地上
地上の3年間になります。
あの日から3年以上が経った。
だれが三年前に俺が地上のリーダーになっていることを予想できただろう。そしてそれは俺にとってはとても長い3年間でもあった。
生き残る術を探しながら夢中で山を駆け巡っていたおれは、小さな家を見つけて転がり込んだ。幸いにもそこの家の持ち主は優しくおれを受け入れてくれた。それが源さん一家だった。
源さんを初め、トメさんそして千夏はおれをまるで家族の一員のように接してくれた。詳しい事情は聞いてはいないが、千夏は源さん達の孫だ。息子娘夫婦がどうしたのかは分からない。たまたま千夏を預けている間に運悪く生き延びれなかったのか。前から千夏を預けたままいなくなったのか。聞くことは今の俺たちの関係を壊してしまう気がして怖くて聞けなかった。
どちらにせよあの日を迎えてからはそんなのはもはや関係なかった。一緒に暮らしていればいかに源さん達が千夏を大事に思っているかが伝わってくるし、本当に俺のことも大事にしてくれている。何もかもが変わったあの日から強がっていた自分の面影はなくなり、生きる希望をも諦めかけた俺を源さん達は救ってくれた。ここで一生暮らすのもそれはまた運命だったのかもしれない。なら抗わずにここで生きよう、そう思った。
しかし同じ日々は決して続きはしないのだ。そして一年ほどたったあの頃、いつも通りに過ごせると信じていた頃にまた異変が起こった。
「にいちゃん!今日は川行こっ!」
朝の畑仕事をようやく終えて横たわっていた俺をゆさゆさと揺すってくるやつがいた。
「勘弁してくれよー千夏…今やっと作業終わったところだぜ?」
少しでも源さんたちの役に立つためにおれは毎朝畑の手伝いをしていた。
「今しかないの!朝じゃないとお魚さんたちがお日様を避けて岩に潜っちゃうのー!それににいちゃん寝始めたらお昼過ぎまでずっーと寝てるじゃん‼」
この間約束をすっぽかして1日中寝てた事を根に持たれているな。
「これっ純也!若いもんがそんなゴロゴロしとるでないわ!朝飯食べたらとっとと遊んであげておいで」
トメさんまでも千夏の味方をする。
「はいはい、朝飯食ったらね。」
そういいながらおれはいそいそと作業用の服を脱いで柵にかける。
千夏が急いで急いでとはっぱをかけてくるからかきこむ形になってしまったけど、朝飯はいつも通り旨かった。一人暮らししている時とは比べ物にならない深みがあった。食い終わるとおれと千夏は少し歩いた所の小川に行った。ここらへん一体の山は彼女を飽きさせない遊び場となっていた。もちろんもはや日焼け止めなんてものも手に入りはしないから、一日中遊びまわっている千夏の肌は少女というよりはまるで少年のように薄く茶色に焼けていた。
「おーい、そんなに走ると帽子が飛んじゃうぞ‼」
「大丈夫大丈夫!ちゃんとひもで止めてあるからー」
彼女は麦わら帽子を軽く手で押さえながら小川に沿ってかけ上がって行った。あとからついていくおれはバケツを手に追いかけて行った。
「見てみて!お魚さん!」
千夏がのぞき込むように水面に顔を近づける。
「落ちないように気を付けろよ。」
たぶん言っても無駄なのだろうと思いつつ、ひやひやして片目で追いかけながら、おれはその辺で良い具合の葉っぱを探してはバケツに入れていった。しばらくすると 予想通り千夏が全身から水を滴らせながら魚を手に帰ってきた。
「また川に飛び込んだな?」
「だって捕まえようとしたら逃げちゃって…届かなかったんだもん。」
多少申し訳なさそうにはしてるものの反省の色は見えない。それよりも捕まえた魚を見てみてと言わんばかりに両手をつきだしてくる。よくもまあ素手で魚が捕まえられるもんだ。
「このバケツにいれてあげな。」
さっき枝葉を少し入れたバケツに川の水を汲んでおいた。
「こうやって葉っぱを入れておくと魚がバケツから跳ねて逃げにくくなるんだ。」
へーっと行った感じで捕まえてしまった魚にあまり興味はないのか、ポチャンと魚をバケツに入れると、また川にたたっと戻っていってしまった。やれやれまたばあちゃんに川に入らないようにちゃんと見ときなさいって怒られるな。
