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06:魔王サマ、概略を知る


一騒動治まったところで、フードの人改め隠者殿が最初に示した選択肢の通りようやく場所を移して朝食を頂きながら説明を受けることになった。

事前に用意されていたらしい食事が乗った円形テーブルを、三人仲良く囲うようにして配置された椅子に座っている。


「まずは確認だね。ボクの勝手な推論によるお姉さんの望みは、第一に『元の世界に帰ること』。第二、もしくはついでの望みが『召喚を計画した側に何かしらの罰を与えること』あたりと見ているんだけど、どう?当たってるでしょ?」


訊くという姿勢を取っているけれど、彼は自分の考えを間違っているとは欠片も思っていないように見えた。

まぁ細かい違いはあれど、大筋に違いはないので首肯しておく。細かい違いというのは、第二の望みのほうで、『可能であれば元凶の馬鹿王子と、命令かもしれんが召喚術を行使した術者とか諌めなかった周りの人間を片っ端から殴り飛ばしたい』である。少なくとも元凶の馬鹿王子は一発といわず気が済むまでボコボコにしてやりたい。


そのあたり言葉で仔細を語らなかったのは、単純にサンドイッチを咀嚼している最中なので口を開きたくとも開けなかったからだ。


「うんうん、そうだよねー。元の場所に帰りたいよねぇ。でもそれを実現するには召喚した術者当人が必要なんだ。というのも、ちょっとこの国の召喚術が、なのか、当人がそうしたのかわからないけれど、ボクの知ってるモノと完全には一致しないんだよね。その辺聞いておかないと、困ったことになると思うんだ。というわけで、キミの第一の望みとついでに第二の望みも叶えるには、オウジサマのいる場所に行く必要がある。お姉さんを呼び寄せた術者は、よくオウジサマの近くにいる人だからね」

「ジェレマイア・ヘイスティングス殿のことを言っているのなら、殿下の側近だ。お側にいることが多いのもその肩書き故だろう」

「そうそう、ヘイスティング様。でもあの人は側近っていうより、オウジサマをうまく掌で転がしてる感じがするなぁ」

「……確かに、あの方は殿下を表舞台に立たせるための人形のようにしか思っていないだろうな。自分が殿下より上だと思っておられるような節がある」


口の中のモノがなくなったところでフルーツに手を伸ばす。こちらの世界の食生活は、地球上のそれらと変わらないように思った。今手にとったのも林檎の味がした。


実のところ、話は半分程度しか聞いてない。

いやだって、隠者殿早口だし。よくついていけるな『隊長殿』。ちょっと感心した。

とりあえず召喚したヤツが誰かというのは二人とも知っているらしいということだけ理解しておけばよくないかなと思った。


「まぁ、彼のことは今は置いておこう。それで、えーっと、隊長殿の話だとオウジサマは殺しちゃいたいんだっけ?」

「国を思えば邪魔だと言っただけだ」

「それで最悪死んでも構わないって?大差ない気がするんだけど。まぁいいや。隊長殿はそういうけど、ボクは勿論オウジサマの死なんて望んじゃいないよ。あぁ、さっきのお姉さんの第二の希望である罰が死だというならお手伝いくらいするけどね」


顔が見えないからなのか、隠者殿の口と手はよく動くようになっているらしい。話の合間にもちょこちょこ動いていた。ついでに首もよく動く。なのにフードはずれることなく顔を覆っている。鼻先がちらりと見えるくらいだ。なんでここまで顔を隠したいんだろうな、このひとは。

観察と食事しかしていない私に構うことなく彼は更に言葉を紡ぐ。


「ともあれ、ボクの目的の話ね。ボクとしては今回の召喚術の扱いについて物申したいわけだな。世界が違うとはいえ同じく言語を解する人間を、玩具みたいに扱うのが許せないんだ」


隠者殿の唯一見える口は笑みの形を取っている。だというのに、それはなんとなく良い意味合いの笑みではない気がした。


「神の使いだのなんだのと崇め奉るなら、まだしも、ね。利用されるのに変わりないから腹は立つけど。よりによって、わざわざ異世界とかわけわかんないとこ連れてこられて、挙句赤の他人の英雄譚を実現させる為に死ねってさ。お前逆の立場だったら納得するのかよ、って思うじゃない?オレはそう思う。こっちが何をしたわけでもないのに、ふざけんなよ、そっちが死ねよ、ってなるよね。まぁ殺してあげるほうが慈悲かな、どっちかっていうとじわじわ苦痛で死ぬ方向でお願いしたよね。精神も折っておきたいなぁ。もう殺してくれって懇願してるやつをギリギリのところで生かしながらさぁ」


