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第139話 決戦再開

 ――本当に間一髪のところだった。


 アルファズルとの対話を終え、意識を取り戻した途端、ガーネットが魔王に殺されかけている姿が目に飛び込んできたのだ。


 間に合ってよかった。心の底からそう思う。


 ガーネットにもしものことがあったら、俺はきっと自分を一生許すことができなかっただろう。


「痛むところはないか?」


 後ろからガーネットを抱き止める格好のまま、ひとまず体の状態のことを尋ねておく。


 もう一度、こうしてガーネットの体温を感じ取れることが嬉しくて仕方がない。


 とは言ったものの、今までこんな風に体を触れ合わせる機会があったのは、ガーネットに力強く抱きかかえられたときくらいだったのだが。


「……じゃあ、顔も直してくれ」


 予想外の返答に思わず焦りかけたが、涙ぐんだ声を聞いて納得し、ガーネットの顔に手をかざす。


 直すべきは泣き腫らした目元。

 消すべきは頬を伝った涙。


 普通に涙を拭うよりもずっと確実に、ガーネットの顔から悲しみの名残りを拭い去る。


「ふぅ……言いてぇことはほんとに色々あるけどよ。何か言うのも、何かするのも、とにかくここから生きて帰ってからだ」

「ああ、そうだな」


 ガーネットは背中を向けたまま俺の腕から離れ、両手で剣を構え直した。


「本気で山程あるからな。覚悟しとけ」

「楽しみにしておくよ。さてと――」


 そうして俺は、かなりの距離を置いてこちらを観察する魔王ガンダルフに、全力の警戒心を込めた視線を向けた。


「ふむ、興味深い。自己蘇生できるほどの【修復】が可能だという話は、ノルズリからも第三被検体からも報告されていなかったな。あるいは貴様自身も知り得ぬ力だったか……」


