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第180話 冒険者ギルド本部にて

 王宮の丘を降りた俺達は、大通りに面したカフェテリアで休憩を取りながら、今後の予定について話し合うことにした。


「昼飯にはまだ早ぇから、注文するなら軽食程度にしとけよ」

「分かってるって。それにしても、さすがは王都。グリーンホロウだと高価な食材もこんなに安いのか」

「とにかく流通が発達してるからな。茶葉も砂糖もここだと山程入ってきてるぜ」


 案の定と言うべきか、ガーネットの注文は砂糖をふんだんに使った、見るからに甘そうなフルーツケーキだった。


 いつも「甘い物が特別好きなわけじゃない」と(うそぶ)いているが、本音はやはり見ての通りなのだろう。


 一方、俺の注文は川魚のフライをパンで挟んだ軽食と甘橙の果汁(オレンジジュース)で、ガーネットの方と比べて普通の食事に近いメニューである。


「陛下が戻ってくるのは三日後の夜だから、今日を含めて四日分の時間は空くわけか」

「そうなるな。朝に話してた用件を済ますにゃ充分すぎるんだし、たまにはのんびり過ごせばいいんじゃねぇか?」


 ガーネットはテーブル越しに俺を見つめてにっと笑った。


 冒険者ギルド本部。サンダイアル商会本部。ミスリル加工師組合。


 できれば回っておきたいと思っていたこれらの場所を、一日一ヶ所巡るとしても、ちょうど一日分の時間的な余裕が生じることになる。


 過密スケジュールを想定していたので少し拍子抜けだが、ここはガーネットの言うとおり、降って湧いた休暇とでも考えるべきかもしれない。


 陛下の帰還に合わせて滞在予定を延長するのは、この国の誰に告げても確実に納得を得られる理由だろう。


「とりあえず、この後はギルド本部に行ってみるかな」

「別にいいけど、本部に何か用事でもあんのか?」

「いや、物見遊山。十五年も冒険者やってたくせに一度も行ったことがなかったからさ。この機会に覗いてみようかと」

「ははっ! お前にもそういうとこあるんだな。観光とか興味ないんじゃねぇかと思ってたぜ」


 ガーネットは笑いながら、フォークでケーキの一欠片を切り出して口に運んだ。


 反論しようかとも考えたが、思い返せば最近の俺は仕事だの何だのに時間を費やしていて、あまり娯楽や観光に接してこなかった。


 そんな俺の姿を、ガーネットはずっと間近から見てきたわけだから、そういう価値観なのだと認識されるのも当然かもしれない。


「冒険者が本業だった頃はよくやってたよ。依頼で初めての土地に行ったら、近くの名所を忘れずに巡って帰ってたくらいだ」

「ふぅん。だったらギルド本部の次は、どこか王都の観光名所にでも連れて行ってやるよ」

「それじゃ、期待させてもらおうかな」


 ガーネットは返事の代わりに満面の笑みを返してきた。











 軽食を済ませた後で、今度はガーネットの案内で冒険者ギルドの本部へと向かう。


 立地としては王都の中心部付近に位置し、名実ともに一等地。


 見上げるほどの建物が立ち並ぶ中でも、ひときわ目を引く立派な建物だ。


 それだけに周囲の人通りも凄まじく、少しでも油断したら人の流れに飲み込まれてしまいそうだった。


「オレもこの大通りはよく使うんだが、ギルド本部の中に入ったことはなかったな」

「依頼とかしたこともないのか?」

「家のことなら使用人が依頼しに行くからな。オレ個人が依頼したのは……まぁ、せいぜい一回や二回だったけど、依頼手続きはアビゲイルあたりに頼んだ覚えが。何にせよ来たのは初めてだ」

「ああ……そういやお前、お嬢様だものな」

「うっせーな」


 冒険者として現役だった頃には、貴族が召使いを派遣して依頼手続きをさせるのをよく目にしたものだ。


 貴族でなくとも騎士団長の家柄となれば、そういう雑事は家人ではなく使用人がやるものになってくるというわけだ。


 ともかく、開け放たれた正面玄関の扉を潜り、冒険者ギルド本部の建物へ足を踏み入れる。


 外見と同様に、内部も目を見張るほどに立派であった。


 普通の二階建ての建物がすっぽり入るエントランスホール。


 正面には、来訪目的ごとに区分けされた十ヶ所近い受付カウンターが設けられ、多様な格好の冒険者が列を成している。


 左右を見れば大きな掲示板が壁を覆い、数えきれないほどの依頼票がそれを埋め尽くしており、大勢の冒険者が競うように依頼を見繕っていた。


「へぇ、大したもんじゃねぇか。グリーンホロウの冒険者が少なく思えてくるな」


 ガーネットはホールの中央辺りで興味深そうに周囲を見渡している。


「やっぱり本部っていうだけあって、他の支部よりでっかいのか?」

「そうだな。俺が今までに立ち寄った支部で一番大きいところでも、せいぜいここの半分くらいなんじゃないか」


 さすがにガーネットほど好奇心を露骨に出してはいなかったが、俺も本部の盛況ぶりに驚かずにはいられなかった。


 これまでに数多くの冒険者と出会い、かなりの人数の顔と名前を覚えてきたつもりだったが、この場にいる冒険者の総数と比べれば一割にも満たない。


「ん? 普通の冒険者が入れるのって、このホールまでなんだな」


 不意にそう呟いたガーネットの視線の先にあったのは、ホールの奥に通じる通路に掲げられた『ギルド職員以外立ち入り禁止』の看板であった。


「本部だけじゃなくて支部もそうなんだが、依頼の受付や報酬の支払い以外にも、裏方の仕事や組織運営の仕事も山程あるからな」

「他の部分はそういう仕事のための部屋ってことか」

「一応、休憩所や医務室、後は会議室なんかを借りたりもできるぞ。基本的にギルド構成員専用だけど」


 ギルド()()の呼称は飾りではない。


 各地のギルド支部やギルドハウスとの連携や情報収集、王宮や貴族との折衝、幹部クラスの人事、保有資金の管理――ここは冒険者ギルドを統制するあらゆる業務を担っている。


 当然ながら、それらに携わる人間が仕事をするスペースも広大になり、こんなにも大きな建物が必要になってしまったわけだ。


「ちなみにギルド職員以外立ち入り禁止と言っても、正規職員限定ってわけじゃなくてだな。貢献活動として一時的に働いてる奴らも含まれるんだ」

「この前、サクラがグリーンホロウ支部でやってた奉仕義務だな」

「そうそう。例えばほら、さっき出てきた奴も服装からして一般の冒険者で……」


 ちょうどいいタイミングで出てきた冒険者を例に話していると、その冒険者がこちらからの視線に気が付き、何故かいい笑顔で駆け寄ってきた。


 やや童顔気味の青年だが、見覚えのある奴ではない。


「お久し振りです、ルークさん! お元気そうでなによりです!」

「……お前の知り合いらしいぞ?」


 ガーネットがちらりと俺に目線を向ける。

 しかしそうは言っても記憶に――


「あっ! もしかしてお前、ロイか! 百獣平原の!」


 百獣平原のロイ――かつて俺が声を掛けたAランク冒険者の一人であり、結局グリーンホロウに来ることがなかった一人。


 記憶に残る姿はもっと幼さを残した少年だったが、顔に残った魔獣の爪痕はあの頃と全く変わっていなかった。

ちなみに「百獣平原のロイ」は第28話で名前だけ出てきていたりします。

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