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第128話 脱出目前の大混戦

「嫌ですよぉ、勇者様ったら。せっかくの待ち伏せが台無しじゃないですかぁ」

「……ブラン……!」


 最後尾のノワールが白髪の女の名を叫んだ瞬間、黄金牙の騎士達が一斉に武器を構えた。


 白魔法使いのブラン。

 勇者パーティの元メンバーにして、ノワールの双子の妹。


 魔王軍に囚われた後に、自らの意志で魔王の軍門に下って王国に敵対した裏切り者。


 その事実は当然ながら黄金牙騎士団にも伝わっている。


 彼らが臨戦態勢を取ったのは当然の対応だ。


「まぁ、怖い怖い。姉さんと思い出話に花を咲かせる暇もないなんて。出し惜しみなんかしたら殺されちゃいますね」


 ブランはわざとらしくそう言いながら、袖をまくって左腕を露出させた。


 白く細い腕に植物の根のようなものが張り巡らされている。


 呪印と似た何か、あるいは未知の呪印か。

 いずれにせよ、魔法的な紋様であることは疑いの余地もなかった。


「させるか!」


 二人の騎士が武器を手に跳躍し、更にメリッサが火炎弾の魔法を放つ。


 しかし、それらがブランに届くよりも早く、伸ばした左腕の先に複数の立体的な魔法陣が展開した。


 魔法陣から飛び出してきた異形の兵士達が、騎士の剣撃とメリッサの魔法を防ぎ止める。


「陛下がくださった試作の魔法紋と試作の改造兵士……これくらいはないと不公平よね。あなた達の方がずっと人数が多いんですもの」


 ブランの魔法陣は更に数体の兵士を吐き出してから消失した。


 頭数はあちらの方が半分程度だが、あえてこの数で止めたということは、数の差を質で埋められる自信があるということだろう。


 だが、そんなものは些細なことでしかない。

 もっと重大かつ深刻な問題が目の前に広がっているのだ。


「白狼の……あいつらまさか……」

「……ああ。ファルコンの量産型って感じだな」


 ブランが呼び出した兵士は、その体にドラゴンの翼と尾を生やし、かつてのファルコンを思わせる仮面を身に着けていた。


「さぁ、皆さん。陛下からいただいた最高の力、勇者様達に見せつけてあげてください」


 その言葉が合図になったかのように、改造された兵士達が一斉に襲いかかってくる。


 俺と拘束されたファルコンを除く皆は即座に戦闘態勢を取り、それぞれの攻撃手段で兵士達を迎え撃った。


 期せずして始まった集団戦闘。

 戦いの趨勢(すうせい)は俺達の有利で進んでいるが、人数の優位があるにも関わらず優勢止まりであると考えると、決して楽観視できる状況ではない。


「おらぁっ!」


 騎士達の合間を縫って突っ込んできた兵士を、ガーネットが間髪入れずに斬りつける。


 それでもなお倒れない兵士に強烈な回し蹴りを叩き込み、乱戦の外へと弾き飛ばす。


「ちっ……! なんつータフさだ!」


 兵士が着地した瞬間、斬撃で破損していた仮面が外れて床に落ちる。


 露わになったその素顔を見たガーネットは、途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。


「こいつら……人間か……!」


 肌を鱗に侵食され、瞳をドラゴンの爬虫類的な眼球に置き換えられているものの、その原型がファルコン同様に人間であることは疑いようもなかった。


 彼らの表情から人間的な理性は感じられない。

 少し前に交戦したジュリアがそうであったように、理性を獣性で塗り潰されて、魔王軍の猟犬に仕立て上げられてしまったかのようだ。


 黄金牙のヘイゼル隊長もまた、怒りを押し殺した様子で同意を口にする。


「ああ。しかも、戦いの中で行方知れずになった黄金牙の騎士だ。遺体の見つからぬ形で果てたものだと信じていたが……よもやこのような辱めを受けていようとは……」


 ぎりり、と音が聞こえそうなほどに強く拳を握り込み、部下の騎士達に力強く号令を下す。


「迅速に討ち果たせ! 同志達に安息を与えるのだ!」

「おおおっ!」


 黄金牙の部隊の士気が急上昇し、互角に近かった戦況が一気に優位へと傾いていく。


 そして遂に、サクラが一人目の改造兵士を斬り伏せた。


「一人目ッ! 次ッ!」


 勢いのままに押し切るべく標的を切り替えた直後――倒されたばかりの兵士がゆらりと起き上がった。


「サクラ! 後ろだ!」

「……つっ!」


 振り向きざまに振るった刀が、不意打ちの一撃を受け流す。


 まさかこいつら不死身なのか?

