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紫暮れ時  作者: ジョアンド
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プロローグ

この世は地下と山上に分かれてしまった。

高度の低い地上にはもう人が住めない。残された人々もいずれ滅びる。

そんな状況でも人は争う。滅びを加速させるように。


それをつなぎ留めるのは二組の親子。

白石純也はカーテンを一気に開いた。まぶしさに目を細めながら時計に目をやると11時を指していた。昨日のバイトの疲れもあったからか結構眠っていたようだ。とりあえずテレビをつけて朝ごはんの準備をする。


「では次に早稲田大学教授の米林さんにお話を伺いましょう。どうですか最近の異常気象への見解は。」


最近のテレビは異常気象について取り上げることが多い。俺はファミレスのバイトでほとんど平日昼間家にいないからテレビもろくに見ないし、それほど世間についていけてはないけど、どうやら地球はすこし危機に面しているらしい。でも今ん所俺にダイレクトに影響を与えているわけでもないから実感がわかない。


俺は納豆をぐりぐりとかき混ぜながらごはんにかける。なにも予定がない、それだけで心は穏やかになる。


けどやっと平日が終わってやってきた土日に安心しながらも、やることがないとそれはそれでなんか物足りない。


大学では一応登山サークルには入っている。年に数回しか顔を出していないいわゆる幽霊部員だけれど、山は単純に好きだ。なぜ山を登るのかと問われたらそこに山があるからだと言ってしまいそうなくらいである。ただみんなとわいわいやるよりはふらっと山を登ったりするほうが俺には合っているというだけかな。

春休みもあと二週間を切ってきたし、大学が始まったらなかなか山に出かけることもできなくなるかもしれない。そう思った俺は思いたったかのように朝飯の洗い物を終えるとロッカーからカバンを引っ張り出し、いそいそと荷物の準備を始めた。



<><><><><><><><><><><><><><><><><><><



水原あさみは露骨に不機嫌な顔をしながら大学の研究室に向かっていた。私はちょうど大学院に進学し一年を終えようとしていた。地殻の温度の変化やそれに伴う影響を研究する教授のもとでお手伝いをさせていただいているわけだが、今日は土曜だし本来ならば大学にでなくても良い日だ。なのに突然教授から研究員全員に一斉送信で緊急招集の連絡が朝入った。運悪く携帯を見てしまった私は今こうして電車に揺られている。


 まったくなんで休みの日までよびだされないといけないのよ。


ぶつぶつ文句を言い続けながらもようやく大学にたどりついた。連絡が朝来たということもあって着いた時はまだ半数程度しか集まっていなかった。


「今日ってなんで招集されたんですか」私は助教の吉田さんに尋ねた。


「僕もあまり詳しくはわからないけど、なにか予想外のデータがでてきたと聞いてるけど。」


そうこう噂ばかりが飛び交いながら30分ほどするとほぼ全員が集合した。


「おはよう諸君」


ドアをバタンと開いて教授が部屋に入ってきた。


「君たちに集まってもらったのは他でもない、地球が前代未聞の危機に直面していることが判明したからだ。」


ざわざわと空気がざわめく。ついに教授もイカれたか?


「これを見てくれ。」


教授の指示とともにプロジェクターがグラフを映し出した。


「今までの観測の結果地殻の温度が上昇してるという事実はみんな知っているね」


それはそうだ、だって地殻の温度上昇こそがこの研究室の研究テーマなんだから。


「私が立てたその原因の仮説も理解しているね。念のためにもう一度言っておくと、地球規模のエネルギーのフローが存在していて、生命なども含めて地殻深くから地表に向けて目に見えないが何かしらの流れが起こっていると考える。しかし人類がコンクリートやアスファルトでありとあらゆる地表を固めてしまったことでその流れがせき止められている。それで地表にでてこれなくなったエネルギーが地下にたまり、地殻の温度を押し上げている。そこまではいいな。」


一区切りをおいてさらに教授は続ける。


「ここからは一部の研究員にしか知らせていないことだが、この温度上昇によってある特定の有害物質が地表に漏れ出してきていることが判明したのだ。この物質はいずれ地表付近に充満し、地上は人類にとって生息不可能な土地になる。」


突拍子もない話だった。だれもが半信半疑で聞いていた。


「君たちが理解しきれないのも無理はない。だがこれらのデータを見てくれ。」


映し出されたのは私たちでも知っているある有害な物質とその発生源であった。


「現状では数か所からの噴出しか確認されていないが、大規模な噴出が始まれば一気に汚染が進む可能性もある。事態は一刻を争っている。」


みんなもようやく教授がふざけているわけではないことを感じ取ったようだ。ざわめきがさらに大きくなっていく。それにつられて教授も声を張り上げていく。


「この危機に面し、政府は地下に重要な施設を移転する計画をすでに国家機密として打ち立てており、ほとんど完成している。我々の研究室もこの現象をとり扱っていることでその保護を受けられることになった。」


「それでは他の国民はどうなるのですか?見殺しにするんですか?」


初めて誰かが教授の話をさえぎって発言した。すると教授の横に立っていた女性の方が口を開いた。


「取り残された人々には標高の高い所へ避難していただきます。そして地下の設備が拡張でき次第呼び入れることになっています。決して見捨てるわけではありません。大事なことは指揮系統が破壊されきらないことです。今避難しなければ研究も続けられず、一生この温度上昇の停止や有害物質の対策をすることができないまま人類が滅びることになります。そしてこれはすでに決定事項です。覆ることはありません。」


その女性の言葉には有無を言わせぬ強さがあった。自分たちが安全に避難できる状況で誰があえて反論できようか。


「ありがとう冴子君。彼女は政府から派遣された腕ききの秘書だ。これから政府とのやりとりは彼女を通して行ってもらう。」


彼女についての説明を終えると教授は部屋を大きく見渡した。


「全員が移転してくれることを期待している。あと念のためだがこの情報は民間人には発表されないことになっている。もし地下シェルター枠から漏れたくないんだったら固く口を結んでおくことだ。」


納得できていない人も一定数いたが大多数の人に押し切られて全員が地下に移転することが決まった。


「移転はここから一週間以内に行う。それまでにみな地上から立ち退く準備をしておいてくれ。」


私は正直あまり自体が呑み込めていないうちの一人だった。家に帰ってからもなにからすればいいのかも分からなかった。まずは親に連絡?どうやったら誤解を生まずにしかも秘密にしておいてもらえるのか。口頭では説明のしようがない。


よし。…決めた。まずは山に登ろう。


ふざけてるわけじゃない。私は田舎育ちだ。さんざん学校の裏山とかにのぼってきた。親に叱られたとき、彼氏に振られた時、落ち込んだ時私は必ず夜明けに山に登って朝日を眺めた。そうするとなんとなくやることが見えてくる。


うん、そうだ。太陽だってもう見れなくなるかもしれない。私はすっとパソコンを開き車で行ける範囲の朝日を拝めそうな山を検索した。



長編を初めて書きました。ジョアンドです。


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