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第206話 秘密のための四苦八苦

 やがて気絶していた騎士達が目を覚まし、コリンが呼びに行った応援も到着したことで、倉庫街の裏路地の騒動は完全に収束を迎えることになった。


 謎の人形の残骸と、最低限の治療を受けたブルーノは、どちらも物理的拘束と魔法的拘束の両方を受けて無力化されている。


 残骸の方は既にぴくりとも動かず、拘束しなくても問題ないように思えるが、安全を第一に考えて念の為の措置を取ったのだろう。


「お初にお目にかかります。白狼の森のルーク殿ですね」


 応戦していた騎士の一人が安堵した様子で話しかけてくる。


「ご助力に深く感謝いたします。それと重ね重ねお手数を掛けて心苦しいのですが、詳細な状況説明をお願いできませんでしょうか」


 あの二人の騎士は、意識を取り戻したブルーノが人形を破壊する直前に昏倒させられたので、その後の戦闘の経緯を全く把握できていないはずだ。


 それを知っているのは俺とガーネット、そしてブルーノだけである。


 当然ブルーノは後で尋問されるのだろうが、あいつがきちんと口を割るとは限らないので、俺達からも説明を聞いておきたいのだろう。


 捜査に協力するのはやぶさかでない。むしろ当然のことだと思っている。


 だが、俺には一つだけ懸念しなければならないことがあった。


「ええと、もちろん協力はしたいんですけれど……」


 言葉を濁しながらさり気なくガーネットに横目を向ける。


 彼らが昏倒している間の出来事を説明するとなると、ガーネットがブルーノと交戦して撃破したことも話さなければならない。


 果たしてこれは、銀翼の騎士(どうりょう)に喋ってもいい内容なのだろうか。


 ガーネットは爪先立ちをして俺の耳に顔を寄せ、ひそひそと囁きかけてきた。


「騎士団の連中にはあんまり素顔(ツラ)は見せてねぇから、黙ってりゃ気が付かねぇと思う。いい感じに誤魔化してくれ」

「丸投げかよ。しょうがないな……」


 すっかり素顔に慣れていて忘れがちだったが、騎士として活動している間のガーネットは、基本的に兜で素顔を隠しているのだった。


 それなら何とかなるだろうと思って素早く言い訳を考えていると、増援でやって来た若い騎士の一人が、前提を盛大に台無しにすることを口走った。


「……あれ? 君は……いや、ていうかお前……いやまさかそんな……」


 ガーネットが引きつった笑顔でびくりと肩を震わせ、面白いくらいにだらだらと冷や汗を垂らす。


 事情は説明されなくても一瞬で分かる。

 いつぞやの連絡員と同様に、任務上の都合で素顔を見せたことがある騎士が、何の偶然かこの現場に駆けつけてきてしまったのだろう。


 その若い騎士は何か言いたげな顔でしきりに首を傾げ、ガーネットは必死に素知らぬ顔を維持している。


 こいつはさすがに適当な言い訳では取り繕えなさそうだ。


 下手をしたら、性別がばれるか女装癖の風評を受けるかのどちらかになってしまう。


 ならば、ここは()()()()()を言うのが一番だ。


 若い騎士が悩みに悩んだ末にガーネットに声を掛けようとしたところで、俺は躊躇いなくガーネットの肩を掴んで横並びに抱き寄せた。


「ご存知ありませんか。こちらはアージェンティア家のアルマ嬢ですよ。先日の夜会の件は団で噂になっているものとばかり思っていましたが」

「アージェンティアの?」

「あっ! ああっ! 失礼しました!」


 この場で最も年長の騎士が大声を上げ、若い騎士を力尽くで引き離す。


「ど、どうしたんですか、分隊長」

「お前なぁ、どうもこうもあるか。あのお嬢さんは団長殿の妹君で、ルーク殿はその婚約者になられたんだぞ」

「ええっ! あれが……じゃなくて、あちらの方が噂のアルマ嬢……!? そっか、兄妹ならそりゃ……ああいえ、何でもないです」


 若い騎士は裏路地の壁際で年配の騎士から説明を受け、すっかり納得できたようだった。


 ――どうやら言い逃れは上手くいったらしい。


 現状で『この少女は銀翼騎士団のガーネット・アージェンティアではない』と誤魔化すためには、ガーネットの素顔を知る少数の騎士までも騙さなければならなかった。


 他人の空似とするのはあまりにも苦しいが、存在していることになっている『双子の妹』ならば話は別だ。


 ガーネットがアルマ()()()()ことは揺るぎない事実なのだから、ボロが出ることはまずありえない。


 しかもアルマ・アージェンティアという令嬢は、普段は騎士ガーネットとして活動している関係上、あまり人前には出ず個性も知られていない。


 そこに『誰も知らないことだったが、騎士団長の妹は武術の腕前に優れていた』という都合のいい情報をねじ込んでも、疑いを抱く奴はまずいないだろう。


 何せ、武門の娘が嗜みとして武術を修めているだけなのだから。


 いくら先代団長が古い価値観の持ち主とはいえ、これくらいなら違和感なく受け止められるはずだ。


「まだ婚約者にはなってませんよ。もっと地位を固めてからにしろって言われましたから」


 とりあえず噂の尾ひれを否定しておいて、肩を抱き寄せてからずっと硬直したままのガーネットに目を向ける。


「これで良かったか? お前(アルマ)が隠れ武闘派だったってことになるけど、一番マシな誤魔化し方だと思うんだが」

「……へっ? あ、ああ、そうだなっ」


 返事の声は少し上擦(うわず)っていた。


 やっぱり承諾もなしに肩を抱いたせいで驚かせてしまったのだろうか。


「で、まだ肩掴んでんのか……?」

「離したら逆に不自然だろ」

「そりゃーまー、そうかもだけど……」


 ガーネットは居た堪れない様子できょろきょろと辺りを見渡している。


「……こいつら全員、オレの同僚なんだよ。いくら気付かれてなくったって、そんな奴らの前でこんな格好してるとか……な、分かるだろ? つーか分かれ」

「あー……それは確かにキツいな」


 自分の立場に置き換えて考えれば、すぐにでも逃げ出したくなること請け合いなシチュエーションだ。


 仕方がないので、今日のところは引き上げさせてもらう許可を貰おうと、現場指揮官らしき年長の騎士に話しかける。


「すいません。もう夜も遅いですし、アルマを邸宅まで送りたいのですが」

「それには及びませんよ。先ほどカーマイン団長に使いの者を送りましたから。お二人でお帰りになるより安全でしょう」

「あ、はい……」


 作戦失敗。原因はあちらの純粋な善意。


 ガーネットにこっそりと足を蹴られていると、拘束されたブルーノを監視していた騎士が声を上げた。


「分隊長! 被疑者が意識を取り戻しました!」

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