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第131話 魔王軍の計画、その全貌 前編

 暗がりの奥から姿を現す、荘厳な雰囲気を纏ったダークエルフ。


 俺にとって初めて目にする――いや、違う。

 ファルコンの記憶を【解析】で読み取ったときに、俺は奴の姿を確かに垣間見た。


「まさか……魔王、ガンダルフ……!」

「んだとっ!?」


 ガーネットが素早く前に飛び出して、俺を庇うように剣を構える。


「いかにも」


 魔王ガンダルフは照明の光の下で立ち止まり、余裕に満ちた態度で頷いた。


 敵意や悪意の類はまるで感じられない。


 しかしそれは『魔王が心優しいから』といったふざけた理由などではない。

 ただ単に、俺達を脅威とみなしていないだけなのだ。


 喩えるなら、家に迷い込んだ栗鼠(リス)を追いかけ回した末にようやく捕まえて、籠に閉じ込めてテーブルの上に置いたような――その程度の存在でしかないのだろう。


「下がれ、ノルズリ」

「御意に」


 ノルズリは躊躇なく命令を受け入れ、俺達から離れて暗がりへと姿を消した。


 あれほど再戦だの雪辱だのと拘っていたのに、魔王の命令は奴にとってそれほどまでに絶対的なのか。


「警戒せずともよい。貴様達に手を下すつもりはないゆえな。護衛の者にも拝謁の栄誉を許そう」

「……人類の敵と対峙して、警戒しない奴がいるとでも……?」

「ふむ。なるほど、人類の敵……か。誤りであるとは断ぜられぬが、少なからぬ語弊があると言わざるを得まい」


 魔王はまるで意図の読めないことを呟き、一人で勝手に納得したような素振りを見せてから、改めて俺に向けて口を開いた。


「我らの真の敵は、地上に住まう人間などではない。ここよりも更に深き領域に息衝く者共である」

「『魔王城領域』よりも下の階層……そこに敵が……」


 魔王軍が深い階層から現れて『魔王城領域』を制圧した、という情報は前にも聞いたことがある。


 確か情報源は先住者であるドワーフの証言だったか。


「ハッ! それがどうしたってんだ! 人間が勝手に攻め込んできただけなんです、だなんて泣き言でも垂れるつもりか? うちの親玉の目は節穴じゃねぇんだぜ?」


 ガーネットが剣先を魔王に突きつけて吼える。


 俺達と魔王の間には相当な距離が開いているが、スキルで瞬間的なブーストを掛けたガーネットならば一瞬で肉薄できるだろう。


 しかし、それに対応できない程度で魔王を名乗っているとは考えにくい。


「そもそもだ。テメェらは深層から這い上がってきてドワーフ共を征服したんだろう。下に敵がいるくせに上を征服するなんざ、どういう道理があるってんだ!」


 魔王ガンダルフは顔色一つ変えることなくガーネットの発言を受け止め、そしてよく通る低音の声で返答した。


「普段であれば即座に処断しておるところだが、今の余は機嫌がいい。不敬を許し、そして答えよう。我らの歴史の汚点も含めてな」


 ぎり、とガーネットが奥歯を噛みしめる気配がした。


 ――まるで底が見えない。


 俺達が住む国(ウェストランド)のアルフレッド陛下を高くそびえる山に喩えるなら、魔王ガンダルフは光も届かぬ深淵だ。


 全てを受け入れる寛大さがあるように見えながら、しかし一歩でも踏み込めば息絶えるまで転がり落ちてしまう――そんな予感を覚えずにはいられない。


「かつて我らは、真なる敵に敗北した。数多くの同胞が今も彼奴(かやつ)らの支配下にある。彼奴らを討ち滅ぼし、同胞を解放することこそが、我らに課せられた使命である」


 人型をした深淵が淡々と語り始める。


「この地を征服したのは戦力を整えるためだ。遺棄された旧時代の遺物が手に入ればあるいは……そう思ってな。だが、この地に眠るゴーレムは戦力として不十分過ぎた」

「んじゃあ、ゴーレムを兵器にしてたのは何のためだ。使えねぇモンをわざわざ掘り返して直したのか?」


 ガーネットは俺が言いたかったことを無遠慮に投げつけてくれた。


 地下にいるという真の敵とやらにゴーレムは通用せず、既に『魔王城領域』の征服も完了していたならば、ゴーレムを兵器として魔王軍に組み込む意味はない。


 ならば、ゴーレムが通用する相手との、人間の王国との戦闘を想定していた、と考えるより他にないだろう。


「我らが次に目をつけたのは、この地に生息する最強の魔獣、ドラゴンだった。しかし、ドラゴンの制御技術の確立は困難を極め、戦略の中心に据えることはできなかった」


 ガーネットの問いかけに対する返答はなく、淡々と発言が続けられる。


 この話を聞き続けていれば分かることだ――言外にそう告げているかのようだった。


「故に、ドラゴンが持つ力を他の生物に移植する、という発想に至ったのだ」

「…………っ!」

「しかし、これもまた容易ではなかった。我らの同胞やドワーフを用いた実験は、遂に成功することはなかったのだ」


 ドラゴンの力の移植と聞いて、ファルコンやジュリアを思い浮かべないわけがない。


「転機となったのは、迷宮を抜けて迷い込んだ人間を『使った』ときだった」

「まさか、勇者パーティが……」

「否、それよりも以前に捕獲した別個体である。第二および第三被検体……貴様らが勇者と呼んだ者達は素晴らしい素体であったが、研究自体はそれ以前にほぼ完成していた」


 勇者ファルコンに先立って『奈落の千年回廊』を踏破した人間がいただなんて話、俺はこれまでに一度も聞いたことがない。


 だが、聞いたことがないというのは、存在しないということを意味しない。


 ダンジョン攻略においては、踏破はしたが生還できなかったという事例は珍しくも何ともないのだから。


「第一被検体を用いた成果により、我らやドワーフよりも属性的な偏りの少ない人間であれば成功しうるとの仮説に至ったのだ」

「人間であれば、ドラゴンとのキメラを生み出すことができる……そういうことか」


 ブランに召喚された改造兵士が全て人間だったことにも合点がいった。


 同族であるダークエルフはともかく、奴隷であるドワーフを使わなかったのは不自然に感じたが、単に実現不可能だったからに過ぎなかったのだ。


 そして、いくつかの謎も解けた。


 魔王軍が『真の敵』とやらに通じないはずのゴーレムを戦力化していた理由も。


 これまでの黄金騎士団との戦闘に、あの改造兵士達が投入されなかった理由も。


「魔王ガンダルフ! お前は、お前達はまさか……改造兵士の材料を集めるために、人間をかき集めるために地上侵攻の準備をしていたのか……!」

「然り。よもや迷宮以外に地上へ通じる道があり、人類の軍勢に先手を打たれるとは思っていなかったがな」


 過去に魔王軍を敗走させた『真の敵』――


 それを打倒する戦力としてドラゴンをコントロールする研究――


 研究の末に生まれた、人間とドラゴンを合成させた改造兵士――


 素材収集のための地上侵攻を念頭に兵器化されたゴーレム――


「(なんてこった……繋がった、全てが一本の線に……!)」

長くなりそうだったので二分割にさせていただきます。

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