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第115話 魔王軍四魔将の秘密

「ジュリアに攫われる直前に土のヴェストリの【解析】が成功した。それで、倒された魔将が蘇る理由がようやく分かったんだ」


 俺の発言を聞いて、ナギだけでなくサクラとガーネットも驚きの表情を浮かべる。


 ヴェストリの【解析】をしてからずっと落ち着く暇がなかったので、この解析結果はまだ二人にも伝えていなかった。


「基本的な考えはこれと同じだと思う」


 黄金牙騎士団からのメッセージが入っていた鳥の剥製を拾い上げる。


「前に白魔法使いのブランが遠隔操作したマッドゴーレム……あれに組み込まれていた装置と同じものが、ヴェストリの肉体にも埋め込まれていた」


 魔王軍に寝返った勇者パーティの一員、白魔法使いのブラン。


 奴は地下にいながらにして、マッドゴーレムに埋められた特殊な装置を利用することで、ゴーレムの遠隔操作とそれを中継した魔法の発動を可能としていた。


 それらがヴェストリに埋め込まれていたということは――


「……世の中には、フレッシュゴーレムという代物もある。文字通り生物の肉で組み上げられたゴーレムだ。他のダークエルフの肉体を、ある種のゴーレムに見立てて遠隔操作しているんだとしたら……」


 三人の反応を確かめながら仮説の続きを口にする。


 人間とドラゴンを融合させるような生体改造が可能な連中なのだ。

 同族に何らかの魔法的機巧を埋め込むようなことも簡単だろう。


「奴らは蘇生しているんじゃなくて、新しい体を用意しているだけだったんだ」


 かつて黄金牙騎士団が回収した氷のノルズリの亡骸は、魔王軍の策略によって破壊された。


 恐らくあれは死体を破壊することが目的だったのではなく、死体に埋め込まれた遠隔操作装置を処分したかったのだろう。


 グリーンホロウは山と森に囲まれた町なので、装置の残骸を誰にも見つからないように隠すのは簡単だ。


「てことは、今のところ魔将は誰も死んじゃいなかったってことかよ。やってらんねぇな、クソッ」


 ガーネットが苦々しく吐き捨てながら、積み上げられた空っぽの木箱にもたれかかる。


 ナギも眉をひそめて言葉を失っていたが、すぐに頭を切り替えて疑問を投げかけてきた。


「だとしたらどうして、強行突破を図ってまで魔王城に戻ってきたのですか。別の肉体を遠隔操作しているなら、接続を切って放棄してしまえばいい話でしょう」

「霧隠と同意見なのは癪ですが、確かにそのとおりです。体を回収されたくなかったのだとしても、どこか遠くの岩山にでも逃げ込めばよかったのでは?」


 珍しくサクラもナギに同意を示す。

 二人の疑問はもっともだ。俺も最初は同じことを考えていた。


「あくまで俺の想像だが、マッドゴーレムと違って気軽に交換できない理由があるんだと思う。例えば……そうだな、元々の肉体と体格が近くないと戦闘能力が低下するとか」


 思いつきだけで構わないなら、理由は色々と思い浮かぶ。


 ダークエルフの肉体を『器』として使えるようにするために時間とコストが掛かり、ストックの数が限られている可能性もあるだろう。


 ならマッドゴーレムを『器』にすればいいのでは? というのは恐らく的外れな発想だ。


 ゴーレム経由で魔法やスキルを発動できるのは、ブランが実現できていたことからも明らかだが、基盤(ベース)となる身体能力まではそうはいかないはずだ。


 以前の戦いでノルズリが見せた超絶の身体能力――それをマッドゴーレムが再現できるとは到底思えない。


 そもそも、生物の肉体を強化するスキルをゴーレムに使ったところで、効果が発揮されるのかどうかも怪しい。


 となると当然、奴が『器』に求める身体能力の水準は、かなり高いものになると考えられる。


 要求性能を満たすダークエルフが希少なので、肉体を安易に使い捨てにできないというのは、かなり説得力のある仮説ではないだろうか。


「何にせよ、だ」


 ガーネットは不機嫌なままの顔をナギに向けた。


「最終的な判断は黄金牙に任せりゃいい。オレ達は情報を黄金牙に伝えて、白狼のを連れて魔王城から逃げる。これで充分だ」

「確かにな。だが、いっそこのまま内部から攻撃を仕掛けるのも一つの手じゃないか?」

「駄、目、だ」


 念入りすぎるくらいに強調を重ねながら、ガーネットが肩を怒らせてナギに詰め寄る。


 その圧力にナギは怯んだような反応を見せた。


「白狼のをこのまま戦わせるわけにはいかねぇな。黄金牙だって最前線じゃなくて後方で活躍させたいから、可能なら救出しろって言ってきたんだろ」

「わ、分かった。とにかく定時連絡の返信を送ろう」


 ガーネットの剣幕に押し切られた形で、ナギは大きな空の木箱を机代わりに返信を書き綴った。


 完成した手紙を鳥の剥製の腹に詰め直すと、その剥製はまるで生きている鳥のように動き出し、軽やかに羽ばたいて鉄格子付きの採光窓を通って飛び去っていった。


「脱出経路は俺が侵入したルートを使いましょう。警備兵は多少配置されていましたが、悟られずに侵入してきたので、増員されている恐れは低いはずです」

「それでも無防備ってわけじゃないんだな。気付かれずに脱出できるかどうか」

「まぁ、無理でしょうね。ですが、強行突破すればいいだけのことです。城の外にさえ出ればこちらのものなのですから」


 確かに、侵入時に発見されるのは致命的だが、脱出時であればそのまま逃げ切れさえすればいいのだ。


 ナギは余った紙に簡単な地図を描きながら、脱出経路についての説明を始めた。


「魔王城の地下にはダークエルフの居住区があります。住人は全て兵士か場内の労働者ですので、現在の居住区はほぼ無人のはずです」

「包囲に対抗するために根こそぎ動員されているからだな」


 人類側で喩えるなら、居住区はホロウボトム要塞か地上のグリーンホロウ・タウンに相当するのだろう。


 非番のときの生活はそこで送るが、任務中の休息は前線付近の陣地で取るので、いちいちそこまでは戻らない。きっとそういう場所なのだ。


 なので、戦力の殆どを包囲網対策に割いている現状では、居住区はほぼ無人になってしまっているわけだ。


「居住区はいくつかのブロックに分かれています。そして俺が侵入してきたブロックは小さな地下水路に隣接していて、その水路の上流を目指せば魔王城の外に出ることができます」


 紙面に描かれた図には、細い水路の横により一層細い通路が描かれている。


 恐らく水路の保守点検のために用意された通路なのだろう。


 だとしたら途中で扉や柵で塞がっているかもしれないが、俺達の場合は何の問題にもならない。


 力尽くで壊すなり【分解】するなり、対策はよりどりみどりだ。


「水路も通路もかなり細いので、大規模な部隊での侵入はできません。すれ違うことも困難な狭さですからね。ですがその分、配備されている兵も少人数なので突破は容易でしょう」


 ナギは地図を描いた紙を折り畳み、真剣な顔で俺に手渡した。


「俺は別の重要区画を調査しなければなりません。同行はできませんが、不知火とガーネットがいるなら問題にはならないでしょう。それでは、ご武運を」

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