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第250話 懐かしのダンジョンと魔王城

 かつての魔王軍との戦いで経験した出来事の話に、レイラは神妙な顔で耳を傾けている。


「……本当に大変な死闘だったのですね。資料から読み取れていたのは、やはりごく一部に過ぎなかったようです」

「本当だぜ、まったく。白狼のがいなかったら間違いなくオレも死んでただろうな」

「それはお互い様だろ。あの戦場にいた全員、他の誰かがいなかったらやられてたさ」


 やがて俺達を乗せた馬は、ドワーフ達が住む城下町へと差し掛かった。


 要塞から魔王城までを繋ぐ道路は、なるべく短く平坦になるような経路を取っており、必然的に城の付近に広がる城下町の横を通過する経路になっている。


 さすがに町中は道の幅も狭いので通過していないが、道路から町の様子を、町から道路の様子をお互いに観察できる距離感だ。


 立ち寄る予定もないのでそのまま通過しようとしたところ、町の周縁部で何か作業をしていたドワーフ達が、いきなり俺達に歓声を投げかけてきた。


「見ろ! アルファズル様だぞ!」

「本当だ! 外から戻って来られたのか!」


 ……想定外の反応にろくなリアクションもできず、馬に揺られたまま固まってしまう。


 レイラも一体何のことだと困惑しているようだったが、ガーネットだけは声を押し殺して笑っていた。


「あ、あの……アルファ……とは一体?」

「ドワーフが信仰してる神の名前だとさ。白狼のが【修復】を使ったのを見て化身だの何だのと騒ぐ奴が出てきて、魔王討伐の一件で一気に広まったらしいぜ」

「……ちょっと待て。それ、俺も初耳なんだが。いつの間にそんな大袈裟なことになってたんだ」


 俺のスキルを目にしたドワーフが、このダンジョンを創った神とされているアルファズルのようだと表現したのは知っているし、むしろ直接そう言われたくらいだ。


 それがアルファズルの名を知った最初のきっかけであり、そこから巡り巡って、地上でもアルファズルの別名と同じ名を持つ神が信仰されていると知った……というのが現状である。


 しかし、俺とアルファズルを比喩ではなく同一視する考えがドワーフ達の間で生まれているとか、その考えが割と広まっているというのは初めて聞いた。


「(まぁ……間違っていると言い切れないのが嫌なところなんだけどな)」


 左手で手綱を握ったままさり気なく右目に手をやる。


 例の『右眼』が現れた詳しい経緯は、まだレイラには説明していない。

 神々の実在だの何だのと面倒な話題に関わってくるからだ。


 魔王ガンダルフの魔法で右眼を貫かれ、死に瀕した俺が体感した幻のような光景。


 ――アルファズルを名乗る何者かが、仲間を救う代償として俺に肉体を明け渡すように要求し、それを拒否したことをきっかけに『叡智の右眼』が覚醒したという、自分でも未だに信じ切ることができない異様な体験――


 あれがもしも本当にアルファズルそのものだったとしたら、化身だの同一視だのといった与太話もあながち間違いだとは言い切れなくなる。


 何故なら、奴はあのときこそ一旦手を引くと宣言したものの、俺の肉体を完全に諦めたとは限らないのだから。


「見えてきたぜ。魔王城の正門だ。突破にあんだけ苦労した城壁も、今となっては単なる関所みてぇなもんだな」


 地下空間である『魔王城領域』の天井から光が薄れ、不自然な夜が訪れようとする頃になって、俺達はようやく魔王城の正門前にまで辿り着いた。


 現在、魔王城は黄金牙騎士団の管理下にあり、事前に許可を得た冒険者パーティのみが立ち入りを許されている。


 そのため、城壁の正面に設けられた城門には監視部隊が配置され、立ち入ろうとする者を見張っているのだが――


「白狼の森のルーク殿ですね。連絡は承っております。同行者は申請通り二名。問題ありません、お通りください」


 ――俺達は拍子抜けするくらいあっさりと通過することができた。


「黄金牙がこんな簡単に通行を許可するなんて……やはりルーク様は特別に扱われているのですね」

「トラヴィスが事前に根回ししてたんじゃないか?」


 何やら大仰に捉えようとするレイラに対して、現実的な範疇の考え方を返す。


 確かに俺はこれまで何度も黄金牙に手を貸してきたし、一般騎士にも顔を覚えられているはずだが、同時に戦闘能力の低さも知れ渡っている。


 俺個人の希望で魔王城の地下に入ろうとしても『危険だからご遠慮ください』と断られるのがオチだ。


 今回はトラヴィスが地下探索の指揮を取り、俺はその一員という扱いだったからこそ、今回のような扱いになったのだろう。


「んじゃ、馬はその辺に預けておいて……」


 ガーネットがひらりと馬から飛び降りる。


 ちょうどそのタイミングで、城の方から東方風の衣装に身を包んだ少女が駆け寄ってきた。


「お待ちしておりました、ルーク殿」

「サクラか。やっぱりお前も参加してたんだな」

「はい。ひとまずルーク殿を宿泊場所にお連れするよう、トラヴィス殿から仰せつかっています。こちらへどうぞ」


 先に到着していたサクラの案内で魔王城の中に足を踏み入れる。


 戦闘によって生じた破損はほとんど復元されている。

 地上の城と比較しても遜色のない威容だ。


 いくつかの通路は立ち入り制限を示す細い帯で塞がれており、何人かの騎士が冒険者の侵入を防ぐために目を光らせている。


「物騒に感じられるかも知れませんが、まだ調査と安全確認が完了していない区域があるようでして。魔王軍がいなくなった現状では、好奇心旺盛な冒険者が一番の監視対象だとぼやいていましたよ」

「ははは……割といるからなぁ、そういう奴。ギルドに苦情が来ると面倒だから止めてほしいんだけど」


 休業中とはいえ、冒険者の一人として申し訳なく思ってしまう。


 秘密を暴くなら未探索ダンジョンだけにしてもらいたいものだが、依頼や探索とは無関係に傍迷惑な好奇心を満たす奴も、世の中には少なからず存在している。


 まぁ、そんなことをする奴は往々にして出世できず、せいぜいCランクが関の山なのだが。


 そうこうしているうちに、大勢の冒険者が集まった区域へとたどり着く。


「トラヴィス殿の指揮下で探索に加わった先遣隊です。総勢は三十名前後、五人から十人程度の班に分かれて地下を探索しています。ここにいるのは休息中の半分ですね」

「平均的なパーティなら五個か六個分だな。交代制で潜ってるなら一度に二個か三個……先遣隊扱いならこんなもんか」


 グリーンホロウに滞在している冒険者ばかりということもあり、顔を知っている相手もかなり多く、ホワイトウルフ商店の常連客も少なくはなかった。


 冒険者達から挨拶や激励、あるいはレイラがいることへの奇異の眼差しを投げかけられながら、区画の奥の方まで案内されていく。


「今夜はこちらの部屋でお休みください。二人部屋を二つご用意いたしました。こちらはルーク殿とガーネットに。レイラ殿は申し訳ありませんが、あちらで私と相部屋になります」


 俺とガーネットに同じ部屋をあてがう――当然としか言いようのない措置ではあるものの、今となってはお互いに苦笑せざるを得ない案件であった。


「……分かった。とりあえず今夜は体を休めて、明日からが本番だな」

次回でダンジョン突入の予定です。

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