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第150話 たまには仕事の話をしよう

 今日一日の仕事が終わった後で、俺達は夕食を取るために春の若葉亭を訪れた。


 グリーンホロウ・タウンで最も大きな宿というだけあり、宿泊客も町一番。


 うちの店やギルドハウスもそうだったが、キャパシティをオーバーしてやいないか不安になる繁盛ぶりである。


 なので、夕食の混雑時間(ピークタイム)が終わった頃を見計らい、忙しさに拍車をかけないように気をつけての来店だ。


「いらっしゃいませ、ルークさん。今日はいつもより大人数なんですね」

「たまにはな。これから休憩ならシルヴィアも一緒にどうだ?」

「ありがとうございます。ちょうど時間になりそうですし、お言葉に甘えさせてもらいますね」


 そんな会話を交わしながら案内された先は、十人程度が座れる大部屋の個室だった。


 いつもの食堂スペースはまだまだ騒々しいので、落ち着いて話せそうな場所を用意してくれたのは有り難い。


 ひとまず皆でテーブルを囲み、注文した料理が届くのを待っている間に、今後の方針について簡潔に説明しておくことにした。


「これから冒険者が増えてくるだろうから、それに備えて店舗を一つ増やそうと思ってるんだ。現状だと手狭になりそうだからな」

「今の店舗の増築や移転ではなく、ですか?」


 サクラが当然の疑問を投げかけてくる。


「ああ。どっちも悪い考えじゃないとは思うけど、今回は場所のアテがあるんだ。そこを使うなら、今の店を移転するよりも支店を作った方がいいと思う」

「そんな場所、ありましたっけ。グリーンホロウの一等地はだいたい使われてますし、新しい造成地はあんまり条件がよくないような。それとも隣町のウォールナット辺りに作るとか?」


 詳細に聞き返してきたのは、誰よりもこの町に詳しいシルヴィアだった。


 彼女の口からウォールナット・タウンの名前が出たとき、エリカが無言で複雑そうな表情を浮かべたのが目に入った。


 エリカはウォールナットの出身で、薬師として独立する夢を両親に否定されたことで出奔し、友人のシルヴィアを頼ってグリーンホロウへやって来たという経緯がある。


 だが、今回の話はウォールナットとは無関係なので、そいつは不要な心配だ。


「黄金牙騎士団が撤収を始めてるのは知ってるだろ? 『日時計の森』の底のホロウボトム要塞には、騎士団の兵力の大部分が駐留してたわけだが、そいつらも大半が撤収することになる」


 ホロウボトム要塞と魔王城――黄金牙騎士団が部隊を残すのはこの二ヶ所だが、今までどおりの規模で駐留させるわけではない。


 戦争が終わって魔王軍の主力が撤退した以上、必然的に要塞駐留の人数も減らされる。


 将来的には、要塞と『魔王城領域』の双方に関して、冒険者ギルドによる管理への完全移行も計画されているほどだ。


「となると、ホロウボトム要塞にも空き部屋とか空きスペースが出来てくるわけだ。要塞といっても、大部分は騎士や兵士が寝泊まりしたり、普段の生活を送ったりする場所だったわけだからな」

「なるほどな、騎士団次第ってのはそういうことか」


 一足先にガーネットが納得の声を漏らす。


 あまりもったいぶると、話が終わる前に料理が届いてしまうので、簡潔に要点を説明してしまうことにする。


「銀翼騎士団から聞いたんだが、要塞の機能を『魔王城領域』側に集約し、後ろ半分の『日時計の森』側の施設を民間に貸し出す計画が進んでいるそうだ」


 それを聞いて、この場に集まったメンバーのほぼ全員が驚きの声を上げた。


 反応が鈍かったエリカとシルヴィアは、戦闘にはあまり深く関わってこなかったので、いまいちピンとこなかったのだろう。


 盆地状の開放型である『日時計の森』と、地上に酷似した環境を有する地下空間型の『魔王城領域』――二つのダンジョンは『ドラゴンの抜け穴』と呼ばれる大規模な隠し通路で繋がっている。


 ホロウボトム要塞は、この隠し通路の前後を塞ぐ形で建設された、森側と地下側の二つの部分に分かれた要塞だ。


 戦争中は森側を物資集積などの後方支援に利用し、地下側を前線基地としていたが、戦争が終わった今はどちらか片方だけで事足りてしまうのだ。


「厳密には、一旦冒険者ギルドに払い下げてから、ギルド名義で民間にスペースを貸し出す形になるらしい。ダンジョン全体の管理を冒険者ギルドに移すっていう話の一環だな」


 騎士団が不要になった施設を民間に払い下げることも、冒険者ギルドがそれを購入することも、前例はいくつも存在している。


 ただし、それがダンジョン内の要塞というのはさすがに聞いたことがなかったが。


「現状、腰を据えて『魔王城領域』に挑んでる冒険者も、いちいち地上に戻って補給をしてる状態だ。うちの客にもそういうのが増えてきてるだろ? だったら、要塞に店舗を作ればお互い楽なんじゃないかと思ってさ」


 この案に真っ先に反応を示したのは、現役で冒険者として活動しているサクラとメリッサだった。


「それはいいですね! 戦争中は騎士団から補給を受けられましたが、今はもうされなくなってしまいましたし」

「中間地点にショップがあったら助かります! 武器だけじゃなくてポーションとかも置くんですよね? アイテム切れ起こしてもいちいち地上まで戻らなくていいなんて、最高じゃないですか!」


 メリッサのパートナーであるナギも、発言こそはしなかったが、何度か深く頷いて同意を示していた。


 グリーンホロウ・タウン、『日時計の森』、ホロウボトム要塞、『魔王城領域』、そして魔王城。


 冒険者の行動ルートは概ねこの順序で固定されているが、民間の宿や店があるのはグリーンホロウ・タウンだけだ。


 安全な低ランクダンジョンとはいえ、『日時計の森』はそれなりに傾斜があり距離も長いので、補給のために何度も往復するのは負担になってしまう。


 戦争の最中はホロウボトム要塞やその他の拠点が冒険者にも補給をしていたが、戦争が終わった今は撤収が進み、それも順次終了となってきている。


 良くも悪くも、『魔王城領域』は戦場から普通のダンジョンへと変化しつつあるのだ。


「あの建物の部屋を借りられる……あっ、いいかも! ルークさん! 耳寄り情報、ありがとうございます! そういうことなら宿屋もあった方がいいですよね!」


 シルヴィアが笑顔でぽんと手を叩いた。


「もう一部で噂になってるから言っちゃいますけど、うちも別館を建てた方がいいんじゃないかって話になってたんです。あそこなら寝室も多いですし、場所もちょうどいいんじゃないでしょうか」


 ホロウボトム要塞の新たな可能性に場が盛り上がり始めたところで、注文した料理がテーブルに運ばれてくる。


 せっかくの料理が冷めてしまってはもったいないので、誰が言い出すでもなく、話の続きは食事が終わった後という流れになったのだった。

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