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第109話 結界石を【修復】せよ

「なんっ――だぁ!?」


 轟音と衝撃で強制的に眠りから引きずり戻され、簡易寝台から跳ね起きる。


 隣で眠っていたガーネットも既に臨戦態勢を整えており、天幕の外の気配に対して油断なく気を研ぎ澄ましていた。


「敵襲か? いや、それにしちゃ様子が……」

「何かあったのは……魔王城の方角か?」


 互いに頷きあって天幕を飛び出す。


 外はまだ夜明け一歩手前の薄暗さで、岩の天井がほんのりと明るさを取り戻しつつあるところだ。


 野営地が襲撃を受けている様子はなかったが、兵士や騎士、そして防衛担当の冒険者達が忙しなく駆け回り、安全が確認されるまで天幕から出ないように呼びかけていた。


 その一人を呼び止め、一体何が起きたのかを問いただす。


「ま、まだ詳しいことは分かりません! ですがどうやら、城下町を囲むドラゴン避けの結界が破壊されたようなのです!」

「何だって……!?」


 魔王城の城下町にはドワーフの避難キャンプと、黄金牙騎士団の包囲部隊の駐屯地が存在している。


 それを囲む結界が失われたということは、ドワーフと騎士達がドラゴンの脅威に晒されることを意味する。


 こいつは明らかにまずい事態だ。

 せっかく魔王軍を城に閉じ込める形での包囲を完成させたのに、ドラゴンという野生の脅威に背後から襲われることになってしまう。


「白狼の。確かここのドラゴンって……」

「ああ、基本的に昼行性だ。そろそろ朝飯を探して飛び回るぞ」


 結界石が破壊されて効力を喪失したのなら、間違いなく迅速な【修復】要請が飛んでくるだろう。

 だがその後で出発準備をしても遅すぎる。


 呼ばれる前に全ての準備を済ませておくべく、俺とガーネットは天幕に取って返して大急ぎで装備を整えた。


 そしてちょうど準備を終えたところで、天幕の外から俺を呼ぶ声が投げかけられた。


「ルーク殿! 部隊長から要請が!」

「分かった、今行く!」


 天幕を出て用意されていた馬に飛び乗り、騎士の護送を受けながら城下町の廃墟へと急行する。


 騎乗が上手くない俺はガーネットの後ろに乗せてもらっているが、騎士達は甲冑を身に着けているので、重量と速度の面ではさほど変わりはない。


「おい、黄金牙! 状況はどうなってんだ!」

「未だに情報が錯綜している! だが城下町の結界石が四ヶ所とも同時に破壊されたのは確かだ!」

「同時にだぁ!?」


 ガーネットの怒鳴るような問いに、騎士の一人が苛立ちを隠しもせずに返答する。


 苛立ちの原因は明らかにガーネットではなく、唐突に発生したこの異常事態であるようだった。


「魔王城は完璧に包囲して、徹底的に監視して! 伏兵がいねぇかどうかも調べまくって! 結界石の守りも固めて! それでも不意打ち食らってぶっ壊されたってのか! しかも同時に!」


 全速力で走る馬に揺られながら、ガーネットが全ての疑問を一気にまくし立てる。


「現状把握が追いついていないと言っている! それにごく少人数の斥候であれば潜伏の可能性もあった!」

「黄金牙の部隊はそんな数にやられるような練度じゃねぇだろ! 相手が魔将ならまだしも――」


 ガーネットは自分自身の発言に息を呑み、そして苦々しく奥歯を噛み締めた。


「――それだ。間違いねぇ」

「何だって?」


 俺が肩越しに詳しい説明を求めると、ガーネットは他の騎士達にも聞こえる声で答えた。


「きっと、魔王軍は魔将を城から出した状態で籠城を決め込んだんだ! 少数行動なら見つからずに潜伏していられるし、ノルズリ並の強さなら結界石の防衛部隊も突破できる!」

