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第236話 想定通りの探索計画

「『魔王城領域』の深層領域の探索、お前が主導してるんだろ? どんな計画になってるのか聞いてもいいか?」

「さすがだな。耳が早い。ここにいる連中も()()()()計画の参加者だ。さて、どんな計画だと思う?」


 トラヴィスの言い方は、暗に他の冒険者の計画も存在していると告げていたが、別段驚くようなことではなかった。


 俺が深層部探索の先導者(リーダー)と目していたAランク冒険者は二人。

 そもそも複数の計画が並行して進んでいてもおかしくはないのだ。


「お前のことだから初手はまず正攻法なんだろ。魔王城の地下の、魔王軍が撤退していった通路を通って奥を目指すんじゃないか?」

「その通り。なので実は、お前が帰ってくるのを今か今かと待っていたわけだ」

「あー……そっちの理由も何となく分かったぞ」


 トラヴィスの探索方針は王道的で理解しやすいものが多い。


 本人がそういう性格だというのもあるが、パーティに若手を多く抱えて育成している関係上、奇を(てら)ったことはやり辛いという理由もあるようだ。


 なので付き合いが長くなれば、考えている作戦やそれが抱える懸念事項も読めるようになってくる。


「魔王が逃げ道をそのままにしておくとは考えにくいし、簡単に抜けられる道とも限らない。通路の破壊と封鎖に致死性トラップ……何が起こっても【修復】と【分解】で対応できるようにしたいってところだろ」

「概ね正解だ。後は【解析】を使って地下通路の構造を分析してもらえればと期待している」

「できなくはないと思うけど、魔力の効率は良くないと思うぞ。専門スキルが使える奴を探した方がいいんじゃないか」


 これまでにも【解析】で周囲の地形や構造を読み取ったことはあるが、少々強引な応用であることは否めない。


 分析範囲を広げればその分だけ消費魔力も多くなるので、広範囲の地図作成(マッピング)をするには不向きというのが率直な感想だ。


 そういう目的なら、文字通りの専門スキルである【地図作成】の使い手に頼るのが一番だろう。


 もっとも、一回のスキル発動で読み取れる範囲は練度(レベル)に依存し、ダンジョン全体、あるいは階層全体を一発で掌握できる奴はまず存在しないのだが。


「無論、【地図作成】を使える奴らにも声を掛けてある。しかし、地下通路の入口付近を調べた黄金牙によると、その手の解析手段を阻害する仕掛けが施されているらしい」

「まぁ……俺が魔王の立場でもそうするか。いざってときのために迷路みたいな脱出路を用意しておきながら、簡単に無力化できる手段を対策しておかないはずがないよな」

「完全無効化というわけではないが、一回の発動ごとの効果範囲は狭くなってしまう。なので少しでも頭数を増やしたいのが本音だ」


 俺とトラヴィスが支部の通路で立ち話をしている間、他の冒険者達は俺達のやり取りをまじまじと観察し続けていた。


 ある者は尊敬のこもった眼差しで。

 またある者は講義を受けているかのような表情で。


 Aランク冒険者であるトラヴィスが作戦を立案する様を見逃さず、今後の糧にしようという熱意らしきものすら感じる。


 向上心あふれる若手ばかりで何よりだ。

 今後もうまく生き延びることができれば、きっと大成することだろう。


「ルーク、お前も人材に心当たりはないか」

「俺が知ってるような奴ならお前も知ってるだろ。冒険者以外なら……王宮に頼んで勇者ファルコンでも貸してもらうか? あいつはかなり高レベルの【地図作成】が使えたぞ」

「ふむ、一考の価値はあるな……」

「……待て待て。冗談だ」


 勇者ファルコンは魔王に捕らえられ、竜人に作り変えられて俺達と敵対した後、紆余曲折を経て再び魔王に刃向かい、竜人化の分析のために王宮の研究施設へと身を寄せた。


 俺の【修復】なら、ひょっとしたら同じ目に遭った恋人のジュリアともども元に戻せたかもしれないが、恐らくは贖罪のためにあえて研究対象となることを選択した――と俺は思っている。


 ともかく、ファルコンを探索目的で連れ出すのはまず不可能だろうし、本人が首を縦に振る可能性はもっと低いはずだ。


「まともな心当たりなら……ロイの奴がグリーンホロウに来るつもりだと言っていたな。あいつの精霊獣なら探索にも有用なんじゃないか」

「ほう! こいつはいいことを聞いた! 奴がいるといないとでは大違いだ!」


 盛り上がるトラヴィスとの会話を続けながら、横目でガーネットとレイラの方を見やる。


 二人は廊下の曲がり角の向こうから揃って顔を覗かせて、何も言わずにじっとこちらを眺めていた。


 正確に言えば、ガーネットは俺のことを、レイラはトラヴィスのことを見つめていて、逆にもう一人のことは意識に入れていないようだった。


「ところで、サクラにはもう声を掛けてあるのか?」

「東方人の剣士だな。参加の要請は既にしてあるが、返事を保留されているところだ。まだ町で受けた依頼が終わっていないとか何とか」

「町? あいつ地上にいたのか。てっきりこっちに下りてきてるものだとばっかり」


 ということは、ホロウボトム支部や『魔王城領域』を探してもサクラは見つからなさそうだ。


 無駄足を踏んだ……とまでは言い切れない。

 こうしてトラヴィスと情報交換ができただけでも意味があるし、レイラへの借りを返すいい機会だ。


「……とりあえず、俺から聞きたいことはこれだけだ。後は話したいことが二つ。仕事に関わる話と完全にプライベートな話が一つずつ。どっちも人のいるところではしたくないんだが……」

「構わんぞ。もう少し待ってくれたら時間が取れる。小さい貸し会議室でも押さえておいてくれ」


 そうしてひとまずトラヴィスと別れようとした矢先、廊下の奥からまた別の冒険者がやって来たのが視界に入った。


 適当に道を譲ってすれ違う――なんてことはできそうにない。


 何故ならあちらは、どう考えても俺に声を掛けようとしているからだ。


「やぁ、ホワイトウルフ君! ようやく王都から帰ってきたようだね! 待ちかねたよ!」

「セオドア・ビューフォート!」


 真っ先にトラヴィスが驚きと共にその名を呼ぶ。


 ドラゴンスレイヤー、セオドア・ビューフォート。

 辺境伯という高い地位の貴族の長子として生まれながら、ドラゴンを狩りたいという趣味的な欲求を満たすためだけに冒険者となった男。


 それ以外の目的にはさほど興味を見せず、ドラゴン狩りに貢献しない冒険者のことは覚えもしないこの男が、笑顔で俺に話しかけてきた理由を、俺はよく()()()()()


 ガーネットの一件のために伯爵の夜会に乗り込むにあたり、辺境伯家長子の肩書で紹介状を書いてもらう代わりに、セオドアの探索に協力すると約束をしたからだ。


「お久しぶりです。その様子、何となく分かりましたよ。()()()の探索計画を練っているのは貴方ですね」

「なるほど、黒剣山のトラヴィスとはその話をしていたわけか。いかにもその通りさ」


 セオドアは俺の質問を全肯定し、それはもういい笑顔を浮かべたのだった。

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