それにしてもなんで魚達はこの川に生息していられるのだろうか?下流域はガスで汚染されているはずなのに。この上流部だけに生息しているのだろうか、それとも水中が毒素の影響を受け憎くて下流域でも活動できているのだろうか?どちらにせよこの川で魚が取れてなおかつ毒素を含んでいないと言うことは食料の面からは非常にありがたいことだった。
「今日のお昼はお魚さんだね!」
結局合計5、6匹を捕まえたあたりで千夏は満足したようだ。だいぶ重たくなったバケツを持ちながら俺たちは家に帰った。
「えらい捕まえてきたなー」
源さんは嬉しそうに報告する千夏の頭をなでながらバケツをのぞき込む。
「ほいじゃ、昼飯にしよか。」
捕まえた魚はやや小さめのものだったから素揚げにしようということで落ち着いた。米はなかなか手に入らないから雑穀と芋に小魚の素揚げに澄まし汁。小魚は意外と骨がしっかりしていてよくかまないと飲み込めなかった。
「お魚さん骨かたーい...」
千夏がしかめっ面をしながら魚を手にしていた。
「よーく噛んでからお食べ。のどに骨がささると死んじゃうことだってあるんだからね。」
トメさんの脅しがよく効いたのか千夏は可愛いくらいよく噛んでから呑み込んでいた。
昼飯を食べ終わると俺と源さんは再び農作業に戻った。畑にはなんだかんだと毎日やることがある。1年以上手伝ってもいまだに自分だけでは何をするべきかはわからない事が多い。作業が大方片付いて脇道に二人で腰を下ろしながら水筒のお茶を飲んでいる時だった。
「純よ。」
深刻そうな顔をして源さんがこっちを向いた。
「お前には言っておかねばならぬと思っていたが、やはり我々の一家だけで生活するのはなかなか厳しい。去年の冬までは何とか越したが、もう一回冬を越すのは至難の業だ。どうしても他の集落に協力してもらわねばならん。他の山にもわし等と同じように生き延びた人達が絶対おるはずだ。」一息ついて源さんはためらいながらも続けた。
「...だから今後のためにも彼らを探しにいこうと思う。」
こちらを見てくる目はとても険しく、真剣な表情だった。
「それならおれが行ったほうがいいじゃん?若いし多少食べなくたって大丈夫だし。源さんたちだけじゃ心配だよ。」
「わし等もいろいろ考えた上での結論だ。第一、ここら辺の山は隅々までわしらは知っておる。あてもなくおまえさんが闇雲に走ったところで集落などそうそう見つかるものではない。」
「でもおれだって、」
反論しようとするおれを制するように源さんは言う。
「それにお前さんには千夏の面倒を見てもらわねばならん。千夏は連れて行けん。なら誰が面倒を見る?もしお前になんかあったら千夏はわし等がいなくなったあとに一人で生きていかねばならなくなる。そんなことはできん。リスクを冒すのはわしらだけで十分。」
源さんの目には強い決意の意志があった。
「明日の朝早くにばあさんとわしで出かける。くれぐれも留守は頼むぞ。」
俺は何も反論できずに、ただうなずくしかできなかった。
源さんたちは数日分の食料をもって出かけていった。当然しばらくしたら戻ってくると信じていた俺たちはずっと待っていた。千夏と二人で精一杯やれることをやりながら毎日を過ごした。千夏もすこしは畑仕事を手伝ってくれることもあった。でも一週間たっても源さんたちは帰ってこなかった。
さすがに異変を感じたおれはどうするべきか悩んだ。留守を任されたおれがここを出てもいいのだろうか。第一千夏はどうする。千夏の安全こそがおれが最も守らなければならないことだ。それでもおれは源さんたちを探しに行くと決めた。ここに残っていてもいずれ食料は尽きてしまうし、まだおれだけでは畑作業も十分にはできない。実際のところ多少無理してでも遅かれ早かれここからでる以外選択肢がないのだ。そして源さんたちになにかあったと考えると出るなら早い方がいい。
「千夏、明日はおでかけだ。小さいカバンに荷物まとめとけよ。」
「おでかけ?やった!」
まるで遠足の前日のようにいそいそと千夏は準備を始めた。千夏に現状を説明するのはまだ早い。まだ源さんたちがどうなったかは確定したわけではないのだ。俺は俺で必要なものをしっかりと考えて荷物を作らなければならなかった。食料はもちろん、数日寝る場所が確保できないかもしれないから簡易型の寝袋を。千夏が歩けなさそうな地形もあるだろう。抱っこ紐のようなおぶれるものはすでに準備してある。
