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第110話 土の巨人を討て

「カカカ。失敗してしもうたわ。勘のいい童子(わらし)もいたものだ」


 大地を揺るがし、拠点の残骸を吹き飛ばしながら、地中から巨大な土人形が現れる。


 それはまさしく、魔王軍四魔将の一人、土のヴェストリが操る土人形を巨大化させた代物であった。


「下がってな、白狼の」

「悪い、ここは頼んだ」


 ガーネットがいち早く立ち上がって俺を庇うように立ちはだかる。


 俺が奴の間合いにいてもいい的になるだけだ。

 前衛をガーネットに任せ、ひとまず大きく距離を取る。


「さぁてと、ノルズリ相手のウォーミングアップにゃちょうど良さそうだぜ」

「カカカ。ずいぶんと小さく見られたものよなぁ」


 土の巨人の上半身が地面から生える形で実体化を完了し、両腕で地表を押すようにしながら、胸より下の部位を次々に形作っていく。


 おおよそ指の一本が人間の背丈に相当する巨体――はっきり言って尋常ではない。


 吸い上げられる土の量も尋常ではなく、周囲の地面が地響きを上げて土の巨人に引き寄せられていき、まともに立っていることすらおぼつかない。


 全身が完成すれば、人間の二十倍にまで達するのではないだろうか。


 これは明らかに魔将ヴェストリの切り札だ。


 魔王軍が本気であるということが否応なしに伝わってくる。


「ひょっとしたら、こいつもずっと前から地中に仕込まれてたのかもしれねぇな。だが、まだぶった斬れない規模じゃねぇぜ!」


 ガーネットはスキルで強化した身体能力に物を言わせて一気に間合いを詰め、腰回りまで実体化した土の巨人の腕を駆け登る。


 そしてミスリルの剣の魔力紋を起動させ、増大した魔力の斬撃で巨人の腕を肩口から両断した。


「もう一発っ!」


 立て続けに放たれた斬撃が巨人の首を叩き斬る。


 すぐさま離脱すべく跳躍したガーネットだが、健在だった残りの腕が、まるで羽虫でも叩き落とそうとするかのように振り抜かれる。


「おらぁっ!」


 しかしガーネットは空中で即座に魔力の斬撃を放ち、巨大な手が衝突する前にそれを手首から斬り落とした。


 軽やかに着地をこなし、反撃に備えて油断なく剣を構えるガーネット。


 土の巨人は既に片腕と片手、そして頭部を失った。


 だが、それが一時的な破損に過ぎないことは誰の目にも明らかだった。


「カカカ。未熟未熟。まるで足りんのぅ」


 斬り落とされて地面に落ちた部位が土に還り、そして断面から喪失部位が復元していく。


「ちっ、やっぱ一筋縄じゃいかねぇな」


 剣を肩に担ぎ、渾身の魔力を込める。


「これなら……どうだ!」


 垂直に振り下ろされた刃から放たれた魔力の斬撃が、実体化した土の巨人の上半身を縦に両断する。


「無駄無駄無駄……」


 しかしそれでもなお巨人の機能は停止せず、両断されたそれぞれの半身を自分の手で押し、元通りに接合させてしまった。


「もう終わりか? ならばこちらも動かせてもらうとしよう!」


 上半身だけの土の巨人が腕を振るう。


 たったそれだけで周囲の物体が根こそぎ薙ぎ払われ、建造物の残骸が凄まじい破壊力を帯びて飛散した。


 ガーネットは刀身の魔法紋を起動させて魔力防壁を展開、俺は破壊された壁の残骸と地面を【合成】して壁を造り、殺傷力を帯びた破片を防ぎ止める。


 他の騎士と兵士もそれぞれ異なる方法で防御し、回避し、迎撃していたが、不幸にも対応しきれなかった二、三人がたったの一発で吹き飛ばされ昏倒した。


「脆い脆い、ぬるいぬるい! この程度で儂らに抗えると思うたか!」


 その間にも、土の巨人は地面に埋まった下半身を抜こうとするかのように、両腕で地面を押しながら腹部と腰部を生成していく。


