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第178話 初めての王宮訪問

 何はともあれ、まずは最優先の用件を済ませるために王宮へ向かうことにする。


 サンダイアル商会や冒険者ギルドの本部に足を運んだり、ガーネットに王都をあれこれと案内してもらったりするのはその後だ。


 高級住宅街に位置するアージェンティア家の別邸を出て、王都の中央の丘の方を見やれば、それだけで王宮の各種建造物が視界に入る。


「高台があって防衛しやすく、大きな川があって輸送もしやすい。王都は栄えるべくして栄えた都市って感じだよな」


 丘に向かう大通りを歩いている間に、ガーネットが暇潰しの雑談を持ちかけてきた。


「そうだな。国中の街道も最終的には王都に通じてると聞くし、大陸で一番の都市ってのも納得だ。一日やそこらじゃ回りきれそうにないな」

「ははは! 無理無理! 隅から隅まで歩き回るだけでも一年は掛かるんじゃねぇか?」


 さすがに大袈裟だろうと言い返そうと思ったが、大きな建物が広範囲に渡って密集しているのを考えれば、あながち過剰ではないのかもしれない。


「そろそろ最初の検問だから準備しとけよ」


 王宮がある丘は周囲をぐるりと防壁に囲まれている。


 市街地や住宅地からは何本もの道が続いているが、それらは全て城門によって一旦遮られており、丘を登るには門番の監視を通過しなければならなくなっている。


 しかし、俺達にとっては問題にもならない。


 ガーネットは騎士の身分を明らかにすればそれで事足りるし、俺は王宮から送られた書状が通行許可証のようなものになる。


 却って不安になるくらいにあっさりと城門を通過し、綺麗に舗装されたなだらかな坂を登っていく。


「ここから先は、貴族が王都で過ごすときの家がある場所だ。騎士は丘の下で貴族は丘の上って割り振りだな」

「有力騎士は生半可な貴族より力があるっていうけど、それでもなのか」

「金や権力で下手な貴族を超えてようと、名目上は貴族の一番下より更に下って位置付けだからな。申し訳程度の領地しかねぇ男爵がオレらより上ってのは笑えるけど」


 ガーネットの語り口からは、嫌悪などの後ろ向きな感情は全く感じられず、当然の事実を冗談めかして喋っているという印象を受ける。


 制度上の階級が実際の力関係を反映していない現実も、やはりガーネットにとっては気にする価値もない事柄のようだ。


 まぁそもそも、ガーネットがそんなことを意識する奴だとは、最初から思ってはいなかったのだが。


 そんなことを考えている間に、ゆるやかな坂を登りきって王宮の前にたどり着く。


「……近くで見ると、なおさら凄いな……」


 戦争のための城塞と威容を示すための宮殿――それらの機能を見事に集約した大宮殿。


 あまりにも凄まじいものを目の当たりにしてしまったせいか、ひどく陳腐な感想しか浮かんでこない。


「さすがはウェストランド大陸の覇者の居城ってところか……」

「いや、陛下はここには暮らしてねぇぞ」


 感動すら覚えていた俺の隣で、ガーネットがあっさりそんなことを口にした。


「え、ここが王宮なんだろ?」

「そうだけど、豪勢すぎて落ち着かないとか言って、普段はあっちの貴族と同じ住宅街にいるらしいぜ。んで、執務のために王宮まで出勤してるとか何とか」


 ガーネットは丘の下に振り向きながら、さっき通ってきた辺りを指さした。


 改めて見てみると、他の邸宅よりも一回りは大きな建物が、俺達が通った道に沿って鎮座している。


 道路に面した部分の広さは他の邸宅と変わらないので、さっきは気付くことができなかったのだろう。


「あとこいつはさすがに噂なんだが、最初は丘の下に家を作ろうとして全力で止められたって話だ」

「……ありえる気がする」


 真偽は不明だが、本当ならアルフレッド陛下らしいエピソードである。


