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第237話 探索に向けた会合

「さっそくだが、僕の方の探索プランも聞いてもらえるかな?」

「構いませんけど場所を変えませんか。トラヴィスに伝えたい話の半分は貴方にも関係することですし。というか、俺なんかに時間を割いたらお付きの人を怒らせませんかね」


 そう言ってセオドアの後ろにいる女性……セオドアの付き人兼お目付け役のマリアへ視線を向ける。


 さも冷静沈着な秘書ですと言いたげな雰囲気を漂わせているが、金銭や商売が絡むと目の色を変えることは俺もよく知っている。


 というのも、彼女は金銭に無頓着なセオドアのフォローをするために、わざわざ実家から送り込まれた人材なのだ。


 セオドアが気楽に大金を使わないように監視し、討伐したドラゴンの部位を適切な価格で払い下げることがマリアの役割なので、金銭が絡む話題にうるさいのは当然といえる。


「既に手遅れと申し上げましょうか」


 マリアは呆れと諦めが混ざった態度で小さく溜息を吐いた。


「先程までフローレンス支部長との会談を行っていたのですが、貴方が帰還なさったと聞いて、予定を短縮して飛び出して来てしまったのです」

「はは……それは申し訳ない。随分と待たせてしまいましたからね」

「まぁ、急を要する内容ではありませんでしたので、実害はさほどでもありませんでしたが」


 俺と話すことでこれ以降の予定を圧迫するのではなく、俺と話すためにこれ以前の予定を切り上げてしまったのなら、確かに手遅れだ。


 これはセオドアが今回の探索計画に込めている熱意の裏返しなのだろうか。

 何にせよ、後でフローレンスには謝っておこう。


「というわけで、どこか適当な会議室でトラヴィスを待ちながら、こちらの探索プランを聞いてもらうということで構わないかな」

「待て、セオドア。俺には教えないつもりか?」

「秘密にするつもりはないさ。単なる時間の節約だよ。後で公表するつもりだし、それを待てないなら彼に聞くといい」

「むぅ……ルーク経由なら問題はないか」


 何やらAランク二人から妙な信頼を向けられている気がするのだが、過剰な期待を寄せられても困ってしまうだけだ。


「そちらはマリアさんが同席するんですよね。俺も身内を同席させて構いませんか」

「もちろんだとも。部屋は君が決めてくれて構わないよ」


 ――というわけで、セオドアとの会合に立ち会わないかと、ガーネットとレイラに尋ねてみた。


 ガーネットは当然のように希望したが、意外にもレイラは遠慮すると答えた。


 会合の後でトラヴィスにレイラを紹介するつもりだったのだが、どうやらその現場に居合わせる勇気がないとのことらしい。


 なので今回のところは俺からの間接的な紹介に留め、直接顔を合わせるのはまた後でということになったのだった。





 そうして俺とセオドアは、支部の一角にある貸し会議室に場所を変えて、トラヴィスの再合流を待ちながら探索計画についての話をすることにした。


 同席者はガーネットとマリアの二人だが、あくまで話し合うのは俺とセオドアで二人は立ち会いという扱いだ。


「前にも話したと思うんだけどね。『魔王城領域』内部に再現された自然環境の()()を考慮すると、あれほどたくさんのドラゴンが生息しているのは不自然だ」

「その原因を究明するために『魔王城領域』のドラゴンの生態を調査するから、俺にも協力させたいという話でしたよね」


 目的は違えど、俺に期待している役割はトラヴィスと同じである。


 武器や道具の修理。障害物の破壊。負傷の治療。

 ダンジョンギミックの解析、修復、無力化。


 最初にこの話を持ちかけられたとき、俺はホワイトウルフ商店の経営に集中したいという理由で本格的な参加を断り、どうしても俺の【修復】が必要な場合に協力すると答えた。


 しかしセオドアには紹介状を書いてもらった借りが生まれたので、条件を緩めなければならないだろうと考えていたのだが――


「うん、前にした話はそんな内容だったね」


 セオドアの反応は、暗に『今はもう違う』と告げていた。


「案の定ですね。前の誘いは『魔王城領域』の探索でしたけど、今回のプランはそれより深い深層領域の探索計画……全くの別件でないのなら、何かしらの進展があったということですか」

「さすがに理解が早い。そのとおりさ。君に話を持ち込んだ時点から一ヶ月後に予定していた長期探索に先駆けて、少数精鋭による事前探索を行ったんだが――どうやら()()()を引いたらしいんだ」


 当たりを引いた。この言い回しの意味するところは明白だ。


 セオドアは湧き上がってくる興奮を抑えきれない様子で、俺が反応を言葉にするのも待たずに発言を続けた。


「焦らさずに結論から言おう。先遣隊が岩山地帯の奥に巨大な縦穴を見つけた。僕はまだ現地に赴いていないのだけど、ドラゴンが大穴から飛び立つのを見たという報告を受けている」

「つまり、ドラゴンはその縦穴から現れていて、更には深層領域にも繋がっていると……」

「まだ仮説の段階さ。ひょっとしたらどこにも繋がっていない行き止まりの穴で、迷い込んだドラゴンが脱出した瞬間だったのかもしれないからね」


 縦穴の奥に目当ての深層領域とドラゴンの出現場所が存在する可能性。


 単なる深い陥没に過ぎず調査も徒労に終わる可能性。


 現状ではどちらの可能性も等しいとしか言いようがないが、だからこそ冒険者は『探索したい』という意欲に駆られるものだ。


「それじゃあ具体的な探索計画についてだけど……」

「ちょっと待った。その前に伝えておかないといけないことがあるんです。これはトラヴィスにも聞いてほしかったんですが……」


 重要な情報を口にしようとしたところで、貸し会議室の扉が力強くノックされた。


「俺だ。すまん、遅れたか?」

「いいや、ここからが本番のようだ。入ってくれたまえ」


 セオドアの返答を受け、トラヴィスが一人で部屋に入ってきてどっかりと椅子に腰を下ろす。


 これで話をしたい相手が全員揃った。

 『魔王城領域』よりも更に深い場所を探索するというのなら、絶対に伝えておかなければならないことを。


「……こいつは後でフローレンスにも報告しておくつもりなんだが、やっぱり一番の当事者には直接伝えておきたかったんだ」


 トラヴィスとセオドアの方を見据えてそう告げてから、ガーネットの方に横目で視線を向ける。


 これは王都で判明したばかりの新たな情報。

 ガーネットの立ち会いを望んだのも、この件を説明するときに同席しておいてほしかったからだ。


「王都で起きていた夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)事件のことは知っているか?」

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