 一瞬そんな考えが脳裏をよぎるも、すぐに打ち消す。


 もっと現実的で真っ当な理由があるはずだ。

 安直に不死身だと解釈するのは後でいい。


「再生……いや、回復……そうか! ブラン、お前だな!」

「あら、もうバレちゃった」


 改造兵士を召喚して以降、ブランは何も手出しをせずに、吹き抜けの二階部分から戦況を傍観していた――ように見えた。


 しかし実は傍観の振りをして、人知れず治癒魔法を発動させていたのだ。


 即座にアレクシアが大型弩弓(スコーピオン)を構えて呪装弾を放ち、サクラが【縮地】で肉薄を試みる。


「残念でした」


 ところが、呪装弾はあと一歩というところで白い光に包まれて停止し、仕込まれた魔法の起動すら封じられてしまった。


 更にサクラも見えない壁に遮られたかのように、バルコニーへ【縮地】で直接乗り込むことに失敗し、空中へ投げ出された。


「ここは私達の城なのよ。あらかじめ防御手段を仕込んであるに決まってるじゃない。でも、本気で掛かられたら突破されちゃうかも。だから……」


 次の瞬間、高い吹き抜けの頂上――ガラス張りの天井が外部から突き破られた。


「増援、呼んじゃった」


 割れたガラスの向こうに羽ばたく半竜半人。

 人間の面影を上半身のみに残したジュリアが、空中で大きく翼を広げて息を吸い込んだ。


「ガアアアアッ!」


 真上から吐き出される火炎の奔流。


 不意打ちの(ブレス)に対応したのはノワールとメリッサだった。


 二人が発動させた魔法がジュリアの火炎を相殺し、余波の熱風が吹き荒れる。


 間髪入れずに火炎の第二発が降り注ぎ、更なる熱波が肌を焦がす。


 あの高さまで魔法以外の攻撃が届くとすれば、アレクシアの大型弩弓(スコーピオン)くらいだろうが、こうも火炎が激しくては命中させるのは難しいだろう。


 もしくは、サクラとナギが移動スキルで肉薄するという手もあるが、飛行能力を高めた竜人相手に、正面から空中戦を挑んで勝てる保証はない。


「ジュリア……!」

「クソッ! 黄金牙! 俺を解放しろ!」


 アレクシアは変わり果てたジュリアを見上げて言葉を失い、ファルコンは多重拘束を自力で引きちぎらんと身を捩る。


「馬鹿を言うな! 自分の立場が分かっているのか!」

「あいつと同じように飛べるのは俺だけだな! それとも東方人どもを突っ込ませて捨て石にするか?」

「だが貴様は……」

「頼む、俺に行かせてくれ! 翼はまだ本調子じゃねぇが……あいつは俺が止めたいんだ!」


 ファルコンの口から放たれたことが信じられないような、心からの懇願の声だった。


 ヘイゼル隊長は苦悩の表情を浮かべ、そして決断を下した。


「ええい、やむを得ん! アレクシア嬢! ノワール嬢! ファルコンの拘束解除を――」

「必要ありませんよ」


 俺は拘束されたファルコンの背中を叩くように手を添えて、一気に【分解】と【修復】の魔力を注ぎ込んだ。


 拘束が【分解】されて砕け散り、負傷して歪んでいた翼が本来の形状を取り戻す。


「なっ……!」

「さんざん迷惑かけた分、死ぬ気で働いてもらうぞ。これだけじゃ迷惑料の一割にもならないだろうけどな」

「ルーク、お前……んなことされたって礼は言わ……いや……なんつったら……ああ、くそっ……!」


 ファルコンは見事に回復した翼を拡げ、上空のジュリア目掛けて一直線に飛び立った。


「話は後だ! 外で待ってやがれ!」


 ありがとうだの助かっただの、そんなことを言うだけでも一苦労なのか、あの男は。


 とにかく俺も戦闘に貢献しなければと思った矢先、ヘイゼル隊長がそれを否定するような提案をしてきた。


「ルーク殿。貴方はここを離脱してください」

「……ここは任せておけってことですか」

「ブランの役目は恐らく足止めです。貴方はご自分の仲間を連れて脱出を。その上で城壁を破壊し、増援を送り込んでいただくのが最善の一手です」


 突然の提案に戸惑いを覚えたが、否定する理由は思い浮かばなかった。


 ブランが俺達全員を一気に引き止めにかかった以上、全員がこの場に残り続けるのは、どう考えてもブランの思う壺でしかない。


「……分かりました。ガーネットとサクラを連れていきます。ご武運を」

「アレクシア嬢とノワール嬢もお連れください。我々なら大丈夫です」


 ヘイゼル隊長はそう言ってくれたけれど、俺は迷わず首を横に振った。


「あの二人は、自分の因縁と戦おうとしているところなんです。邪魔は出来ません。どうか二人をよろしくお願いします」

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