「それだと、今の魔王城には最高戦力がいないってことか!?」

「多分な! とんでもねぇクソ度胸だぜ、魔王って奴は!」


 魔王軍は城下町を破壊してドワーフを締め出し、自ら進んで魔王城に引きこもって籠城の構えを取った。

 黄金牙騎士団が魔王城を包囲したのはその後である。


 騎士団が徹底的な包囲網を敷いたことにより、気付かれることなく人員を外に送り出すことは不可能となった。


 包囲前に伏兵部隊を仕込んでいたとしても、念入りな索敵の目を逃れることは極めて困難で、隠れられる可能性があるのは極めて少人数の集団か単独行動のみ――


「(けど、ガーネットの仮説ならその隙間を突ける!)」


 単独でも桁違いに強い四魔将を、包囲される前に城の外に潜伏させておいて、任意のタイミングで強襲させる。


 これなら確かに、黄金牙騎士団の警戒網を潜り抜けて強烈な一撃を見舞うことができるだろう。


 だが、どう考えてもハイリスクハイリターンの戦術だ。


 魔王ガンダルフと魔王城を守る最高戦力を潜伏させる作戦である以上、防衛力は著しく低下せざるを得ない。


 つまり魔王ガンダルフは、自分自身の命を危険に晒すことすら厭わずに作戦を仕掛けてきたのだ。


「黄金牙! 討ち取った魔将の後釜が決まったって情報はあるのか!」

「これは機密事項だが、私の権限で公開する! 魔将の蘇生を示唆する情報がドワーフから得られた! 魔将ノルズリとの再交戦の可能性も考慮してもらいたい!」


 魔将ノルズリ――その名を聞いた瞬間、ガーネットが露骨に舌打ちをした。


 かつて、ガーネットとサクラは氷のノルズリに敗北した。


 辛うじて俺の手で討つことができたものの、あれは奇跡のような偶然が積み重なった末のジャイアントキリングだった。


 ノルズリにもう一度通用する可能性は、間違いなくゼロだ。


「心配すんな。今度は負けねぇよ」

「頼りにしてるぞ」


 小声でそう言ってガーネットの肩を掴む手に力を込める。

 ガーネットはそれに応えるように馬を加速させた。


「白狼の森のルーク殿! これから向かう先は、既に戦闘が終了した場所です! 襲撃者の姿はありません! 一秒でも早く結界石の【修復】をお願いします!」

「分かりました! 任せてください!」

「行くぜ、白狼の。魔王の企み、ぶっ潰してやろうぜ!」


 それから一分と経たないうちに、結界石を防衛していた小拠点に到着する。


 小拠点は地面から突き出した無数の巨大な岩の棘に蹂躙され、地上建造物が全て崩壊させられ、砕けた大型結界石が完全に野ざらしになっていた。


 ガーネットの巧みな手綱さばきで騎士や兵士の間をすり抜け、拠点の建造物の残骸を飛び越えて、結界石のすぐ手前までたどり着く。


 俺は転がり落ちるように馬から飛び降り、ガーネットも素早く下馬する。


 ポーチを叩いて魔石の魔力自動供給機構を起動させ、砕けた結界石に【修復】の魔力を注ぎ込む。


 砕ける過程を逆にたどるようにして、瞬く間に大型結界石が元通りの場所に鎮座する。


 そしてドラゴンすらも追い払う魔力の波動が発せられ、機能の完全復旧を全ての兵士に知らしめた。


「よしっ、次だ!」


 結界石の側を離れてガーネットの方へ駆け出した次の瞬間、足元の地面が激しく振動して思わず転びそうになる。


「ぐっ……!」

「危ねぇ! 白狼の!」


 突然、ガーネットが突っ込んできて俺を突き飛ばし、そのまま抱きついたまま地面を転がった。


 その直後、一瞬前まで俺がいた場所から巨大な『腕』が突き出てきて、地面にあったモノを握り込んだ。


「カカカ。失敗してしもうたわ。勘のいい童子(わらし)もいたものだ」


 大地を揺るがし、拠点の残骸を吹き飛ばしながら、地中から巨大な土人形が現れる。


 それはまさしく、魔王軍四魔将の一人、土のヴェストリが操る土人形を巨大化させた代物であった。

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