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第143話 魔王戦争、その終幕 中編

エピローグは前後編の予定でしたが、長さの都合でもう一話追加させていただきます。

「ああ……やっぱり自分の家が一番落ち着くな……」


 実に一週間ぶりの我が家の空気を胸いっぱいに吸いながら、安物のソファーにゆったりと腰を下ろす。


 待望の座り心地が体を支えてくる。

 このへたった感触もなかなかに乙なものだ。


 魔王城が制圧されてすぐに、俺達は休む暇もなく城下町の復興に勤しんだ。


 なにせ、必要最低限の安全を保証するドラゴン除けの結界すら破壊されていたのだから。


 これでは食料の自給自足の再開以前の問題である。


 だがそれも、一週間を費やしてようやく一段落したところだ。


「おい、寛ぐなら荷物片付けてからにしろっての。後回しにするとめんどくさくなるぞ」


 しばらくそうやって休んでいると、ガーネットが自分の部屋に荷物を置いてから戻ってきた。


 面倒事は先に片付けるべきだと分かってはいるのだが、ゆっくり体を休めることへの誘惑に抗いきれなかった。


「……んで、結局グリーンホロウの連中はお役御免か?」

「その言い方だと印象悪いな。人手が必要な仕事はだいたい片付いたから、残った作業は騎士団と冒険者に任せて、町の民間協力者は地上に円満引き上げだよ」


 俺も今回は冒険者ギルドの一員ではなく、あくまでグリーンホロウ・タウンの住民の一人として協力していたので、必要な【修復】作業が終わったことで町に引き上げてきたわけだ。


 ガーネットは俺の右隣に腰を下ろすと、顔の右側を睨みつけるようにじっと見上げてきた。


「だから大丈夫だって。後遺症も残ってないぞ」

「そうは言うけど、あの奇妙な『右眼』……一体どんな代物なのかも分からねぇんだろ?」

「まぁ……確かにあれは色々と未知数だな」


 臨死の最中、アルファズルを名乗る存在から与えられた『叡智の右眼』に関しては、未だに分からないことが多すぎる。


 発動させたのも魔王との戦いが最初で最後で、二回目の発動にはまだ踏み切れていなかった。


「主観的な感想でいうと、普通に見ただけじゃ分からないことが把握できる、って感じだ。あの部分をこう修復すれば事態を打破可能だとか、魔力をこう使えばもっと有効な【修復】が……」

「んなこと聞いてんじゃねぇよ」


 ガーネットは小さな拳を俺の頬に押し当てて発言を遮った。


「テメェに悪い影響でも出やしないかと心配をだな……」


 そのとき、勝手口の扉がノックされる音が響いた。


 露骨にむっとした顔で席を立つガーネット。


 しかし扉を開けて来訪者の正体を悟った瞬間に、その不機嫌さはあっさりと鳴りを潜めた。


「サクラじゃねぇか。どうしたんだ」











「戦争終結を記念したパーティねぇ。ちょっと気が早いんじゃないか? 騎士団はまだまだ忙しくしてるわけだしな」

「グリーンホロウの町役場が独自に準備していた催しだそうです。町としては一日も早く平和を実感したいのでしょうね」


 町へ続く坂道を下りながら、サクラから呼び出しの理由について詳しい説明を受ける。


 もちろんガーネットも一緒について来ている。

 護衛だ何だという堅苦しい理由以前に、パーティへの誘いだというのに留守番させる理由などなかった。


「いいじゃねぇか。どうせ明日は店も休みにするつもりだったんだろ? 今日は多少ならハメを外してもいいと思うぜ」


 ガーネットもかなり乗り気のようだ。

 特に断りたい理由があるわけでもないので、このまま町まで下りてパーティに参加させてもらうことにしよう。


 やがて町についた頃には、もうすっかり日が落ちていたが、グリーンホロウの町並みはそんなことが気にならないくらいの明かりに満たされていた。


 町で最も大きな広場が野外パーティの会場に姿を変え、メインストリートは隅々まで明るくライトアップされている。


 参加者の層も多種多様で、町の住民やダンジョンに下りていない冒険者、一般の宿泊客や近隣の町の人々、果ては地上勤務の騎士や兵士までもが入り混じっていた。


 広場に並べられたテーブルには美味しそうな料理が配膳され、普段は町中に分散している屋台も、今夜が稼ぎ時とばかりに残らず集合しているようだ。


「こいつは予想以上だな……てっきりどこかの食堂でも借り切って宴会する程度かと思ってたぞ」

「もちろん、宿や酒場でも大騒ぎをしているようですよ。今日のために、わざわざ地下から上がってきた冒険者も多いくらいだそうです」

「冒険者って、飲んで食って大騒ぎするのが好きな奴が多いからなぁ」


 しばらく広場を歩いていると、人混みの向こうからアレクシアが駆け寄ってきた。


「やっぱりルーク君も来てましたか!」

「……ずいぶん満喫してるようで何よりだ」


 アレクシアは色々な料理を乗せた皿を片手に、食欲旺盛っぷりをごまかすように笑ってみせた。


 そして、ふざけた態度の笑いはすぐに引っ込めて、真摯な雰囲気の微笑みを浮かべる。


「えっとですね、本当にありがとうございました」

「ジュリアのことか?」

「はい。魔獣として処理されても仕方ないって覚悟してましたけど、助命されて王都に移送されたんですよね。ルークさんが銀翼に頼んでくれたんだって聞きました」


 竜人に改造されたファルコンとジュリアの扱いについては、途中で議論百出したものの、最終的には『人間』として王都の研究施設に身柄を移されることで決着した。


 魔王軍が未だ健在で、改造された黄金牙の騎士がまだ存在している可能性がある以上、奴らの研究成果を分析する必要があると判断されたためだ。


 その施設は国王のアルフレッド陛下の直轄で、魔物として解剖されるとかそういう心配はない……と、銀翼騎士団のフェリックスは言っていた。


「俺が銀翼に伝えたのは、調査が済んだらきちんと人間として裁いてくれっていうことだけだよ。そもそも俺が何も言わなくたって、最初からそういう予定だったみたいだしな」


 ちなみに、俺がファルコン達を【修復】するという案は一時的に棚上げとなっている。


 今後のことを考えると、スキルで一発解決よりも研究して根本的な対策を探りたいのだそうだ。


 意外だったのは、ファルコン本人がそれに積極的な同意を示したことだった。


 すぐに【修復】しろと騒ぐものだと予想していたが、一連の事件で何か思うところでもあったのだろうか。


「ところで、お前がここにいるってことはノワール達も参加してるのか」

「もちろんです。せっかくのお祭りなんですから。ノワールなら確かあっちの方に……」


 アレクシアが指し示した方向を見ると、グラスを手にしたノワールがベンチに腰を下ろして物思いに耽っていた。


 声を掛けようと思って近付くも、それよりも先にエリカが走り寄ってきてノワールに話しかけた。

【お詫びと訂正】

諸事情により、後編の公開は予定を変更して翌日の17日とさせていただきます。

既に最新話を読み、次の更新をお待ちくださっていた方々には大変申し訳ありません。

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【新連載!】
空往く船と転生者 ~ゲームの世界に転生したので、推しキャラの命を救うため、原作知識チートで鬱展開をぶち壊す~
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