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第207話 ブルーノの供述

「分隊長! 被疑者が意識を取り戻しました!」

「そうか。よし、団長が到着する前に最低限の聴取を済ませろ」

「いえ、それがですね……」


 年長の騎士の指示を受けた若手の騎士が、困惑気味に言葉を続ける。


「ルーク殿を聴取に同席させろと。そうすれば事の真相を全て話すと言っています」

「何だと? 何故そうなる」

「問い質しましたが黙秘を貫いています。要求が受け入れられない限りは喋るつもりがないようです」


 全くもって意味不明だが、どうやらブルーノは俺をご指名のようだ。


 果たして今のブルーノの思い通りに動いていいものか、という懸念はあるが、それを考慮しても無視できるものではなさそうだ。


 自分にとって好都合な言い分を語る気だとしても、それを踏まえた上で解釈すればいいだけのことである。


「俺で良ければ立ち会いますよ」

「ありがたい。それではさっそくですが……」


 ガーネットを安全な場所に残して、裏路地の片隅で拘束されているブルーノのところへ向かう。


 本人は不服そうだったが、先ほどガーネットのことをアルマとして紹介した以上、あいつを危険な場所に同行させるわけにはいかなかった。


「ふん……俺を見下せて満足したか?」

「やっと落ち着いたみたいだな。無茶苦茶やりやがって」


 ブルーノは厳重に拘束されて騎士達に囲まれた状態で、俺のことをじろりと睨み上げた。


 相変わらず【自己再生】の練度が群を抜いている。

 この再生力でも治らない病となると、俺の【修復】でもどうしようもなさそうだ。


「それで、どうして俺が同席しなきゃ駄目なんだ」

「最後まで聞けば分かる。さっそくだが、そこの騎士連中が聞きたそうな話をしてやるよ」


 敗北し拘束された身でありながら、どこか余裕すら感じさせる態度で、ブルーノは淡々と自供を開始した。


「いわゆる夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)の事件なんだが、報道されてる最後の殺し、ありゃ俺がやったんだ。おっと! 勘違いするなよ。あれも正当防衛だったし、他の事件にゃ無関係だ」


 騎士達が警戒を強めて腰の剣に手をやったので、ブルーノはすかさず言葉を付け足した。


「順番に言うぞ。そもそもの原因は鍛冶屋のビルだ。お前も(ツラ)は知ってるだろう?」

「ミスリル加工師のビルか」

「ああ。そこで死体になってる奴らの片割れだ」

「……っ!」


 最初にこの裏路地に転がっていた、一目で手遅れだと分かった凄惨な二つの死体――ブルーノが正当防衛と称して斬った犠牲者。


 今も騎士による検視が進められている死体の片方が、まさかあの加工師だったというのか。


 顔が確認できる片方は全く見知らぬ男なので、首を刎ねられて頭がどこかに行ってしまったもう一つの死体がビルだったのだろう。


「ビルの奴は、鍛冶屋としてかなり追い詰められていたらしい。武器屋とトラブって取引を打ち切られるわ、ミスリル武具の研究開発に使う材料が手に入らねぇわとな」


 その辺りの話は俺も耳にしている。


 同業者組合経由で入手できるミスリルは、優先順位の高い供給先に送られてしまい、一般の加工師への供給量が絞られることがままあるらしい。


 また、ビルが武器屋に嫌われて自前の店を設けざるを得なかったという経緯も、昨日コリンから聞かされたばかりだ。


「加工師組合以外の合法ルートでミスリルを仕入れられたら、丸く収まったんだろうがな。あいつにはそんなコネもなかった。だからあいつは、密売組織との取引に手を染めたんだ」


 供述を聞いていた騎士達がにわかにざわめき、すぐにビルの店と工房を調査するようにとの指示が飛ばされる。


 そして俺は、この場にガーネットがいなくて良かったという思いと、あいつにもこの話を伝えなければという思いの板挟みになっていた。


 ガーネットが性別を隠してまで銀翼騎士団に加わっている理由。

 それはミスリル密売組織の一つである『アガート・ラム』を――母親の仇である犯罪組織を自らの手で壊滅させるためだ。


 ならば、こんな話を聞かされて冷静でいられるはずなどない。


「俺はちょっとした偶然でその事実を知ってな。口止め料の代わりに試作品を一つ貰ったわけだ」

「まさかあの剣か」

「その通り。ところがあの野郎、ゴロツキに金を握らせて俺を襲わせやがった。口封じがしたかったんだろうな。もちろん楽勝で返り討ちにしてやったが、俺も舐められたもんだ」


 ブルーノは吐き捨てるようにそう言った。


 どうやら口封じのために襲撃されたことよりも、ゴロツキ程度で仕留められると見くびられたことが不快で堪らないらしい。


「で、最初はそいつらがビルの差し金だと気付かなくてな。やばいと思って噂の夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)の仕業に見せかけようとした。いやぁ、二人もバラすのは苦労したぜ」


 平然と語るブルーノの周囲で、騎士達が揃って忌々しげな表情を浮かべている。


 治安維持や犯罪捜査を主任務とする銀翼騎士団にしてみれば、こんな模倣犯は迷惑千万この上ないだろう。


「後でその事実に気が付いて、どう落とし前つけるつもりだと詰め寄ったところでお前が来たわけだ」


 なるほど、それが昨日の一件だったのか。


「改めて呼び出しを受けて来てみれば、凝りもせずに別の奴を雇って襲ってきやがった。んで、その現場を銀翼に抑えられて今に至る……これだけ話せば満足だろ」


 根拠のない想像だが、恐らく騎士達は直近の事件を理由にブルーノを疑い、最低限の監視をつけていたのだろう。


 それでも流血を防げなかったのは、監視を悟られないように必要最低限の距離を取っていたうえに、ブルーノの攻撃が速すぎて介入する猶予がなかったからだ。


 一瞬のうちに二人を斬り殺すような真似をされてしまっては、予め羽交い締めにしておくくらいでなければ、とてもじゃないが未然に防げないはずだ。


「で、何か聞きたいことは?」

「……二つ答えてくれ。密売組織の名前は分かるか。それと俺を呼びつけた理由は何だったんだ」

「名前までは知らねぇよ。奴の店でも漁れば出てくるんじゃねぇか? んで、お前を呼んだ理由なんだが……くくく……」


 突然、ブルーノは声を押し殺して笑い始め、肩を震わせたまま発言を続けた。


「ははは! テメェに教えたかったんだよ! ビルが密売業者なんぞに手ぇ出したのはテメェがきっかけで、そのせいで巡り巡って四人が死んだってな!」

「……そいつはどうも」


 ささやか過ぎる嫌がらせに呆れながら、俺は(きびす)を返してブルーノに背を向けて、自分を待ってくれているガーネットのところへ戻ることにした。


 人間が何か行動を起こせば、それが巡り巡って別の何かを引き起こすのは当然のことだ。


 そんなことまで気にしていたら何もできなくなってしまう。


 だから俺は、自分の行いに後悔なんか抱いていない。


 これまでの全てがあったからこそ、俺はガーネットとここにいることができたのだから。

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