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第219話 グリーンホロウの一方その頃 前編

第六章一話目は「第五章の一方その頃」的なパートからとなります。

 ここ最近のホワイトウルフ商店は、いつもと違う雰囲気での営業が続いていた。


 店で一番の古株店員であるガーネットが帰省して、その翌日に……いや、そのまた次の日の朝だったかな……とにかくすぐに、店長のルークさんも急な出張で王都に行ってしまった。


 出張の理由はサンダイアル商会との取引絡みとのことだったけど、あの焦りっぷりからすると他にも事情があったのかもしれない。


 とにかく、最近の本店スタッフは実質的に四人だけで店を回している。


 まずはあたし自身、胡桃街道のエリカ。

 それと黒魔法使いのノワールさんと、冒険者兼機巧技師のアレクシアさん。

 最後に雇われたばかりのレイラで合計四人。


 うん、見事なまでに女の子ばっかりだ。


 このメンバーだけでも普通に営業はできる。

 あたしだってちゃんと仕事は覚えたんだ。


 でもこれだと休みの日を入れるのも難しいし、もしものときに大変なので支店から一人借りることにしている。


 それでもまだ人手が足りないときは冒険者を雇って対応だ。

 うちの店長はこういう出費を惜しまないタイプなのがありがたい。


 ――そんな感じで、店長不在のホワイトウルフ商店は今日ものんびりと仕事をしていた。


「アレクシアさん、休憩上がりました」

「ん、了解。じゃあ会計カウンターの方に入ってもらえる? 次は私が休憩入るから、レジでエリカの手伝いよろしく」

「はーい」


 あたしの隣で客を待っていたアレクシアさんが、支店からの応援の子と入れ替わりで奥に引っ込む。


 支店スタッフの男女比は半々だけど、送られてくる応援は基本的に同性ばっかりだ。


 多分だけど、支店長のナタリアが配慮して人選を決めているんだと思う。


 あたし達に気を遣っているのか、それとも新人の男の子を女所帯と化してしまった本店に送り込むのを躊躇っているのか、その辺りはちょっと分からないけれど。


「ねぇねぇ、エリカさん。店長さんとベテランさんが一気にいなくなるって聞いたときは、これちょっとマズいんじゃないかなって思いましたけど、意外と何とかなるもんですね」

「だな。最初の頃は二人で回してたっていう話だし、案外いけるもんだ」


 支店の子とひそひそ話をしながら、会計カウンターから店内の様子を見渡してみる。


 今日も客入りはほどほど。多すぎず少なすぎない適度な忙しさだ。


 ダンジョン内の支店ができる前は来客が多すぎてぎゅうぎゅう詰めだったけど、今はダンジョンの奥に挑戦する冒険者のお客さんが支店の方に通っているので、本店の負担もちょうどいい具合に収まっている。