準備がし終わった後でも千夏はなかなか寝付いてくれなかった。源さんたちがいなくなったあとのおれの雰囲気が重くなってしまっていたことも千夏は気付いていたのだろう。ここ数日はあまり楽しい会話もなかった。久しぶりにお出かけというはしゃいでも許されるイベントが発生したのだ。気分が無理に高揚してしまったからといって責める気はない。
おれは一緒に添い寝をしながらいろんな話をしてあげた。
「にいちゃんの話を聞かせて?」
「また?前も話しただろ、大学の話は。」
「じゃあ、もっと前、兄ちゃんが子供の時だったころの話!」
「そうだなぁ、小さい時は宇宙飛行士になりたかったかなぁ。そんでいつか地球を見たいなぁって」
「千夏は博士になるの!」
「へえ、そうなんだ。博士ってなんの研究をするの?」
「お薬の研究をするの!それでいつでもどこでもみんなが元気に暮らせるように支えるの!それで毒で傷ついた人達を助けるの。」
このように世界が変わってしまったことはどれほど千夏の将来の可能性を奪ってしまったのだろうか。まだこんなに小さいのに自分でできることがないかをいつも探そうとしている。
「薬作る人かー。じゃあおれも年を取ったら千夏に助けてもらおうかな。」
そうこう話をしているうちにようやく千夏の瞼がうつろうつろしてきている頃だった。
「...千夏、ちょっとここで待ってろ。」
庭影でなんかもの音がしたのだ。強盗か?今まで出くわしたことはないが、生活に苦しくなって他の家を襲っている奴がいてもおかしくはない。おれはいつでも千夏を背負って逃げられるように抱っこ紐を体に括り付けた。
そっと窓の外をのぞくと影が四つほど見えた。友好的か友好的でないかなど見ればすぐにわかる。ガスマスクをして武器を持っている奴らがごはんを一緒に食べに来ましたなんてことは絶対ない。おれは急いで千夏をおぶって裏口に回った。幸いまだ存在に気付いていることはばれていない。二人で急いで裏口から出ると、畑のあぜ道を通り、茂みに逃げ込んだ。
ガシャーンという音とともにドアが蹴り破られる音がする。そしてその数分後、おれたちの家は爆発音とともに炎に包まれた。背中で千夏が泣きだしている。
おれは唖然とした。これは強盗なんかじゃない。確実に俺らを殺そうとしている誰かの仕業でなければ家に火をつけることはないはずだ。千夏の泣き声に気付かれないうちに一刻も早く逃げなければならない。知っている一番確実にこの山から出る道を駆け抜けていった。
まだ夜は暗かったし、足元はよく見えなかった。だいぶ歩いたが、一応となり山まで移動できたはずだ。ここら辺一体は全体的に高度が高く、ガスに触れずに複数の山を行き来すること自体はできるはずだ。もちろん谷や、標高の低いところに毒素がたまっていない保障もなく、普段であれば絶対近づかないところではある。でもそうも言っていられない。もう家にも戻れない。源さんたちが通ったと思われる道をたどりながら、別の集落を見つけるしかない。
まだぐすんぐすんと泣いている千夏におれははっとした。あまりに必死過ぎてほとんど声をかけてあげれていなかった。
「おうちが...燃えちゃった。」
千夏は目を必死にぬぐいながらも嗚咽をあげる。
「大丈夫。兄ちゃんがここにいるからな。」
背中に手を回して千夏をさすってやる。
「じいちゃんたちがこっちにきたはずだから。きっとじいちゃんにもすぐ会えるぞ。」
「ほんと?じいちゃんもばあちゃんも?」
「そうだともじいちゃんたちがそう簡単にどっか行っちゃたりはしないよ。きっとまたすぐ会える。だからそれまでは兄ちゃんの背中で我慢してな。」
「千夏、強い子。兄ちゃん大丈夫?」
少しづつ千夏は落ち着きを取り戻していった。こんな小さな子では現状が把握しきれずに混乱してるに違いない。それなのに無理しておれの気遣いまでしているのをみると胸が苦しくなる。