だんだんと話の方向がおかしくなっていく。初めのほうは同じことを考える人間がいてよかったという程度のものだったのに、途中から咀嚼すらことすら忘れてしまった。

ごめんな、私まだそこまで憎しみ持ってないんだ。

何か口を挟むべきかと悩みつつ口の中のモノを飲み込んだところで、『隊長殿』が呆れたような声で嗜めた。


「話が逸れるにしても、何故そういう物騒な方向に行くんだ」

「ははっ、ごめんごめん。ちょっと行き過ぎたね!気にしないで!」


途端に隠者殿の声が数段高くなる。話すうちにどんどん低くなっていたのだと、それによって気づかされた。

多分このひとキャラ作ってるんだろうな。隠者殿(ハーミット)より道化師(クラウン)のほうが合ってたんじゃないだろうか。


「えーっと、どこまで話したっけ?」

「要約すると、術師殿は二度と召喚術を悪用されないように殿下側の人間の心を折っておきたいということか」

「そうそう、そんな感じ!つまりはさぁ、ボクらの敵は一緒なわけだ。隊長殿はオウジサマにしか言及してないみたいだけど、取り巻きだって潰しておいたほうが好都合だよね?」

「あぁ」


私の殴りたいリスト筆頭、それが馬鹿王子と術者。術者は王子の側近ということだから、王子が王城にいるというのなら術者も王城にいるのだろう。

そして隠者殿は術者を潰しておきたくて、『隊長殿』が主に馬鹿王子を潰しておきたい。


潰したい相手()が同じ、だから行動を共にしましょう、という話か。


納得しかけて、首を傾げる。


「魔王の話はどう繋がるんだ?」

「うんうん、そこで魔王なんだよ。魔王って圧倒的な悪いほうでの力の象徴だと思うんだけど、この国でも異世界でも一緒?」


私と『隊長殿』はほとんど同じタイミングで頷いた。


「うんうん、それなら尚良かった。折角だからさ、オウジサマの妄想に乗りつつ真っ向から潰そうよ。会いたいなら乗り込めばいいんだよね、王城にさ。そんで呼び出した『魔王』が圧倒的な力を振るうところを見せ付ければ、オウジサマたちだって後悔するだろうし、召喚するモノが時には危険で個人の思い通りにならないものだって理解してもらえるでしょう?まぁ一番良いのは、『魔王』が災害的な、人智の及ばない存在だって知らしめることかな?二度とこんな馬鹿なこと考えようと思わないくらいにね」


……なるほど。まぁ、言いたいことはわからないこともない。わからないこともないが――それもまた妄想レベルじゃないか?

『魔王』役って私なんだよな?そんな人外の力なんかないからな?


首を捻りつつ口を開きかけたが、『隊長殿』が先に声をあげた。


「あなたは知らないのかもしれないが、おそらく殿下は自分が勝てる存在としてこの女を呼び寄せている。そんな災害となり得るほどの強力な力などない、ただの口の悪い女でしかないぞ」


ついに『この女』扱いか。明らかに悪意あるその言葉に気づかないと思ってるのか、こいつ。てめぇも殴るリストに入れるぞ、クソ男。


「あぁ、大丈夫大丈夫。『力』に関してはボクが担当するからさ」


こちらの機嫌が急降下したことに気づいているのかいないのか、あっけらかんと隠者殿が応えた。


「お姉さんに望むのは『魔王』として表に立ってもらうことだけ。口が悪くて結構!気弱じゃないお姉さん最高!むしろ『魔王』なんだからもっと威圧とかやってほしいかな!」


ぐっと拳を掲げて見せる隠者殿に、思わず口が引きつった。威圧とかどうやってやるんだ。

次いで『隊長殿』に顔を向け、隠者殿はこてりと首を傾げる。


「で、隊長殿に望むのは、んー、お姉さんの保護とその他支援、かな。ボク、もともとあっち側にいたわけだし、これからもあっちと繋がっておきたいし、それでお姉さんのことまでっていうのはさすがにボクひとりじゃ難しいから。それに隊長殿の人脈はボクにはないものだからね。ボクにこの国の人との繋がりなんてほぼ無いからね!」


力説するところはそこなのか。

おどけたように両手を広げてみせた隠者殿に心の中で突っ込みを入れる私とは違い、『隊長殿』は考え込むように顎に手をやった。


「『力』を担当するということは、あなたが『災害』に成れる、と?」


隠者殿は、「お?」と小さく呟き、広げた両手を握って開く。それから一度大きく頷いた。


「あぁ、この国では知られていないのかな」


もったいぶるように一呼吸置いた後、ことさらゆっくり、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


()()()()()()、っていうのはね、ひとりで国を滅ぼすくらい簡単なんだよ。それこそ、災害を自力で引き起こせる存在のことを言うんだ」


魔術師、というのは、初めて出た言葉のような気がする。話し方からして召喚術を扱う人間のことを示しているようには思えなかった。


「とは言っても、ボクはまだその域にまで達してないけどね!言わば見習いってところかなぁ?さすがにこの国結構大きいし、そこまで出来ないよ!ボクにはね!まぁでもお馬鹿なオウジサマの心折るくらいなら余裕だから安心してね!ついでに本当に『災害』が必要になったら伝手もあるからね!」


早口に戻った隠者殿の言葉に物騒なものが混じるのには気づかない振りをしておくことにした。



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