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第26話 勇者パーティ壊滅の軌跡 前編

 ――Aランクダンジョン『奈落の千年回廊』を探索していた勇者パーティのメンバーは、強制的に離脱させられた白狼の森のルークを除いて四人。


 様々な神から力を授かった万能の戦士、勇者ファルコン。


 ファルコンの最も古い仲間にして、同郷の女剣士ジュリア。


 双子の魔法使いの妹、白魔法使いのブラン。


 そしてブランの双子の姉であり、勇者パーティで唯一地上に帰還した、黒魔法使いのノワール。


 この物語は、彼女がギルドハウスと銀翼騎士団の騎士に語った、勇者パーティが探索の果てに全滅するまでの物語である――











 勇者ファルコンのミスで食料の多くを失い、食料節約のために雑用係の冒険者ルークを切り捨てた翌日、パーティは迷宮の最深部に到達した。


 最深部には、古代風の意匠で飾られた岩の扉があり、侵入者を厳重に拒んでいた。


「ここで例の合言葉を唱えればいいんだな。よし……『エパネス・エソム』!」


 勇者の詠唱によって扉が開き、パーティは更に奥へと進んだ。


 そこには、地面の底とは思えない広大な地下空間が広がっていた。


 天井は山よりも高く、遠方が霞んで見えるほどに広い。


 地下空間の全体的な形状は、単純な円形や四角形ではなかった。


 一言では説明しづらいが、ブランはこの空間を『穴開きドーナツを四分割した形』と表現した。


 あるいは『長方形をぐにゃりと曲げた形』とも呼べるだろうか。


「それじゃ、ノワール。様子見頼む」

「……はい」


 勇者の指示で、ノワールは使い魔による地下空間の情報収集を試みた。


 使い魔といっても生きた動物ではない。

 カラスを模した人形を魔力で操り、ガラス玉の瞳と視覚をリンクさせて情報を集める術式だ。


「…………」


 情報収集は問題なく完了した。


 地下空間は全体的に岩山と荒れ地に埋め尽くされ、湧き水を水源とする川が横切っていた。


 勇者パーティの現在位置は地下空間の端で、岩山地帯の頂点付近。


 そこから逆端に行くに従って地形が低くなっていき、空間の右側には魔族の街が広がっていた。


 ブランの表現――『四分割したドーナツ型』の外周側は鉱山として開発され、支配者らしき暗い肌のエルフが小柄な魔族に過酷な労働を強いていた。


 そして内周側は開発が進んでおらず、ドラゴンの生息地となっているようだった。


「決まりだな。内周側を通っていくぞ。ダークエルフに見つからないことが最優先だ」


 誰からも反論はなかった。

 ジュリアはいつも勇者の言うことを肯定してきたし、ノワールは客観的に見て妥当な判断だと思っていた。


 ブランがどちらの理由で賛同したのかは分からなかったが、どちらにせよ、ドラゴンの縄張りを横切って先を目指すことが確定した。


「ん、何だこれ」


 様々なスキルを駆使して岩山を安全に進んでいると、地下空間の壁に巨大な扉があるのを発見した。


 人間用とは思えない巨大さだったが、扉のデザインは先程通ってきた扉とそっくりだった。


「こっちも同じ合言葉で開いたりして」

「やってみるか? 『エパネス・エソム』!」


 ジュリアの何気ない提案を受けて、ファルコンが冗談めかした態度で合言葉を口にしたが、特に反応はなかった。


「まぁ、何も起こらねぇよな。先を急ごうぜ」


 それから丸一日を移動に費やし、勇者パーティは地下空間で唯一の都市に到着した。


 ここには人間がいないので、怪しまれないように魔法で姿を隠したまま目的地を目指す。


「話に聞いたとおり、ドワーフしか住んでないみたいだな」


 ドワーフ。鍛冶と採掘の技術に優れるとされる、人間よりも一回り以上小柄な魔族の一種。


 通説では堅物で血気盛んな種族だと伝え聞いていたが、ここにいるドワーフは陰気で消極的な雰囲気を漂わせていた。


