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第251話 魔王城地下迷宮

 ――翌日。俺達と一緒に魔王城の地下へ潜る予定の者達は、探索の準備を整えたうえで、魔王城の最奥の大広間に集められていた。


 冒険者の立ち入りが許されたエリアの中で、騎士団による警備が最も厳重な一画――地下へ続く現状唯一の経路が存在する場所である。


 広大な部屋の奥の床には四角く切り取られたような大穴が口を開け、そこから緩やかな下り坂(スロープ)が暗闇の奥へと延びていた。


 大穴を囲む警備担当の騎士達の任務は、騎士団の目を盗んで無許可の探索を試みる冒険者を止めることだけではない。


 この大穴の奥から()()が現れるのを危惧し、監視し続けることも重大な任務の一つなのである。


「それでは改めて、今回の魔王城地下迷宮の探索について説明しておこう」


 探索パーティのリーダーであるトラヴィスが、この場の面々を見渡して声を張り上げた。


 大穴の前に集まったのは、まずは俺とガーネット、レイラのホワイトウルフ商店スタッフ三名。


 次に勇者エゼルと従者エディの二人組。


 そして現役冒険者が六人――サクラやナギとメリッサもメンバーに加わっている。


「これから我々は地下迷宮の崩落箇所に向かい、瓦礫に埋まった通路の復旧とその奥の探索を行う。ただし今回の探索はごく簡単なものとし、本格的な調査は後日とする」


 トラヴィスが語る説明は既に全員が把握している内容だが、情報伝達に記憶違いや解釈違いは付き物なので、余裕があるなら重ねて確認しておくのは大切だ。


 依頼内容を勘違いして見当違いなことをやっていたと、ギルドに成果を報告するときになって判明した……という失敗談は年に一度は耳にするし、仕事に慣れてきたつもりの中級者ほど危ないものだ。


「迷宮内の危険度だが、現時点で判明している範疇では正直低い。ゴーレムがいくらか放置されている程度だ。むしろ幻惑魔法だのトラップだのに足止めを食らう方が頭痛の種だな」


 これらが魔王軍の仕込みなのか、その前から存在していた罠なのかは分からないが、どちらだろうと探索する側にとって面倒なことに変わりはない。


「少なくとも、崩落で塞がった地点に到着するまでは安全と思ってくれていい。トラップも念入りに除去してあるからな。他に何か質問はあるか? ……無いようだな。では、そろそろ出発するとしようか」


 俺の隣でレイラが生唾を飲み込む気配がした。


 ここにいるメンバーのうち、レイラだけは勇者でもなければ冒険者でもない。

 必要以上に緊張してしまうのも当然だろう。


 少しでも気が楽になればと思いつつ、あえて気軽な態度で話しかけてみることにする。


「アレクシアから預かった道具は持ってるよな? 使い方はあいつから教わった通り。簡単に使えるようにしてくれとリクエストしておいたから、万が一のときは遠慮なくぶん投げてやれ」

「はっ、はい! 頑張ります!」


 依然として神経を張り詰めた様子のまま、レイラは腰の横で拳をぎゅっと握り締めて、地下に続く大穴に向かって歩き出した。





 坂道(スロープ)を下った先の通路は、洞窟などではなくれっきとした建物の一部と呼べる造りをしていた。


 恐らくは石材か何かで作られた、平坦な床と壁。

 城の内装ほどではないが手の混んだ装飾も施され、ここも魔王城の一部なのだと実感させられる。


「これが魔王城の魔力照明……噂通りの明るさね……」

「洞窟型のダンジョンにありがちな、発光する石や苔とは光量が違いますね」


 エゼルとエディは興味深そうに視線を上げ、通路の天井や壁の上部に埋め込まれた、魔王城や『魔王城領域』の古代遺跡に共通の光源を観察しながら歩いている。


「ねぇねぇ、トラヴィス隊長」

「うおっ!? な、なんだ勇者エゼル」

「私まだ新人だからよく知らないんですけど、他のダンジョンにもこういう照明ってあるんですか?」

「に、似たようなものはあるな……迷宮型くらいだが」


 トラヴィスは背後から覗き込んできたエゼルに酷く驚き、露骨に距離を離しながらも、質問自体には生真面目に返答した。


 エゼルはまだ質問を続けたそうだったが、さすがにトラヴィスが可哀想になってきたので、俺が質疑応答を引き継ぐことにする。


「あるにはあるけど、ここまで高性能な代物は滅多にないな。大抵は松明と変わらない光量で、明確に古代遺跡だと断言できるレベルのダンジョンならあるいはってとこだ」

「なるほど。確か『魔王城領域』には古代遺跡があって、魔王軍はそこからゴーレムを掘り出しているんだっけ」

「魔王城や城下町の魔力照明も、遺跡の照明を解析して複製したものらしいぞ」


 そんな会話を交わしながら、俺達は複雑に入り組んだ地下迷宮を、迷うことなく奥へ奥へと進んでいく。


 崩落現場までの道順はトラヴィス達が完璧に把握済み。

 迷う要素は最初から一切ない。


「話は変わるんだけど、ルークさんって白狼の森の出身なんだよね。白狼ってやっぱり魔獣フェンリルウルフのことなんじゃないかって思うんだけど、本当のところはどうなんだろ」

