんだ頬のままでにやりと笑い返してきた。


「……ったく、しゃーねーな。お前こそ反論しにくいこと言うんじゃねぇっての」


 騎士叙勲も新騎士団設立も、俺にとっては未知の領域だ。

 当然だが不安はある。散々言われてきたように危険も大きいだろう。


 けれどそれでも、怖じ気付いて逃げ出すことだけは絶対にありえない。


 ここに至る経緯は、俺ごときよりも遥かに『上』の思惑の産物だったかもしれないが、それを受け入れると決めたのは他でもない俺自身の意志だ。


 全ては、この少女の隣に立つに相応しい男になるために。

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