 カウンターの外で作業をしているスタッフは二人。


 一人目は在庫確認をしているノワールさん。

 ルーク店長を除いたら店で一番の大人の女性(ひと)で、物静かでスタイルもよくて、薬草や魔法の知識も豊富な凄い人だ。


 長く伸ばした黒髪は上品に波打っていて、あたしのふわふわだのもこもこだのした髪なんかとは全然違う。


 そしてもう一人は……。


「案外だの意外とだの……現状が綱渡りに近いことは自覚しておいた方がいいと思いますよ」


 レイラ。支店のために大勢雇われた従業員の一人で、本店の負担を減らすための地上勤務に回ってもらった子だ。


 綺麗に整えられた短い黒髪に珍しい赤い瞳と、かなり目を引かれる見た目をしているのだけど、普段から真面目で気難しい空気を漂わせていて、今もあまり打ち解けていない。


 いやいや、嫌いだとか仲が悪いって意味じゃない。

 仕事ではきちんと協力しているし、お互いに距離を取ったりはしていないはずだ。


 むしろレイラの仕事ぶりが先輩形無しというか何というか。


「現状から更に一人二人と欠けてしまう可能性もあるんですから、いざというときの覚悟はきちんとしておくべきでしょう」

「それはそうだけど、話題にしたら逆に実現しちゃうとか、そういうこともあったりしない?」

「ジンクスは信じない(たち)ですので」


 レイラがそう言い切った直後、店の玄関の扉が勢いよく開け放たれて、焦った様子の冒険者が駆け込んできた。


「すみません! 黒魔法使いさんいますか!」

「えっ……? わ、私の、こと……か?」


 ノワールさんが困惑顔で冒険者に応対する。


 この町には冒険者も含めて何人かの魔法使いがいるけれど、専門的な黒魔法使いといえばノワールさんだけだ。


「地下で掘り当てたマジックアイテムに呪いが掛かっていて、仲間が大変なことになったんです! 解呪を手伝ってもらえませんか!」

「で、でも、確か……ギルド、支部に……解呪師、が……」

「もう()てもらったんですけど、一人じゃ難しいから応援を呼んでくれって……! お願いします!」


 ノワールさんはかなり迷っていて、私達に顔を向けて意見を求めてきたけれど、状況が状況だから仕方がない。


 店は私達に任せてもらって大丈夫だと伝えて、ノワールさんには解呪の応援に行ってもらうことにした。


「……ほらぁ、やっぱり」

「何がやっぱりですか、何が。私がああ言わなくても同じことだったでしょう」


 それはそのとおりなんだけど、何というかこう気持ちの問題だ。


「一応、まだ四人残ってるわけだし、アレクシアさんもいるから大丈夫でしょ」

「アレクシアさんよりもあなたの方がベテランなのでは?」

「うっ……。でもほんのちょっとしか変わらないし、人生経験は向こうが上だからさぁ……頼ってもいいかなって」


 確かにホワイトウルフ商店で働いている期間だけ見れば、アレクシアさんよりもあたしの方が少しだけ長い。


 けれどアレクシアさんは、ずっと前から冒険者や機巧技師として自立しているから、最近になってようやく故郷を出たばかりのあたしなんかよりよっぽど経験を積んでいる。


 アレクシアさんが休憩から上がったら、ノワールさんがギルド支部に行ってしまったと報告して、店長代理の役目をお任せしよう。


 そんな都合のいいことをぼんやり考えていると、今度は筋肉質で背の高い冒険者が遠慮気味に店の中に入ってきた。


 店内で商品を物色していた他の冒険者達が、その人の姿を見た瞬間に驚きと緊張で体をこわばらせる。


 確かあの人は、ルーク店長の友達でランクの高い冒険者の……名前はトラヴィスとかいったはずだ。


「えっと。トラヴィスさん、どうかしましたか?」

「急な頼み事があって来たんだが……機巧技師のアレクシアは不在か?」


 よかった、名前は合ってた。

 でもどうしてアレクシアさんを呼んでいるんだろう。

 というか玄関の前に突っ立ってないで、こっちまで来たらいいのに。


「アレクシアさんなら休憩中です。ちょっと待っててください。ほら、呼んできて」

「はぁい」


 支店の子にアレクシアさんを呼びに行かせて、あたしとレイラだけでカウンター業務を続けることにする。


 ……と思って隣に目をやると、レイラはお堅い雰囲気がどこへやら、まるで恋する乙女みたいな眼差しでぼんやりとトラヴィスを眺めていた。


 あ、ダメだこれ。使い物にならなくなるヤツだ。


 レイラにもこういう一面があったのかという親近感と、その手の趣味が全く合わないなという確信と、今そっちに夢中になるのはマジで止めてという懇願が混ざった目を向ける。


 それからすぐに、支店の子に引っ張られてアレクシアさんが店頭に戻ってきた。


「私に呼び出しって何なんですか。まさか一昨日直したばかりの物資昇降機、またまたイカれたとか言うんじゃないですよね」

「いや、そっちは問題ない。実は二号機の方に問題がな」

「えええっ!? 大問題じゃないですか! 何でそんな落ち着いてるんです!」


 アレクシアさんから不機嫌っぷりが一瞬のうちに消え失せる。


 そしてカウンター裏の大きな道具箱を引っつかむと、全速力で店を飛び出していった。


「ごめんエリカ! 店頼んだ!」

「すまん、アレクシアを借りていく! こちらの現場は任せてもいいか!?」

「はいっ! 任せてください!」


 元気よく返事をしたのは、あたしじゃなくてレイラの方だ。


 やる気に満ち溢れてくれたのはいいことだし、どうせあたしが同じ返事をしなければならなかったわけだけど……この状況、本当に大丈夫なんだろうか。


 スタッフはあたしとレイラと支店の子、以上終わり。


 いやいやいや、これはダメだろ。また厄介事が飛び込んできたら崖っぷちの一歩向こう側待ったなしだ。


「え、ええとだな! とにかく応援呼ぼう! ギルドハウス……は、手が開いてる人いるかな……『日時計の森』の支部かうちの支店か……とにかくホロウボトムに応援を頼んできてくれ!」

「わっ、分かりましたっ!」


 支部の子に応援要請をお願いして送り出し、あたしとレイラの二人だけでしばらく店を回すことにする――頼むから厄介事が来ないでくれと祈りながら。

Q.なんで別視点からスタートしたの?

A.40話以上出番なかったキャラばっかりだからおさらいも兼ねて。

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