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第220話 グリーンホロウの一方その頃 後編

「え、ええとだな! とにかく応援呼ぼう! ギルドハウス……は、手が開いてる人いるかな……『日時計の森』の支部かうちの支店か……とにかくホロウボトムに応援を頼んできてくれ!」

「わっ、分かりましたっ!」


 支部の子に応援要請をお願いして送り出し、あたしとレイラの二人だけでしばらく店を回すことにする――頼むから厄介事が来ないでくれと祈りながら。


 けれど悪いことは続くもので、それからすぐに一台の大きな荷馬車が店の前に停車して、おもむろに馬車から馬を外し始めた。


 嫌な予感を覚えながら、レイラに店を任せて事情を聞きに行く。


「あのー……ご用件は何でしょうか」

「すみませんでした、こっちの事情で配達が遅れてしまって。冒険者ギルドにご依頼の廃棄武装をお届けにあがりました」

「そ、そっか! そういえば……!」

「……? 馬車は明日の朝に取りに来ますので、よろしくお願いします」


 うっかりしていた。

 ルークさんが発注していた材料がそろそろ届くはずだったんだ。


 業者の人は何頭かの馬を連れて町の方に戻って、後に残されたのは積荷満載の荷馬車。


 これを二人だけで倉庫に運び込むことを考えて途方に暮れていたら、レイラも玄関先まで様子を見に来て、そして全てを察した顔で肩を落とした。


「……そうか、これがありましたね」

「頑張って倉庫に運ぶしかないよなぁ……」

「応援が来てからでもいいのでは?」

「でも多分、支店から引っ張ってこれるのは一人くらいだし。早めに取り掛からないと夜までに間に合わないかも」


 強化スキル持ちのガーネットや【重量軽減】持ちのアレクシアさんがいれば、この作業もすぐに終わったんだろう。

 それにルークさんもれっきとした男の人だから頼りになったはずだ。


 支店の子が力の強いスタッフを応援に連れてきてくれることを祈りながら、一つ目の木箱に手を伸ばす。


 ところがその直後、玄関を飛び出していった支店の子が元気な声を上げて戻ってきた。


「エリカさん! おまたせしました!」

「ええっ、もう戻ってきたのか!?」


 ここから支店がある『日時計の森』の奥まで往復するにはもっと時間が掛かるはずだ。


 驚いて振り返ると、走りながら手を振っている支店の子の後ろに、顔馴染みの二人の姿があった。


「エリカ、大丈夫? さっきノワールさんに応援よろしくって頼まれたんだけど」

「途中でアレクシアとすれ違ったときはさすがにまずいと慌てたが、どうやら急いで正解だったようだな」

「シルヴィア! サクラ!」


 思わずシルヴィアの手を握り、嬉しさのままにぶんぶんと振り回す。


 臨時休業の決断もしないといけないかもと考えていたから、予想外の増援に泣きそうになってしまう。


 あたしの親友で町一番の宿屋の看板娘のシルヴィア。

 この辺りじゃ珍しい東方人の冒険者のサクラ。


 どちらもルークさんとの付き合いが誰よりも長くて、ホワイトウルフ商店のことをよく知っている心強い仲間だ。


「ほんとよかったぁー……本気でどうなることかと……」

「大袈裟だなぁ」


 あたしのリアクションに困ったように笑いながら、シルヴィアは自分達がこんなに早くやって来れた理由を説明した。


「私もサクラも、今日は朝から支部の方にいたんだけどね。昇降機の具合が良くなくって、もうアレクシアさんを呼ぶしかないかもってなってたところにノワールさんが降りてきてさ」

「仕事に慣れた従業員が二人も抜けたら大変だろうということで、私達が応援に行くことにしたんだけど、途中でその子とばったり」


 言われてみたら納得だ。

 アレクシアさんが呼ばれた理由が理由なので、本店から一人いなくなることは支店の方から見れば予定調和だったんだ。


「しかしだな、どうしても回らないなら臨時休業にしてもよかったのでは?」

「それも考えたんだけど……やっぱりルーク店長からお店を預かったわけだし、お店を閉めるのは最後の手段かなって」

「責任感が強いのは君の美点だな。しかしルーク殿はそれくらいのことを気になさる方じゃないぞ。前々から必要なときは迷うことなく店を閉めていたからな」


 サクラに気軽な口調でそう指摘されてしまい、心の中で反省する。


 自分が何とかしなきゃと気張りすぎて、軽く空回り気味になっていたかもしれない。


 勝手に崖っぷちのボーダーラインを決めつけて、勝手に追い詰められるなんて、それこそルークさんが帰ってきたときに合わせる顔がない。


 あたしもいつかは自分の店をと思っているんだ。

 ルークさんを見習って、どんなときでも落ち着いて対応できるように頑張らないと。


「それにしても、随分と大量の積み荷だな。念のために暇そうな顔見知りにも声を掛けておいてよかった」

「お前個人の問題なら聞き流していたところだったけどな」

「まぁまぁ。ルークさんには何度もお世話になってるんだし。返せるときに返さなきゃ」


 遅れてやって来たのは、属性魔法使いの女の子と、小柄な東方人の男の子。

 確か……そう、メリッサとナギだ。


 あたしがここで働くようになる前に何度か雇われていて、その後もダンジョン絡みの大仕事のときにルークさんと一緒に行動することがあると聞いている。


 人から聞いた話だと、ルークさんに命を救われたこともあるんだそうだ。


「……よしっ!」


 自分の頬を軽く叩いて気合を入れ直す。


 ホワイトウルフ商店で働かせてもらうのは、将来のための得難い経験。

 この経験もしっかりと飲み込んで糧にしよう。


「それじゃ皆さん、もう一頑張りよろしくお願いしますっ!」






 従業員が一気に七人まで増えたおかげで、普段通りの営業を続けながら積荷の移動と中身の確認をこなすことができた。


 しかも途中からはノワールさんとアレクシアさんも合流したので、夕方頃には交代で休憩も挟む余裕が生まれていた。


 そんなこんなで営業時間も終わりに近付き、皆の間にも緩んだ空気が流れ始めた。


「お店閉めたら、皆でご飯にでも行く? もちろんお店のお金で」

「いいんですか? そんなことして」

「へーきへーき。ルーク君から、そういうことに使ってくれっていうお金も預かってるからさ」


 アレクシアさんはそう言ってひらひらと手を振りながら、メリッサとナギにも食事の誘いを持ちかけに行った。


 そのとき、またもや一台の荷馬車が店の前で停まる音がした。


 まさか今になってまた荷物が?

 嫌な予感をひしひしと覚えながら玄関に向かうと、いつも見かける荷馬車とは違う車が停まっていた。


「ホワイトウルフ商店さんはここで合ってるかな。白狼の森のルークさんからのお届け物だ」

「店長から? 何だろ」

「それと手紙も預かってるよ」


 宛名は特定の誰かじゃなくてホワイトウルフ商店名義だったので、さっそくその場で手紙を読んでみることにする。


 ――手紙に書かれていたのは、王都のお土産を一足先に送っておくことと、この荷物が届く頃にはもう王都を出発していることを伝えるメッセージだった。


 思わず口元が緩んでしまう。


 王都のお土産がこのタイミングで届いたのはただの偶然なんだろうけど、何だか今日の頑張りのご褒美が貰えたような気がして、嬉しくってしょうがなかったのだ。

別視点のおさらいパートは以上です。次回からは通常通りルーク視点からの本編となります。

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