ごめんな...千夏。こんな思いをお前にさせないことこそおれの役目だったのに。心の中で謝りながら俺はこれ以上夜道を歩くのは無理と判断し、簡易型のテントを立てると、千夏とともに転がり込んで眠りに落ちた。
次の日の朝日が昇っても体は昨夜の疲れでへとへとだった。夜なら灯りがついているところが見つけやすいだろうと安直に考えていたが、辺りは木が生い茂って暗闇そのものだった。少し目が慣れたと言っても、道があるわけでもない。結局それで休むことにしたわけだが。これからどうすれば集落を見つけることができるだろうか。持ってきた缶詰をすこし開けて軽い朝食を済ませると、再び千夏を背負いながらおれは歩き出した。
もういくつかの山を登ったり下ったりしてきたが、ほとんど人の気配はなかった。携帯も何も居場所がわかるようなものもない。猟師でもないおれは源さんたちの足跡をたどるなんて芸当ができるわけでもない。諦めにも近い気持ちに負けそうになったとき千夏が俺の肩を叩いた。
「にいちゃん、向こうがモクモクしてる。」
小さな手が指さす方を見ると確かにのろしのような煙が立ち上っていた。かまどの煙だろうか。山の古い家ならまだそのようなものが残っているのかもしれない。
「よく見つけた。行ってみよう。」
足取りは確実にさっきより軽くなった。集落であってくれと願った。かすかな希望までも裏切られたら立ち直れない気がした。
しばらく歩くと何かが焦げた匂いが辺りに充満していた。鼻と口を服で抑えながら進むとそこにはほぼ燃え切った一軒家が煙を上げながらほぼ崩れ切った形でたたずんでいた。
これはおれらと同じ被害にあった家だろうか。辺りに敵がいるかもしれないことを想定しつつ、注意しながら近づいていく。
人のいる気配はない。なにかしら痕跡があるのだろうか。だいぶ煙たいから近づくかどうか迷っていると後ろで物音がしたが、気が付いたときにはもう遅かった。布を顔に押し付けられたおれは「にいちゃん!」と叫ぶ千夏を守ることもできずただその場に倒れこむしかなかった。
目を覚ますとおれはしばりつけられていた。意識を失っていた内に食い込んでいた両腕の縄がひどく痛む。俺は首だけで精一杯後ろを振り返る。千夏はどこだ。どうやら小屋の柱の一つに括り付けられたようだ。この両腕捨てて引きちぎってでも千夏を取り返してやると決意したその時だった。バタンっとドアが開く音がする。
「おい、起きたか?」
入ってきた男のうちの一人が寄ってきた。
「千夏はどこだ。」
「そう怖い顔でにらむな。なにもしちゃあいねえよ。ほらよ。」
男は合図すると後ろに待機させていた千夏を解放した。
「にいちゃん!」
「千夏!大丈夫か!なんもひどい事されてないか?」
「うん、ちなつはだいじょぶ。」
おれはほっと胸をなでおろした。さっきまでの殺気はするすると引いていった。
「だいぶ血の気が下がったな。」
すると男はづかづかと近づいてきた。どうすることもできずにらみつけていると男はナイフを取り出し、おれの縄を切った。
「縛って悪かった。ただお前が落ち着いてからでないと新たな誤解を生みそうだったからな。今なら冷静に話を聞けるだろ?」
「ああ、さっきよりは多少な。」
おれはすれて赤くなった手首をさすりながら、千夏を後ろに隠しながら立ち上がった。警戒を解く気はまだない。
「単刀直入に言うと、俺らは地下のやつらを捕まえるための罠を張っていた。そこにお前たちが現れたもんだから万全を期して捕縛した。」
「私は地下民が子連れで来る訳ないって言ったんだけどね。」
さっき千夏を連れていた女が口を開いた。
「万が一ということがあるだろう。油断を誘っていた可能性だってあった。それにこいつは燃えている家を見ても驚いていなかった。他の場所でも家が燃やされているのを知っている素振りだった。」
そう反論すると男はもう一度俺のほうに振り向いた。
「だが誤解だったことが分かった。」
男は千夏を指差した。
「この子が一生懸命にいちゃんは悪くないって言い張るもんだからつい話を聞いてしまったら源さんの孫たちなんだって?」
おれはここで源さんの名前が出てきたことに驚いた。
「源さんたちがここに来たのか?」
ならおれらのたどった道は間違いではなかったのだ。
