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第111話 連携作戦

 増援部隊の先頭を行くサクラの馬に揺られながら、アレクシアが大型弩弓(スコーピオン)第二射の発射準備に取り掛かる。


 人間の子供くらいの大きさがある本体を【重量軽減】スキルで軽々と抱え、本体横のコッキングレバーを前後させて内部の撥条(ばね)仕掛けを作動させ、固い弦を素早く引き絞る。


 そして短い槍ほどもある矢を番え、土の巨人の左肩めがけて発射した。


 かなり不安定な騎乗射撃でありながら、矢は狙い過たず左肩に直撃、内側から小規模な魔力的爆発を引き起こした。


 着弾から間もなく増援部隊が到着し、サクラとアレクシアが俺の手前で馬を降りる。


「遅くなって申し訳ありません。あれはまさか、話に聞いた四魔将の一角の……」

「ええっ! でもそいつって冒険者に倒されたんじゃ!」

「冗談みたいな話だが、魔将は何らかの手段で蘇るかもしれないそうだ」

「は、反則……!」


 愕然とするアレクシアの横でサクラが薄紅色の刀を抜き放つ。


「ルーク殿。術者の位置は分かりますか。斬り伏せれば術の効力も途絶えるはずです」

「相手も対策済みだ。ヴェストリは巨大な土人形の中に潜って泳ぎ回ってる。ガーネットが両断しても効果なしだ」


 これまでに判明したことを簡潔に伝える。

 改めて言葉にすると本当に厄介極まりない状況だ。


 一体どうすれば奴を打倒できるのだろうか。

 真っ先に思いつくのは巨体をまるごと一撃で破壊することだが、はっきり言って現実性は無いに等しい。


 本体であるヴェストリの居場所を特定してピンポイントで仕留めるというのも、特定手段と攻撃手段の両方が揃わなければ机上の空論だ。


 あちらのリソース切れに期待するのは、もはやただの運任せ。

 作戦と呼ぶのもおこがましく、魔石などの魔力貯蔵や継続的な供給手段があるだけで即座に破綻する。


「(だけど、このままじゃ明らかにジリ貧だ。時間稼ぎが奴の目的だとしたら、なおさら急いで状況を打破しないと……)」


 客観的な視点から手段を考えるのは、才能や能力の有無に関係なく、安全圏にいる者の務めだ。


 最前線で戦っている者達には、そんな余裕など無いのだから。


「(ヴェストリの巨人に弱点はないのか? 何か……何かつけ入る隙は……)」


 土の巨人は復元と生成を同時にできないらしく、ガーネット達の攻撃による破損を復元している間は下半身の生成を続行できず、腰から上だけを地面から生やした状態で止まっている。


 しかし裏を返せば、ガーネットと騎士達は力尽きるまで休みなく攻撃し続けることを強いられているのだ。


「……待てよ。これならいけるんじゃないか?」


 とある閃きが脳裏を駆け抜ける。


 ヴェストリの現在位置を【解析】で把握し、それを最小限のタイムラグで伝達してピンポイント攻撃をさせる――この作戦を実現させられるかもしれない手段だ。


「試してみる価値はあるよな……! サクラ、これから説明する内容を【縮地】でガーネット達に伝達してくれ。それとアレクシア、お前にも頼みたいことがある」

「分かりました。お任せください」

「私にできることなら……やってみる!」


 作戦内容を手早くサクラに伝えて最前線へ送り出し、アレクシアと二人で後方から戦況の推移を観察する。


 サクラからの伝言を受け、ガーネット達の戦い方が変わった。


 これまではバラバラに攻め立て、とにかく下半身の生成を阻止することに躍起になっていたが、呼吸を合わせて共通した手順での攻撃に切り替えたのだ。


 地面に近い部位から総攻撃を始め、上に向かって少しずつ攻撃場所をずらしていくという形だ。


 それを確認して、俺とアレクシアもそれぞれが成すべきことを実行に移す。


「スキル発動、最大出力【解析】開始!」

「いきますよ! スコーピオン展開!」


 先ほどの【解析】と同じように地面に手を突き、周囲の地中と土の巨人の内部に【解析】を掛ける。


 相変わらず巨人の内部は魔力阻害が酷いが、どんなにノイズまみれであっても、ヴェストリの居場所さえ掴めれば問題ない。


 そしてアレクシアは大型弩弓(スコーピオン)を展開変形させ、威力、速度、射程の飛躍的な向上を図った。


 各所のロックが一斉に外れ、クロスボウとしての本体が伸長し、弓部分が広がり、弦も長く引き出される。


 門外漢にはどんな仕組みで動いたのか見当もつかない機巧により、スコーピオンが一回り近い大型化を果たす。


 更にアレクシアは金属の棺桶じみた収納ケースを展開して土台に変え、それにスコーピオンを固定して狙撃体制を整えた。


矢弾(ボルト)はノワールと共作の魔装弾! ま、呪符をきっちり巻き付けて固定しただけなんですけどね! 時間がなかったから本体は改造できませんでしたし!」

「充分だ! とびきりでかい火力を頼むぞ!」


 アレクシアに応えながら【解析】の維持に神経を集中させる。


 巨人の内部では、ガーネットやサクラ達の猛攻による破壊から逃れるようにして、ヴェストリが上へ上へと逃れている。


「(頭部まで追い詰めて仕留められるっていうなら、それに越したことはないんだが……そう簡単にはいかないよな!)」


 ヴェストリが一足早く頭部へ逃げ込んだ瞬間、土の巨人が両腕を奮って周囲の人間達を振り払う。


 本来であれば、この隙に頭部から別の場所へ逃れて全て台無しだが――


「撃てっ!」


 ――今は足りない一手を詰める手段がある。


 スコーピオンから放たれた魔装弾が土の巨人の首元に突き刺さり、凄まじい爆発を巻き起こす。


 土の巨人の頭部がちぎれて高く吹き飛ばされていく。


 俺はその瞬間にも【解析】を継続し、ヴェストリが胴体へ逃れていないことを即座に確かめた。


「ガーネット! 頭だ!」

「おうっ!」


 あれが地面に落ちるのを許せば、ヴェストリは間違いなく地中に潜って行方をくらましてしまうだろう。


 放物線を描いて落ちていく頭部めがけ、ガーネットが二発の魔力の斬撃を十字に重ねて繰り出した。


 土の巨人の頭部が四つの断片に断ち切られ、砕け散る。


 飛散する土砂の中には、腹部で両断されて鮮血を撒き散らす、老いたダークエルフの姿があった。


「が、あ、あああっ!」


 崩壊した頭部が地面に落ちたのと同時に、土の巨人の胴体も糸が切れた操り人形のように動きを止めた。


 そして末端から少しずつ崩壊し、ぼろぼろと崩れ落ちて単なる土へと還っていく。


 一瞬の間を置いて、騎士達の歓声が響き渡る。


 【解析】を終了させてその場にへたり込んだ俺に、アレクシアが飛びついてきて激しく肩を揺さぶってきた。


「やった! やりましたよ、ルーク君!」

「分かったから、耳元で騒ぐなっての」


 そっけない態度を繕ってそう言いつつも、胸の底から湧き上がってくる達成感を抑えることはできなかった。

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