 ガンダルフは落ち着いた態度で現状を分析している。


 驚きも焦りも全く見せないあたり、本当に俺達のことを脅威と考えていないらしい。


 俺とガーネットのやり取りを傍観していたのも、わざわざ妨害するほど必死になる理由がなかったからだろう。


「しかし、よもやこれだけではあるまい。ただ甦っただけではどうしようもなかろう?」


 まだ隠している力があるのなら見せてみろ――ガンダルフはそう言わんばかりの挑発的な笑みを浮かべた。


 奴の期待に応えるのは癪だが、このままだと同じ轍を踏むだけなのは火を見るよりも明らかだ。


 使える手札は全て使ってしまわなければ。

 たとえそれが、神を名乗る奴の口車に乗るような真似だとしても。


「ああ、やってやるさ。擬似的な神降ろしだろうと何だろうとな」


 右目の周囲を掴むように手をかざし、そして引き剥がすようにしながら【分解】を発動させる。


 瞬時に視界の右半分が消え失せ、残った左半分の視界の端に、濃紺の魔力の輝きが燃え上がる。


 アルファズルが言うところの『右目を捧げる』という行為。


 叡智を得るようなものであり、どのように【修復】の力を振るえばいいか見抜けるようになるとのことだったが、果たしてどれくらい役に立つものか。


「お、おい、白狼の……どうしたんだそれ……!?」

「悪いけど説明は後だ。全力で援護するから、前衛は任せたぞ」


 俺に生じた変化の気配を敏感に感じ取ったのか、ガーネットが振り返って驚きの声を上げる。


 しかしそれ以上に驚愕していたのは、他ならぬ魔王ガンダルフであった。


「それはまさか、アルファズルの右眼か! よもやそこまで力を引き出せていようとは! 白狼の森のルークよ! ますます貴様が欲しくなったぞ!」


 ガンダルフはこれまでになく感情を露わにし、歓喜の声を地下空間に響かせた。


 俺はその間に片手を床に置き、腰から下げた魔力結晶の貯蔵魔力も引き出して【解析】を発動させ、地下格納庫全体および周辺領域を一気に走査した。


 詳細な地形と周辺状況が流れ込み、これからどうするべきかという考えが頭に浮かんでくる。


「ガーネット。俺が合図をしたら――」

「は? ――ああ、お前がそう言うなら、思いっきりやってやるぜ」


 小声で作戦を伝えた直後、ガンダルフが両手に魔力を滾らせて、俺を捕らえるための魔法を発動させようとする。


 しかしそれよりも早く、俺は【分解】を発動させて目の前の床面を破壊した。


 穴を穿つための【分解】ではない。

 必要なのは粉々に砕かれた大量の粉塵だ。


「おらあっ!」


 即座にガーネットが斬り上げる形で魔力の斬撃を繰り出し、膨大な粉塵を前方へ撒き散らした。


 もうもうと立ち込める砂煙がガンダルフを包み込む。


 間髪入れず、複数の魔力弾が射出されて砂煙を突っ切った。


 だが、俺達は既に魔力弾の射線上にはいない。


 砂煙が濃い部分を迂回して、全速力で魔王の背後に回り込もうとしていたからだ。


「(奴に本気を出されたら、二人がかりだろうと勝ち目は全くない……だったら今のうちに状況を変えないと……!)」


 魔王の背後まであと半分というところで、青い魔力の塊と化した右眼に、普通なら見えないはずの『光景』が映った。


 弧を描いて背後から迫る三発の追尾型魔力弾――それらがこれからどのような軌跡を描くのかという予測図が。


 俺は後方に向けて右腕を振り抜き、粉塵の一部を限定的に【修復】して、空中に三枚の歪な石版を出現させた。


 三発の魔力弾が石版に直撃し、強力な拘束魔法を発動させる。


「(自動追尾と拘束術式……ったく、単なる魔力弾にいくつの魔法を詰め込む気だ!?)」


 最初から俺を殺すつもりで襲いかかってきていたら、間違いなく簡単に殺されていただろう。


 しかし、奴は自分自身の欲望のために、可能な限り生け捕りで俺を手に入れようとしている。


 ならばその弱みに付け込ませてもらうまでだ。


「――ガーネット!」

「おうっ!」


 ガーネットは素早く剣を鞘に収め、横から抱きついてくるかのように俺の体を抱えると、身体強化のブーストに物を言わせて高く跳躍した。


 もちろん着地する場所は床ではない。


 魔王ガンダルフの背後に整然と並ぶ戦闘用ゴーレム。その肩の上だ。


 着地と同時に片手で頭に触れて【修復】を発動し、隣のゴーレムへ跳び移る。


 三体目を【修復】し終えたところで、ガンダルフが魔法で旋風を巻き起こして砂煙を消し飛ばす。


「貴様、何の真似だ? わざわざ目くらましをしておきながら、攻撃も逃亡もせず――」


 ――次の瞬間、戦闘用ゴーレムの一体が魔王めがけて拳を振り下ろした。


「むうっ!?」


 奇襲は魔力防壁によって防がれたものの、更に一体、もう一体と起動しては魔王を取り囲もうとする。


「読めたぞ、そういうことか!」


 魔王が放った魔力の奔流が、最初に攻撃した戦闘用ゴーレムを破壊して軽々と吹き飛ばす。


 大破したゴーレムは未起動のゴーレムをなぎ倒しながら床に落ち、すぐさま俺の【修復】で元に戻って戦列に復帰する。


「この格納庫のゴーレムは対魔族用の特別機を改造して従えたもの! それらの制御系を改造前の状態まで……魔族を敵とみなすよう設定された段階まで巻き戻したのだな!」


 正解だ。こいつらが過去にそういう目的で配備されていたということは、この右眼が教えてくれた。


「だが! 甘い!」


 魔王は追尾型魔力弾を掃射し、複数体のゴーレムの頭部を魔法文字ごと粉砕した。


 ゴーレムの頭部に記された魔法文字は、制御系の中枢にして絶対的な急所。

 一文字削られただけでも完全に機能を停止してしまう。


 そうして戦闘用ゴーレム部隊は【修復】される端から破壊され、時間が経つごとにどんどん数を減らしていった。


「制御用の魔法文字が破壊されたとき、それに込められていた魔法は霧散し消滅する。いくら形だけ【修復】しようと再起動は不可能だ」

「けど、これで地上侵攻の備えは台無しだな」

「……貴様を手に入れさえすれば、いくらでも軍備は整えられる」

「それともう一つ」


 大量のゴーレムの残骸越しに魔王ガンダルフを指差す。


「時間は稼げた」


 突如として、地下格納庫の奥――俺達が最初に降りてきた場所の天井が粉砕され、轟音を立てて瓦礫が落下する。


 同時に、待ち望んだ仲間達が次々に降り立った。


 床を殴り砕いた張本人であろう、黒剣山のトラヴィス。


 魔王と聞けば黙っていないに決まっている男、二槍使いのダスティン。


 満身創痍のくせに偉そうな態度で翼を拡げた竜人、勇者ファルコン。


「ルーク殿! ご無事ですか!」


 そして真っ先に降り立ったサクラが、誰よりも早く俺の名前を叫んだのだった。

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