 アルフレッド陛下は二十数年前まで冒険者として活動し、ウェストランド王国の原型となった国の王から後継者に指名され、しばしの準備期間を経て今から二十年前に即位した。


 そんな経緯で王になったわけだから、前王から引き継いだ豪華絢爛な宮殿が肌に合わなかったとしても不思議ではない。


「てことは、この宮殿は純粋に国政のための政庁になってるってことか」

「だな。一応、忙しいときには泊まり込みになるらしいけど。役人や大臣の貴族もこの丘に住んでるから、毎朝すげぇ光景になるらしぜ」


 ガーネットの言うとおり、国政に携わるほどの貴族が列を成して王宮に出勤する様子は、なかなかに見応えがありそうだ。


 王宮に関する知識をアップデートしつつ、宮殿を囲む防柵の端に設けられた来訪者用の入り口から敷地に入り、手入れの行き届いた庭園の隅を通って王宮に入る。


 その間ずっと、五人一組の番兵が俺達に付いて来ているあたり、王宮の警備の厳重さが伺えた。


「ちなみにこいつら、竜王騎士団の連中だぜ。騎士なのはリーダーの一人だけで残りは配下の兵士だけど、その兵士すら下手すりゃオレより強いんじゃねぇかな」


 ガーネットが愉快な話でもするように、ひそひそと耳打ちをしてきた。


 竜王騎士団は国王陛下直属の近衛兵。

 王宮の警備を彼らが担うのは当然といえるだろう。


「そんなに強いのか?」

「一人あたりの実力なら、間違いなく全騎士団で最強だ。まぁ少数精鋭だから、軍団全体の戦力は黄金牙の方が上だけどさ」


 つまり俺は、危うくそんなところに放り込まれるところだったわけだ。


 条件が合わなくて良かったと改めて実感してしまう。


 番兵達の先導……というか監視を受けながら豪華な廊下を歩き続け、やがて王宮の一室のとある執務室に招き入れられる。


 そこで俺達を待っていたのは、もうすぐ老齢に差し掛かろうかといった風体の小柄な貴族であった。


「ようこそ、白狼の森のルーク君。用件は既に聞いている。陛下の御提案に対する返答を持ってきたそうだな。さっそくだが聞かせてもらおう」

「はい。陛下に賜った新騎士団設立の御提案、ありがたくお受けしたいと存じております」

「やはり若人は野心的でなければな。陛下もお喜びになるだろう」


 その貴族は、高級そうな椅子に腰掛けたまま深々と頷いた。


 たった一言を告げるだけだったのに、緊張のせいか相当な疲労感を覚えてしまった。


 とりあえず引き上げようと思ってガーネットに顔を向けると――何故かガーネットは、信じられないものを見る目でその貴族を見つめていた。


「……ガーネット?」

「キングスウェル公爵。貴方が本件を取り仕切っておられるのですか。まさかあのときのように……」

「厳密にはその一人だがね。新騎士団の設立準備には、私を含めた三人の公爵が携わっている。誤解なきように言っておくが、私は新騎士団の設立を歓迎する立場だよ」


 どうして二人がそんな会話を重ねたのか分からず、視線を何度となく往復させていると、ガーネットが警戒心に満ちた声で囁いた。


「勇者ファルコンの後見人だった大臣……要するに、勇者殺しの疑いをお前に掛けた張本人だ」


 俺は絶句して老齢の貴族――キングスウェル公爵へ振り返った。


 その貴族は顔色一つ変えず、落ち着き払った態度で俺に言葉を向けた。


「少々、時間はあるかね。いい機会だ。君には隠し立てせずに事情を説明しておくべきだろう」

「事情……例の容疑には理由があったということですか」

「安心したまえ。結果論として良い方向に転がったというだけで、動機は醜い自己保身に過ぎぬさ。私への評価を……無駄に事態をかき回した男という認識を改める必要はない。正鵠を得た評価だ。しかし――」


 キングスウェル公爵は反応に困る自嘲をしながら、俺の顔を――正確には俺の右眼をまじまじと見やった。


「その『右眼』と長く付き合っていくつもりなら、この老いぼれの弁明に耳を傾ける価値はあると思うがね」

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