「本当に話がガラッと変わったな。まぁいいけど。白狼の正体は住民もよく知らないってのが現実だ。あくまで言い伝え、本当にただの白い狼って線もあるぞ」


 移動中の暇潰しがてらの俺の話に、エゼルはまるで家庭教師から授業を受ける生徒のような顔で聞き入っている。


 魔獣フェンリルウルフ。

 端的に言えば巨大な狼だが、その大きさが尋常ではなく、民家くらいのサイズの個体も当たり前に存在する。


 脅威度で言えばドラゴンと同等。

 空を飛んだり火を吐いたりすることはないものの、優れた聴覚と嗅覚に凄まじい機動力と運動性を兼ね備え、更に怪力と鋭い爪や牙まで搭載した、シンプルであるが故に弱点が少ない魔獣である。


 全力疾走の馬を軽く追い抜く速度で、文字通り地の果てまで追跡してくる攻城兵器――こう表現すれば伝わりやすいだろうか。


「やっぱりベテラン冒険者は詳しいなぁ……ついでにもう一つ聞いてもいいかな。フェンリルウルフの()()()()()って何のことなんだろ」

「さぁな。昔からそう呼ばれてる魔獣としか。一説によると、フェンリルっていう巨大狼の親玉みたいな大魔獣がいて、その手下がフェンリルウルフなんじゃないかって言われてるけど」

「むぅ、それだと何だか堂々巡りな気が」

「魔獣の名前なんてそんなもんだ。有名なドラゴンも『どうしてドラゴンという名前なのか』すら分かってないんだから、名前しか伝わってないフェンリルは言うまでもなく……って感じだな」


 俺が伝えた知識に目を輝かせるエゼル。


 知識欲と好奇心が豊富なのはいいことだが、さすがにそろそろ切り上げるとしよう。


 既に踏破済みのルートとはいえ、魔王軍の逃走経路かもしれないのだから油断は禁物だ――という理由は建前で、実際のところは背後から投げかけられる視線が怖くなってきたからだ。


 具体的には、レイラとエディ、そしてガーネットの睨むような視線が。


 三人揃って同じような表情をしているので、事情を知らないナギとメリッサが戸惑って顔を見合わせている。


 レイラは恐らくエゼルが平気でトラヴィスに話しかけていることを、エディは俺達とエゼルの物理的な距離が近いことを、それぞれ気に入らなく感じているのだろう。


「見えてきたぞ。あれが崩落箇所だ」


 通路の奥に薄暗い行き止まりがあるかと思ったが、よくよく見れば瓦礫と土砂が通路を塞ぎ、その手前の魔力照明も破損して光を失っているようだった。


 隙間は完全にゼロ。肉眼で向こうの様子を窺うことは不可能だ。


「どうだルーク、いけそうか」

「ちょっと待ってろ。まずは【解析】してみる」


 瓦礫に両手を押し当ててスキルを発動させ、通路を塞ぐ膨大な質量とその更に奥を【解析】していく。


 その間、他の皆は固唾を呑んで【解析】結果が出るのを待っていた。


「かなり奥まで埋まってるな。こりゃ掘り返そうとしなくて正解だ。トンネルを掘るのと変わらなかっただろうな」

「【修復】は可能か?」

「多分な。念のため何回かに分けて直してみる」


 ウェストポーチに仕込んだ魔力結晶を片手で軽く叩き、ノワールとアレクシア謹製の供給機能で魔力を体に流し込む。


「スキル発動――【修復】開始っ!」


 ここからは同じことの繰り返しだ。


 土砂が逆流するように上へ戻っていき、瓦礫が組み合わさって天井の形を取り戻し、魔力照明が再び光を放ち始める――この一連の作業を何度か繰り返し、どんどん通路を先に進んでいく。


 そして五回目の【修復】に取り掛かる前に【解析】を発動させたとき、これまでと違う感覚が脳裏を掠めた。


「……広い部屋がある。かなりでかいな……天井も相当高いぞ。そこから通路が二本……いや、三本か? それにこいつは……瓦礫と床の間に、何か別の残骸が敷き詰められてる……のか?」

「残骸だと? もっと具体的に頼む」

「形が色々あり過ぎてよく分からないんだ。ばらばらになった甲冑……それとも、壺やら皿やらの焼き物が大量に割れてるのか……どうする、トラヴィス」


 俺が【修復】の是非の判断を求めると、トラヴィスはしばし考え込んでから明確な指令を下した。


「【修復】を頼む。ただし(くだん)の残骸とやらはそのまま残してくれ。できるか?」

「問題ない。天井の瓦礫とは完全に別物みたいだからな」

「よし。全員、万が一の事態に備えろ。道が開いた瞬間に攻撃があることも想定しておけ」


 後ろの皆が臨戦態勢を整えたのを確かめてから、俺は目の前の瓦礫と土砂に【修復】の魔力を流し込み、巨大な立方体状の大部屋を元通りに復元させた。


「――さて、何が出てくるか」

普段より少々長めになりましたが、どうせならここで切っておきたかったので。

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