 再生能力を持つあんな巨体が解き放たれたら、間違いなく大変なことになる。


 城下町の駐屯地や俺達の野営地に殴り込まれてしまえば、たとえ撃破に成功したとしても、甚大な被害を被ることになるだろう。


「させるかよっ!」


 ガーネットが再び土の巨人に飛びかかり、更に他の騎士達も四方八方から攻撃を加える。


 どの一撃も人間大のストーンゴーレムなら容易く粉砕する威力を持っているはずだ。


 しかし彼らの総攻撃をもってしても、土の巨人の再生能力を上回るには至らない。


 それどころか、再生速度が先ほどよりも格段に上昇しているようだった。


 下半身の生成こそ止まっているが、このままでは明らかにこちらが先に力尽きてしまうだろう。


「(くそっ、さっきまでの再生は本気じゃなかったってことか!)」


 俺は戦闘の推移を離れた場所から観察しながら、突破口を見出すべく思考回路をフル回転させ続けた。


「カカカ……儂のような老体が魔将の座に在り続けることができた理由、骨身に染みたか? 四魔将はただの一人の例外もなく一騎当千……儂を討ちたくば千の軍勢を削り切るつもりでなければなぁ」


 嘲るようにヴェストリが笑う声がする。

 反撃をせずに再生だけで対処し続けていことすら、単なる余裕の現れでしかないと言わんばかりに。


 本人の姿は見当たらないが、居場所にはおおよそ見当がつく。


 俺は地面に片手を突いて、ポーチに入れた魔石の魔力を思いっきり引き出しながら【解析】を発動させた。


 【解析】対象は地面そのものと、それに直結した土の巨人の体だ。


 本来ならとてもじゃないが魔力が足りない大規模な【解析】だが、魔石の力を借りれば辛うじて実現させることができる。


「地中に不審な影は見当たらない……あのデカブツの中は……つっ!」


 阻害が激しくて内部を正確に【解析】することができない。


 しかし、充分な判断材料を垣間見ることはできた。

 土の巨人の内部を、人間大の異物が遊泳している影が見えたのだ。


「ヴェストリはデカブツの内側だ! 自由自在に居場所を変えている!」

「地中を潜ってたっていうスキルか! けど、場所がコロコロ変わるんじゃ、何の参考にもならねぇな!」


 ガーネットが吐き捨てるように言ったとおりだ。


 背丈が人体の二十倍ということは、体積は実に八千倍にも達する。

 下半身が形成されていない点を加味しても四千倍はくだらないだろう。


 それほどの質量の土中を縦横無尽に動き回っているのだから、居場所を特定して攻撃するのは極めて困難だ。


 俺が【解析】で場所を掴んでも、それを皆に伝えたときには既に別の場所へ移動されているに違いない。


「もっと根本的な……決定的な手段が必要だ……!」

「カカカ。そろそろ気が済んだか?」


 土の巨人が右腕を高く掲げて拳を握る。


 あんな拳の一撃に叩き潰されたら間違いなく即死だ。


 右腕を斬り落とそうとする試みも、本気の再生速度の前にはとても間に合わない。


「では、死ねい!」


 右腕が振り下ろされようとしたその瞬間、後方から飛来した短い槍のようなものが右腕に刺さり、同時に凄まじい爆発を引き起こした。


「むうっ!」

「なんだぁ!?」

「まさか、今のは……!」


 ヴェストリもガーネットも突然の出来事に驚愕する中、俺はすぐに援護射撃の正体を悟って振り返った。


 野営地の方角から駆けつける数騎の援軍。


 先頭を走る騎馬の手綱はサクラが握っており、後ろにはアレクシアがまたがっている。


 そしてアレクシアが片腕で抱えているのは、大型弩弓のスコーピオン。


「ルーク殿! 今参ります!」

「よし、直撃っ! ノワール! 魔装弾の出来栄え、最っ高ですよ!」

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