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23/30

大切な兄さん

翌日はこの繁華街全体の休業日で人通りは少なかった。

正直実はまだたくさんの人がいる所は苦手なため、私にはありがたい。

ちょうど、この繁華街に他にどんなお店があるのか見てみたいという気持ちもあったので、今日は魔法を使って移動せず、のんびりと歩いて食事処へ行くことにした。

もう昼前だというのに、人はほとんどいない。

皆それぞれがお休みを満喫しているのだろう。とてもいいことだ。

何人かの町人に声をかけられるたび、きちんと立ち止まって挨拶をする。

友好的なこの町の人々のことを私は好きになりかけていた。

また、歩き出す。

すると、物陰で私の様子を伺っていた人物もまた同じように歩き出した。

さっきからこれの繰り返しだ。

最初は気のせいかとも思っていたけど、挨拶のために立ち止まると追い越すこともなく私が再び歩き出すまで、物陰に隠れている。

明らかにつけられていた。

魔女である私をつけ狙うなんて、良い度胸をしている。

でも、さすがに頭にきた。

振り返ると、一気に相手との間合いをつめた。

「あなた、誰?私に何の用なの?」

いきなり目の前に銀髪の長い髪の女があらわれたんだ。

誰でも驚くだろう。

実際、その人物は私に驚いて腰を抜かしていた。

私のことをつけていたのは、一人の女性だった。

年はユウタよりも少し下くらいかな……。

まだ幼さの残る顔は少し肉がついていて愛嬌がある。

「あなたは……?」

まさか女性が犯人だったとは思わなかった。

女性はすぐに立ち上がると、私をキッと睨みつける。

「いくら天使様って言ったって、兄さんを誘惑するのは許しませんからね!!!」

兄さん……?

誰のことが分からずに首を傾げる。

私の周りにいる男性といえば、ユウタとウィル……。

ウィルを誘惑なんてするわけないし、何だったらリボンをつけてプレゼントをしてあげたいくらいだ。

となると、まさかユウタ……?

ありうる。

だって、少しの間この繁華街に住んでいたのだから、私の知らない所でこの子と仲良くなってお付き合いしていたとしたら……。

嫉妬とも悲しみともいえないごちゃごちゃとした気持ちが私の中で蠢く。

ユウタのことを祝福してあげたいし、ユウタの幸せをなによりも願っているが、まさか異世界で恋人を作るなんて……。こんなことなら、私が立候補しておけば……。

「あの。」

一人で固まって自問自答している私を不思議に思ったのか、女性はまた私に話しかける。

「あなた、ユウタとどんな関係なの……?」

意を決して、尋ねる。

これでもし、ユウタとこの子が恋人同士だとしたら、素直に祝福しよう。

あ、そうだ。ユウタを異世界に返す計画を白紙にしないといけない。

この子と付き合っているのなら、離れ離れになるのはなんとも悲しいことだ。

一人でうんうん頷いていると、女性はぽかんとした顔で言った。

「ユウタって、兄さんのお店で働いている人のことですよね……?」

「あなたのいう“兄さん”って、ユウタのことじゃないの?」

「違います。」

自分の心配が杞憂に終わったことに安堵したのと同時に、女性のいう兄さんの正体が分かった。

マスターのことだ。

「私、マスターに誘惑なんてしてないよ……?言いにくいけど、ユウタのほうがかっこいいし。」

後半はぼそぼそと小声になってしまった。

自分の気持ちを認めたとはいうものの、言葉に出すのはまだ恥ずかしい。

顔が赤くなる感じがする。

「何いってるんですか!兄さんだって、かっこいいですよ!」

「え?」

今度は目の前の女性が顔を赤くした。




「突然、天使様に失礼なことを言って申し訳ありません。私はクラテールと言います。兄さん……グリトとは近所に住んでいて、幼い頃から兄弟のように育ちました。」

クラテールさんは真面目に私に謝罪をしてくれたが、それよりもマスターの名前がグリトということを今、初めてしった。

そういえば、名乗ってもらった覚えが無かった。

「小さい頃からのんびりしてて、人が良くて、すぐにドジをする兄さんのお目付け役が私です。だから、兄さんに言い寄る女が現れたら、兄さんに相応しいか私が判断してやろうと……そう、意気込んでました。天使様を巻き込んでしまって、本当にすみません。」

「クラテールさんって、マスターのこと好きなの?」

今までしっかりと目を見て話してくれていたが、そういうと顔を反らしてしまった。

耳が赤くなっているのが分かる。

「ち、違います。」

私と同じで自覚しているのを認めたくないようだ。

その気持ちよくわかる。

……ひらめいた。

「クラテールさん、もしよければマスターのお店で働かない?」

「私がですか……?でも、接客なんてしたことないし、無理ですっ。」

「でも、お店で働いたらマスターに悪い虫が来た時すぐに追い払えるし。」

顔の前で、全力で振っていた両手の動きが止まる。

「なにより、マスターとずっと一緒にいられるよ。」

「……考えておきます。」

了承ともとれる返事を聞いた私はにやりと笑い、彼女の手を引いて、食事処へと駆けていった。





23→に、さん→にーさん→兄さん

です。

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