 それが生息するダンジョンの地域差によるものなのか、あるいは奴隷的労働を強いられていることによるものなのか、ノワールには分からなかった。


 彼らの建物は彼らの体格に合わせた寸法になっていて、玄関も頭をぶつけそうなくらいに低い。


 また、建物に全くと言っていいほど木材が使われておらず、ほぼ完全な石造りなのも特徴だった。


「……情報が正しければ、ここが目的地だ」


 それは他の家々よりも大きな建物。

 結論から言うと、この建物はドワーフ達の集会場で、ドワーフの長老がここで待っている約束になっていた。


「ようこそ、地上の勇者様……我らの助けを求める声を聞き届けて頂き、感謝の言葉もありませぬ……」


 人間にとっては手狭な集会場の中央で、ドワーフの長老がうやうやしく頭を下げた。


「この地下都市を支配するダークエルフの王を討伐すればいいんだろう? 楽な仕事だ」

「彼らは更に深い領域から突如として現れ、我らを奴隷同然に扱っておりまする。彼らは強く、もはや地上の方々に頼る他ないと思い、助けを求めた次第でございます」


 ――今から二ヶ月前、ドワーフ達は魔法的な手段で地上の王国に救援を要請し、『奈落の千年回廊』の扉を開ける合言葉を教えた。


 彼らが言うには、ダークエルフはドワーフ達を奴隷として地下資源を採掘させるとともに、それを用いた武具を造らせているのだという。


 その情報を得た王宮は、ダークエルフの魔王の狙いを『ドワーフに作らせた兵器で地上に侵攻すること』だと推定。


 迷宮を突破できる能力を持った勇者ファルコンに、ダークエルフの魔王の勢力圏の『偵察』を命じたのだった――


「俺に任せておけ。軽く捻り潰してやるぜ」


 ――そう、命じられたのは『偵察』だった。


 救援要請そのものが罠だという可能性も考慮し、まずは地下の実情を把握することが優先されたのだ。


 しかし勇者ファルコンは、彼を推薦した大臣の『可能ならば討て』という発言を曲解し、最初から魔王を討伐して名声を手にするつもりでダンジョンに挑んだのだった。


 このときノワールは、以前置き去りにした冒険者のルークが、事あるごとに勇者の慢心に懸念を示していたのを思い出していた。


 勇者は神々から数多くのスキルを授かり、ほとんどの窮地は自力で乗り越えることができた。


 しかし、この慢心は――自信過剰な独断専行は、今度こそ致命的な結果になったりはしないだろうか。


「よし! 今日はゆっくり休んで明日に備えようぜ!」


 結局、ノワールは懸念を誰にも伝えることができず、勇者パーティは人間のために用意された客室で一夜を明かすことになったのだった。












 ――これはギルドと騎士団には証言しなかったことだが、その夜、勇者ファルコンと女剣士ジュリアは部屋を抜け出して『男女の夜の関係』を営んでいた。


 二人がそういう関係なのは、パーティ結成以前からのことらしい。

 幼馴染という話なので、ひょっとしたら勇者に認定される前からの関係かもしれない。


 ファルコンは好色で、ノワールとブランの姉妹にも声をかけてきたが、独占欲の強いジュリアがそれを許さない……というやり取りを何度も繰り返してきた。


 しかし、自宅ならともかく、ここは敵地から目と鼻の先だ。


 明日は魔王城に乗り込むつもりだというのに、睡眠時間を無為に削る意味も分からない。


 ゆっくり休めという指示はどこに行ってしまったのだ。


 恋愛感情というのは人間の判断をこうもおかしくしてしまうのだろうか。


 二十余年の人生において、その手の経験が一度もないノワールにとって、勇者とジュリアの行為は全く理解できない事柄だった――

やはり前後編になってしまいました。

続きは次回更新をお待ち下さい。

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