「ああ、ふらりと隣の山から来たといって俺らの集落に現れたよ。そしてほかのじじいやばばあとあれだこれや話してたよ。最終的にこれで冬が超えられるってすっげえ笑顔でさ。なんかおれがなんかしてあげたわけじゃないのにすごい役に立ったのがうれしくなったんだ。」
「それで源さんたちは今どこに?」
男たちの顔が曇る。
「それが連れ去れたんだ。集落ごと焼かれたその隙に乗じて他の数人と共にな。」
「その男たちはガスマスクをつけていたのか?」
おれは家が焼かれた光景を思い出す。
「そうだ。地上の生き残りでガスマスクをつけて歩いている奴なんていない。そしてよく考えた結果、目的は定かではないが地下に逃げた野郎どもの仕業だという結論にたどり着いた。見たところお前の家も燃やされたんだろう?」
「そうだ。源さんたちを待っていた家で突然襲われてかろうじて逃げてきた。どうして地下の奴らが俺らをわざわざ襲う必要がある?存在を隠した方がよっぽど安全なのではないか。」
「そんなことがおれらにわかるはずがない。はっきりしてるのはおれらは村を焼かれ、連れ去られたひとがいるという事だ。だから今度はこっちから煙を立てて人がいるかのように見せかけておびき寄せようとしたわけだ。」
「そしてそれをおれ達が見つけたと。」
「そうだ。」
源さんたちがようやく見つかったと思っていたのに奈落の底に落とされたようだった。居場所が分かってもどうすることもできない。でもそこでおれはふっと思った。
「お前たちはこれまでに地下の奴らを捕まえることはできたのか?」
「いや、奴らに出くわして予備のガスマスクが入った荷物を奪うことは一回できたんだがよ。不覚にも逃げられちまった。」
「そうか。」
大体考えがまとまってきた。源さんたちを救うためになにができるのか。無謀だとしてもやるしかないんだ。
「おれに考えがある。」
そうしておれはあの時にしてみれば壮大な計画をたて始めた。組織的な力に対抗して交渉するためにはこちらも組織力を持たねばならない。個人単位では話を聞いてもらうどころか、逆に幽閉されてしまうのがおちだ。
おれはあの日出会った数人らとともに周辺の集落を大規模に捜索し始めた。半信半疑であった連中も途中でうまくいき始めると積極的に協力してくれるようになった。あの日俺を捕まえたリーダー格の岩下誠也はおれより年下だった。その後はよくおれの頼みを聞いてくれている。一緒にいた土屋ミキはいまだに年齢は教えてくれてない。でも誠也や他の仲間と同様、組織立ち上げのために多大な尽力をしてくれた。
そして周辺の集落すべての協力を得るという目標は達成できた。規模としては数百人。じじばば子供もたくさんいて、実際に組織として活動してくれているのは50人てとこだ。
表向きとしては助け合って生きていくことだった。実際源さんたちがやろうとしていたこともこういう事だったんだと思う。おかげで食べるものについての心配はだいぶ減った。誰もが助け合わなければ生きていけないと心から感じていたんだろう。
ただ組織を立ち上げてから一番メインの活動としていたのは地下民の部隊を見張るスポットを作り、警戒するとともに隙あらば備品や荷物を奪いガスマスクなどを手に入れる事だった。書類等から重要な情報を手に入れることができることもあった。時には手荒な手段にも出た。手段を選んでる余裕は少なくても俺にはなかった。
周辺の捜索をしている過程でいくつかの測定用の機器を見つけることもできた。当然ここも絶好の監視対象エリアとなる。これらは限られた面子にしかやらせていなかった。地下の人達と敵対することには必然的に危険が伴う。なにも関係ない年寄りや子供まで巻き込むことはない。
そうしておれは生活の共同体としてももちろん役立てつつ、着々と地下と対等に渡り合うために準備をした。源さんたちを救出することを忘れたことは一日もない。ただ地上に残された人々。ガスの毒に怯え、いつまた住めなくなるか分からず精神を崩されていく人も多数いた。
おれはそういう人達を見ていられなかった。彼らの力になりたかった。
そして時間はかかったがようやくその段階を迎える時が来た。
5話目はいよいよ、地下と山上が初めて接触します。




