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第124話 二度目の脱出計画

 ――その後しばらくして、俺とガーネットが潜伏場所である住居の広間に戻ったところ、何やら黄金牙の騎士達が慌ただしく外に出ていこうとしていた。


「何かあったんですか?」


 建物内に残る様子のヘイゼル隊長に事情を尋ねる。


 もしも緊急事態が発生したなら、いくら何でも俺達に声が掛からないはずがないので、少なくとも危険が迫っているわけではないと思うのだが。


「実はですね、先ほどお教えした魔道具に反応がありました」

「ナギが近付くと反応するっていう……?」

「ええ。ですので、彼をここへ誘導するために部下を外へ向かわせたところです」


 なるほど、道理でメリッサがそわそわしているわけだ。


 メリッサとナギは俺達と知り合う前からのパートナー関係で、少なくともメリッサの側は相手に恋愛感情を抱いている節がある。


 そんな相手が危険な任務に従事していて、ようやく自分の目で無事を確かめられるのだから、浮足立つのも無理はない。


「部下達もすぐに戻ってくると思います。しばらくここでお待ちください」


 促されるまま広間で待機していると、数分も掛からないうちに金属甲冑の足音が近付いてきて、出ていったときよりも一人増えた集団が帰ってきた。


 もちろんその一人とは、魔王城に潜入していた小柄な東方人の冒険者だ。


「よかったぁ! ナギぃ!」


 我慢できなかった様子でナギに飛びつこうとするメリッサ。


 ナギはそれを高速移動系スキルで軽やかにかわし、勢い余って転びかけたメリッサを片腕で受け止めた。


「……おい、メリッサ。どうしてお前がこんな場所にいるんだ。ついてくるなって言わなかったか?」

「ち、違う違う! 今回は普通に雇われただけだから! 戦力として! ねっ、ヘイゼル隊長!」


 メリッサは転びかけた体勢でナギに支えられたまま、首と手を同時に横に振った。


 急に話の矛先を向けられたヘイゼル隊長は、ナギから半信半疑の視線を向けられながら、軽く咳払いをしてから事情の説明を始めた。


「彼女は優秀な元素魔法使いですので、四魔将の属性攻撃に対するカウンターとして協力を要請しました。実際、嵐のアウストリの攻撃を受け止めることにも成功しています」

「まぁ……ラッキーっておもったのはホントだけど」

「……まったく」


 ナギはメリッサをきちんと立たせてから、改めて俺の方に向き直った。


「何があったのかは黄金牙騎士団から伺いました。帰還したばかりの四魔将の居場所まではさすがに把握できていませんでしたが、まさか地下水路に潜んでいたとは」

「いくらなんでも想定外だったな。他に使えそうな経路はないのか?」


 世間話はせずにすぐさま本題に入る。


 いつまでもこの場所がセーフゾーンである保証はない。

 むしろ、早かれ遅かれ魔王軍に発見されてしまう、という前提で行動しなければならないだろう。


 ナギも当然ながらそれは承知の上だったようで、すぐに代替案を提示してきた。


「今のところ魔王城の三割ほどしか把握できていませんが、代替の脱出経路を二つ提示できます」

「流石だな。どんなルートなんだ?」

「露見の可能性が低い代わりに脱出自体の難易度が高い経路と、確実に見つかるもののやることは単純な経路です」


 先ほど失敗した地下水路ルートは、嵐のアウストリの出現さえなければ、見つかりにくく簡単な脱出経路だった。


 やはり他の選択肢は、それと比べてリスクが大きくなってしまうようだ。


「発見されにくい脱出経路は、この場所から見て反対側の城壁を越える経路です。城壁の向こうは深い断崖になっていて、包囲網も展開されていないので、警備も皆無に近いレベルで手薄です」

「おいちょっと待て」


 すかさずガーネットが口を挟む。


「城壁は【分解】で穴をぶち開けりゃいいとして、そっからどうやって安全圏まで逃げんだよ。オレ達は空なんざ飛べねぇぞ」

「崖と城壁の間に狭い地面がある。普通に歩くには少々厳しいが、うまくやれば落ちずに脱出できるだろう」


 ナギが手元の紙に描いた簡易図によると、城壁まで気付かれず確実に接近できるポイントから狭路の終わりまで、普通に歩いて二分か三分程度の距離があった。


 それより距離を詰めて城壁に近付こうとすれば、防衛部隊の後方の兵士に見つかって失敗する恐れがある。


 普通に歩いて二、三分なら、狭い足場を慎重に進めばその数倍――確かにこれは難易度の高い脱出経路だ。


「霧隠。もう一つ問題があるぞ。勇者の存在だ」


 今度はサクラが指摘を加えてきた。


「奴が脱出に協力的なら成功率は上がるだろうが、そうでなければ厄介だ。何とか昏倒させて運ぶとしても、そんな大荷物を担いで通り抜けられる道ではないだろう」

「承知の上だ。そもそも、勇者ファルコンが現れたと知る前に見繕った経路だからな」


 ナギがファルコンの出現を知ったのは、どんなに早くてもついさっきのことである。


 それを考慮して経路を考える時間的余裕は、全くなかったはずだ。


「もう一つの案は正面突破です。防衛網の薄いところを内側から突破し、城壁に穴を開けて包囲部隊と合流する方針ですね」

「確実に見つかるけどやることは単純……間違いなくそのとおりだな」


 思わず納得の声を漏らす。


 考え方としては、俺が魔王城へ連れ去られる前に奇襲を仕掛けてきた、魔王軍の四魔将の行動と同じだ。


 奴らは攻撃を終えた後、魔王城を包囲する騎士団の部隊に背後から攻め掛かり、城側の防衛部隊と連携して突破を果たし、魔王城への帰還を成功させた。


 要するにナギの二番目の提案は、これを逆向きにやるというものだ。


「最初、俺達は三人しかいなかったからな。そういう強硬手段はとてもじゃないが取れなかったけど……」

「今は私達もいますからね! 戦力は充実してますよ」


 俺が言おうとしたことを、アレクシアが横から割って入って代わりに口にする。


 黄金牙騎士団の部隊も含めれば、戦力として数えられる人数は三倍ほどに増えている。


 これなら多少リスクのある作戦にも挑戦できるだろう。


「上手く行けば内側から城壁に大穴をぶち開けて、攻城作戦を一気に進められるかもしれないな」

「おい、白狼の。あんまり色気とか出すんじゃねぇぞ。お前を無事に助け出すのが第一なんだからな。そのためなら、勇者を置き去りにすることだって選択肢のうちだ」

「……ガーネット……」


 本当にそんなことをしていいのか、と尋ねることはできなかった。


 ガーネットは銀翼所属の騎士という正体を隠しているし、そうでなくとも、眼差しの強さが本気であると明確に物語っていた。


「とにかく……どちらを選ぶにせよ、問題は勇者ファルコンの扱いだな」


 脱出経路について他の案は出そうにない。

 後はどちらを次の作戦として採用するかであり、ファルコンの取り扱いは避けては通れない問題だった。


「できれば生きた証拠として連れ帰りたいけど、起きるのを待って暴れられるのも面倒だし、かといって運んでいる最中に目覚められるのも……皆はどうしたらいいと思う?」


 まずは意見を募ろうとした矢先――奇妙な笑い声が広間に響いた。


「ククク……クハハ……ハハハ……」


 反射的に広間の隅へ振り返る。


 拘束されたままそこに横たわっていたはずの勇者ファルコンが、いつの間にか起き上がり、部屋の隅に有翼の背中を預けて座り込んでいた。

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